
『ホンマでっか!?TV』など多くのメディアに出演し、 “バズーカ岡田”の愛称で知られる日本体育大学教授・岡田隆。ボディビルダーでもある彼は「成長とは、睡眠を削ってでも体を限界まで追い込むことで得られるもの」という厳しい考えのもと、激しい運動と充分な栄養補給の重要性を説いてきた。
鶏肉・筋トレ・研究しかない毎日!!
――ボディメイクに関する著作が累計100万部を超えていますが、もともと筋肉に興味を持ったきっかけは?
岡田隆(以下同) アーノルド・シュワルツェネッガーですよ。少年時代に見たアーノルドの映画『コマンドー』がきっかけでした。当時、同級生にはシルヴェスター・スタローン派の方が多くて、なぜデカい方(アーノルド)を好まないのか全く理解できませんでした(笑)。
――そこからどのように筋トレの道に?
大学教員になったあと、生徒に「一緒にトレーニングをしてください」と頼まれたのが始まりです。暗くて狭くて空調もない体育館の倉庫を借り、自費で器具を買い足し、生徒に指導しているうちに「ボディビルには体づくりのすべてが詰まっている」「学びの鉱脈がここにある」と感じはじめました。
学術研究から得られた科学的知見を実践者として活かしたいという思いもあり、30歳をすぎてから遅すぎるボディビルへの挑戦がスタートしました。
──当時はどのような生活だったのでしょうか。
職場が日本体育大学にかわってから、筋トレ合宿を大学院生の教え子と2年間続けました。毎日約2kgの鶏肉を約300gずつ、2-3時間ごとに1日7回食べていました。合計8時間のトレーニングを2回に分けてこなしていた時期もあります。鶏肉・筋トレ・研究(仕事)しかしない毎日でしたね。
仕事を終えて、夜遅くから「トレーニングするか!」と言って、夜中の3時ぐらいになることもあり。本当にムチャをしていましたね。
おかげで骨格筋評論家・バズーカ岡田として『ホンマでっか!?TV』など多くのメディアに出演させていただき、仕事の幅や影響力が広がったのでよかったです。
睡眠を削ることで帳尻を合わせるのが当たり前
――これまで「運動」と「栄養」に全集中するトレーニング環境で生きてこられてきたわけですが、ここにきて急に「筋トレの要は休養だ!」と価値観が変わりました。筋トレ愛好家もびっくりしていると思います。
そうなんですよ。体づくりの三本柱は「運動・栄養・休養」であるにもかかわらず、休養の重要性を過小評価していたことに気がついたんですよね。未熟な自分が恥ずかしい。
これまで多忙なときには睡眠を削ることで帳尻を合わせるのが当たり前でした。凡庸な自分は活動時間を増やして、量で勝負しようと。忙しければ、寝なければいい。寝られるときに眠ればいい。そう思い込んでいました。
私だけでなく仕事をしながら目標を持ってトレーニングしている人は、休養を削りやすい傾向があると思います。特に若ければ若いほど睡眠時間を削っても、それなりに頑張ることができますから。
しかし、それでは日々の健康と最高のパフォーマンスを実現できないわけです。休息は怠けでなく人類にとっての必須項目なのです。
――休養の重要性を強く感じた瞬間は?
脂肪燃焼を促していた減量シーズンのことです。ジムのトレッドミルでウォーキングをしていると、息の上がり方が異様でした。
ほぼ毎日通っているジムなので室内環境や機種の違いによるものではありませんし、栄養面もほぼ毎日同じもの、同じ栄養素と量を食べているので、栄養学的な問題とは考えにくい。一体何がそうさせるのか。その原因が睡眠不足だったわけです。減量期という余力がない状態にあったことで、この問題を浮立たせることができたわけです。
思い起こせば、これまでも日によって同じ重さのバーベルなのに、「今日は重いな」など重さの感覚が違うことがありました。そのたびに「そんなものは軟弱な思考である」と断じて一蹴していたのですが、どれだけ運動と栄養を最適化しても、睡眠不足ですべてが崩れてしまっていたのでしょう。
フレッシュな脳ありきのトレーニング
――休息をしっかり取るようになって、どんな変化が?
私自身の傾向やデータを見ると、やはり前日の睡眠の量によってトレーニングのパフォーマンスとそもそものモチベーションが大きく左右されることがわかってきました。
寝具にこだわり、枕、マットレス、シーツ、掛け布団類を整え、寝室のカーテンやライト、空調や香りに至るまで整え、良質な眠りを追求しました。
その成果として、40歳を超えてプロボディビル世界選手権のマスターズ(WNBF World Bodybuilding Championships Pro-Masters Bodybuilding)で優勝することができました。
――体に休養が必要なのはイメージしやすいですが、「筋肉を成長させるためには脳を休めろ」とも説いていますね。
トレーニングにおいて脳を休ませることが重要なのは、体の動きをコントロールし、緻密な動きを実現し、筋肉に最大出力を求めるためには、脳からの精密な指令が不可欠だからです。そして脳の疲労を除去するためには結局のところ睡眠しかありません。
例えば、バランスをとるのが難しいブルガリアンスクワット(※片足を後方のベンチに乗せて行う片足スクワット)を、脳が疲れていない午前中にすると、仕事で疲弊した夜よりもバランスがとりやすいと私は感じます。
私たちのトレーニングはすべてにおいて「脳がはじまりであり、結果を作る」と考えるべきだと私は提言します。
睡眠学習法ならぬ、睡眠ダイエット法!
――岡田さんの主張には「寝ると体が絞れる」ともあります……。ホントですか?
もちろんです。まず寝ている間は当然ながら食事を摂ることができません。よく眠るほど脂肪の元となる余計なカロリー、そして特に現代人が過多になりやすい脂肪を摂取する機会を自然と減らすことができます。「ポジティブな機会損失」と表現してもよいでしょう。
さらに、睡眠時に分泌される成長ホルモンには体脂肪の分解を促進する役割があります。
逆に睡眠不足の状態では活力の低下から日中の活動量が減少する可能性があり、体脂肪を減少させる機会が失われていきます。地味な要素ですが日常生活の中で消費できるカロリーは少なくないため、除脂肪を進める上で無視できない要素です。
――睡眠時間の目安はありますか?
健康維持の最低ラインとしては、6時間を下回らないこと。トレーニングをしている場合は、7時間以上はとってほしいですね。
私自身驚いているのですが、意外な落とし穴がありました。7時間布団に入ることを心がけ、枕もベッドも寝具として肌に触れるものも妥協なく整えたのに、毎朝目覚めて、疲れが抜けておらず、すっきりしないという状況が続きました。
睡眠の専門医に相談し、検査をすると、「3分に1回首を絞められているような状態です」と睡眠時無呼吸症候群を告げられたのです。体作りをしている自分に限ってそんなはずはないと思ってたので絶句しました。
専門医によると、傾向として首が太い人が発症しやすいそうです。それは肥満の限りではなくボディビルダーやアスリートなど鍛え上げた結果としての太さでも起こりやすいとのことでした。
――最後に読者に向けて一言お願いします!
勉強でも仕事でも、自ら強い意志を持って取り組むものには誰もが価値を見出しやすいです。だから「休日返上で働く」「睡眠時間を削って勉強する」「忙しいから真夜中にジムに行く」といった行動が、不断の努力として輝いて見え、美談となります。
そして反対に「休む」「寝る」といった行動に「ただの怠け」「努力していない」という印象を抱きがちです。しかし本当に大事なのは、成長(リターン)を最大化すること。休息は怠けではなく人類にとっての必須項目なのです。
寝ることで脳機能を正常に回復させ、日々の健康と最高のパフォーマンスを大事にしてくださいね。
取材・文/全夏潤 インタビュー写真/わけとく 写真提供/岡田隆
<プロフィール>
岡田隆(おかだ たかし)
1980年愛知県田原市生まれ、東京都練馬区育ち。日本体育大学教授/博士(体育科学)/理学療法士/ボディビルダー(WNBFプロマスターズ世界一)/骨格筋評論家(バズーカ岡田)。トレーニング科学、スポーツ医学を専門的に学び、身体づくりのスペシャリストとして活動している。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」など様々なメディアに「骨格筋評論家バズーカ岡田」として出演し、YouTube「新・バズーカ岡田チャンネル」などSNS総フォロワーは約50万人。『除脂肪メソッド』(ベース・ボールマガジン社)、『無敵の筋トレ食』および『最高の除脂肪食』(以上、ポプラ社) 、『世界一細かすぎる筋トレ図鑑』(小学館)など著書多数。
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岡田 隆