
参院選の総括がまとまった9月2日、石破首相を支えてきた森山裕幹事長ら党四役が相次いで辞意を表明した。石破首相は続投の意向を改めて表明したものの、2日を機に一気に求心力が下がったのは事実だ。
総裁選前倒しについての意思確認の期日は8日。永田町では雪崩のように「石破おろし」が加速し始めた。
前倒し派がやや優勢か…「勝ち馬」ドミノが一気に
「幹事長の職を退任させていただきたい」
2日、両院議員総会が終わりに差しかかったころ、森山氏が辞意を申し出ると、石破首相は少し驚いたような表情をみせたという。
ただ、森山氏は進退について石破首相に預けるとした。石破首相は記者団からの取材に「余人を持って代えがたい」と語り、いまだ森山氏の辞任には至っていない。
「森山氏は党内外に幅広い人脈をもち、少数与党の政権運営にはなくてはならない存在。森山氏に辞任されたら、政権運営は早々に行き詰まってしまう。石破首相は森山氏を必死に慰留しているようだ」(全国紙政治部記者)
森山氏は一時「国民の世論と党内の世論が乖離しているとすれば、非常に怖いことだ」と、石破おろしをけん制していたが、辞意を表明したことで、石破首相とは少し距離ができる形に。さらにほかの党四役も相次いで辞意を明らかにした。
党四役が辞任した場合、石破首相には党役員人事をするほどの体力も残っていなさそうだ。
「ただでさえ党内に仲間が少ない石破首相を、この局面で党四役として支えようという議員はなかなかいない。人事ができず、身動きをとれずに追い込まれていくのでは」(自民関係者)
実際、すでに石破首相の包囲網はできつつある。
総裁選の前倒しには、国会議員295人と都道府県連の代表者47人の総数の過半数にあたる172人の賛成が必要だ。
「石破首相自らが、政務三役が総裁選前倒しを求める場合でも役職を辞任する必要はないと明言。これまでは大半の政務三役が総裁選前倒しへの考えを明らかにしてこなかったが、これで前倒しに賛成しやすくなる。党四役が辞意を表明したことで『国政が停滞している状況を転換する』という理由付けもしやすくなった」(全国紙政治部記者)
さらに、3日には麻生太郎最高顧問が総裁選前倒しを求めることを明言するなど、前倒し派が勢いを増しつつあることで、総裁選前倒しを求めるほうが「勝ち馬」に乗ることになる、との心理もはたらきそうだ。
首相擁護派は「うちだけ恥をかく」と押され気味
防戦に徹する石破首相は両院議員総会で「地位に恋々とするものではない。しがみつくつもりも全くない」「しかるべき時にきちんとした決断をする」と、いずれ退陣を決断する可能性を示唆した。
だがいっぽうで、記者団の取材には「国民がやってほしいことに全力を尽くす」と続投への意欲も変わらず強調した。
「いずれ退陣する意向をにじませることで『なんとか前倒し総裁選は勘弁してくれ』というお願いでは。実際に『しかるべき時に決断』発言を受けて、『いずれ退陣するつもりなら、急いで石破首相を引きずりおろさなくてもいい』という考えに傾いた議員もいる。
石破首相にとっては前倒し総裁選さえ回避できれば、国民には一定程度続投を容認されながらも退陣した、ということでなんとか体裁が保てる可能性も出てくる」(自民関係者)
ただ、そんな思惑とは裏腹に、続投に意欲をみせる石破首相への反発もみられる。
「参院選直後の『米国との関税交渉の合意までは続けたい』という思いは、国益のためにも理解できたが、その後も賃上げや防災のような長期的な課題に取り組むことを明言し、しばらく辞めるつもりがないことが分かった。総裁選前倒しのタイミングで辞めてもらうしかないだろう」(自民議員)
こうした流れにあらがう石破擁護派。
「何をしてくるか分からない」 解散総選挙の憶測も流れ、疑心暗鬼の党内
こうしたなか、前倒し派、石破擁護派双方ともに警戒しているのが、政権運営に行き詰まった石破首相による「ヤケクソ解散」だ。
党内からは「退陣を迫られるなか、頼みの綱は自身の続投を容認する世論だけ。意固地になってヤケクソで解散することだけはやめてほしい」と警戒する声が漏れる。
というのも、石破首相は先月、郵政解散をした小泉純一郎元首相とも会談し、党内からは「自分の意に反した総裁選前倒しが行なわれることになったら解散する、との脅しでは」との推測も出ているからだ。
「今の石破政権にさすがに解散するほどの体力はないだろう」との見方も出るいっぽう、「衆院選と参院選で負けても退陣しない首相だから、何をしてくるか分からない」と疑心暗鬼の声も漏れている。
「しかるべき時」に決断し、自ら首相の座を降りるのか。史上初の総裁リコールを受けてしまうのか。それとも、解散という大勝負に出るのか……。8日に向け、続投にこだわる首相と、石破おろしに向け多数派工作に動く議員らとの攻防は続く。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班