
石破茂首相が退陣を表明し、本格的に号砲が鳴らされた自民党総裁選。さっそく茂木敏充前幹事長が立候補を表明し、高市早苗前経済安保相、林芳正官房長官、小林鷹之元経済安保相など、前回の総裁選に出馬した面々が出馬に向けて動いているとされている。
進次郎氏の巧みなアピールが奏功「キングメーカー」争いも激化
進次郎氏は総裁選前倒しの意思確認を控えた9月6日、公邸を訪れ、菅義偉元首相とともに石破首相に面会。「党の分裂は避けるべきだ」として、石破首相に自発的に退陣するよう促した。
「進次郎氏はそれまで総裁選前倒しへの賛否を明らかにすることがなかったため、石破擁護派にも反石破派にも敵を作りませんでした。『党の分裂や解散を阻止してくれた』と党内での注目度が高まっています」(全国紙政治部記者)
もっとも、石破氏への「引導渡し」は進次郎氏の巧みな“戦略”ともみられている。
「政局が大きく動く時期に、首相公邸の出入り口を記者が張っているのは承知のうえ。記者にばれないルートで公邸に入ることもできたが、あえてマスコミに分かるように菅元首相とともに公邸入りしたので、進次郎氏自身への関心を集めるためのアピールでもありました」(同)
そうした“戦略”が奏功し、進次郎氏への注目度は急上昇。とくに浮足立っているのが若手・中堅議員だ。今の若手・中堅は自民党が安泰だった安倍政権下での選挙ばかりを経験していたため、逆風が吹いた昨年・今年の選挙では見事に動揺。そのため、「進次郎氏が応援に来てくれれば、厳しい情勢をひっくり返してくれる。とにかく選挙の顔としてありがたい」と、進次郎氏への期待論が高まっているのだ。
前回総裁選で明らかになった進次郎氏の弱点克服は
こうした「進次郎氏総理」誕生に向けた動きを前に、「キングメーカー」争いも本格化し始めた。重鎮たちにとっては、進次郎氏が「勝ち馬」かどうかを見極めたうえで、新たな首相誕生の立役者となっていかに影響力を持てるかどうかがポイントとなる。
「進次郎総理が誕生した場合の『陰の総理』の筆頭格は菅元首相です。菅氏は維新との関係が深く、少数与党下での政権運営で維新に協力を求めることも考えられます」(自民関係者)
そのほかの重鎮たちも、自らが影響力を持とうと進次郎氏に食指を伸ばしている。
「仮に高市氏と進次郎氏の決戦投票になった場合、タカ派色の強い高市氏を警戒する岸田文雄前首相も進次郎氏に乗るとみられています。決選投票で旧派閥がまとまって勝ち馬に乗れば、経験が浅く党内をまとめるのに不安が残る進次郎氏に対し、影響力を与えることができます」(同)
ただ、進次郎氏にも総裁の座をつかみとるまでのハードルはある。まず、党員の支持数だ。前回総裁選の党員票は、進次郎氏が61票だったのに対し高市氏が109票と、圧倒的な差をつけられた。
「高齢者の多い自民党員からは、若い進次郎氏では頼りなく見えてしまい、支持を集めにくい。さらに今回は、参院選で参政党が躍進し、自民党から右派票が逃げたとの危機感もある。そういった点を考慮すると、高市氏に票が集まりやすいのでは」(自民議員)
前回、108票の党員票を集めた石破首相の票の行方も焦点だ。
「石破氏が主に集めていたのは地方の党員票。農業に従事する有権者から支持を集めた党員も多く、小泉農水相の農業政策には反発もある。石破氏と小泉氏は本人同士の関係は近いですが、小泉氏が石破氏の票を取り込むことは決して簡単ではありません」(全国紙政治部記者)
「温存カード」に回され、今回は選ばれない可能性も…?
また、「進次郎構文」で知られる論戦力不足も課題だ。
「今回も進次郎氏が戦いの軸となれば、他候補は討論会で進次郎氏に論戦を仕掛ける場面が多くなるだろう。そこで化けの皮がはがれてしまうおそれがある」(自民関係者)
農水相としてはそつなく会見をこなし、備蓄米の放出でも一定の成果をみせたが、首相となると外交や財政、政治とカネなど、そのときどきの課題全てへの答弁が求められる。
「昨年の総裁選からの1年でどこまで成長できたのか。1度ならず2度も論戦力不足を露呈すると、今後の政治家としての立ち位置にも影響しかねず、総理候補どころではなくなるかもしれない」(同)
そして最後に、皮肉にも「進次郎氏以外に自民党の解党的出直しを実現できそうな人材がいない」ということが進次郎氏を総理総裁の座から遠ざけてしまう可能性もあるという。
「今の少数与党下の自民党では、誰が総理になっても厳しい状況は続く。国民人気の高い石破氏を総理にしても、自民党は選挙で勝てなかったし、経験の浅い進次郎氏で現在の国会を乗り切れるのか不安だろう。
“進次郎総理”がコケたら、次の“持ち駒”がなくなる。衆院選はまだしばらくやらなくていいのだし、進次郎カードは自民党の党勢を回復できそうで、衆院選がありそうなタイミングまで温存しておきたいという心理もはたらいている」(自民議員)
進次郎氏にとって、総理になれる可能性もあるが、総理候補どころではなくなるリスクもはらむ今度の総裁選。前回の総裁選で掲げたスローガン「決着」を今度こそつけることができるか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班