「ものまね芸人が苦手」それでも原口あきまさが守りたい居場所…SNS全盛時代がくれた“ものまね四天王”以来のブームの予感
「ものまね芸人が苦手」それでも原口あきまさが守りたい居場所…SNS全盛時代がくれた“ものまね四天王”以来のブームの予感

今年9月から15年ぶりの単独ライブを開催する芸人・原口あきまさ。東京公演では、かつて「さんま&タモリ」のものまねでブレイクしたコージー冨田との十数年ぶりの共演も予定している。

現在、糖尿病で闘病中で視力もほとんどなくなったコージーとの久々の共演に懸ける思いとは。(全3回の3回目)

ものまね芸人が苦手な男が切り拓くものまねの未来

90年代後半にしゃべりものまねでブレイクした原口だが、現在のものまね業界は歌まねが主流になっている。

「歌まねは特にそうですが、今はより本人に近づけさせて(似ていることが)評価される時代だなと思います。でも本来ものまねって、もっと違う見せ方があったよね、と思うんです。もちろん技術として再現性は必要ですけど、その先に笑いがなければ僕は満足できない。

そこで満足できる人と、一歩、二歩先に行かないと満足しないタイプがいて。たぶん、僕や神奈月さん、キンタロー。なんかは後者ですね(笑)」

かつて、活弁士や銀幕スターなど幅広いジャンルの声真似をする「声帯模写」を生み出した古川ロッパが、同じく芸人の白山雅一が始めた歌謡声帯模写を聴いて「まともすぎて、聴いていて疲れる。もっとデフォルメして笑えるようにやれ」と伝えたというエピソードがあるが、昭和初期から続くしゃべりものまねと歌まねの断絶は、今も根深いのだろうか。原口は少し笑って、意外な本音を明かす。

「そう見られがちですよね。ただ、僕に限定していえば、そもそも、ものまね芸人が苦手なんですよ(笑)。

『え、そこイジったら駄目なんだ?』って、沸点がわからなくて。たとえば、河村隆一さんのものまねをする、たむたむがやっている、萩本欽一さんのものまねが僕は大好きなんです。

でも、HRF(原口あきまさロックフェス)というライブをやったときに『好きな番号を言われたらその番号に合いそうな仮装大賞のタイトルを言う』という無茶ぶり大喜利をやってもらったことがあって。

僕らは『12番、線香花火』だけで笑うのに、たむたむは考えすぎちゃって、語呂の悪い長いタイトルを言っちゃうんですね。それを僕がツッコんで笑いにしていたんですけど、終わってから袖でたむたむが『あれでよかったんですか?』『なんで笑いになるのかわからないです』って言うんですよ。

『ああ、歌まねの人とはここまで畑が違うんだな』って驚きました。最近、髪が薄くなってきたことをイジるのもNGみたいで、奥さんの沙羅に『そこイジらないでください』って止められましたから(笑)」

ものまねをジャンルにした“ものまね四天王”のすごさ

『HRF』はものまね芸人のホリと企画・主催していたライブ『変人』がひと段落した原口が、2023年からスタートさせた、ジャンルを問わないコラボフェスだ。とはいえ、その中心はやはりものまね芸人たちで、歌まね勢をゲストに招くときは、まず人となりを確認しているという。

「時代だから歌まねは見せたいんです。でも『イジってキレられたらどうしよう』って不安があるので、まずは食事会を開きますね。それで、大丈夫そうだなと確信してからオファー(笑)。こっちはOKでも、向こうが『本当はやりたくなかった』っていうのが一番イヤなので、歌まねの人に無茶ぶりをするのは本当に勇気がいるんです。

人間関係でバチバチになることはやっぱりあるんですよ。

こっちがよかれと思ってやったことでも、ネガティブに捉えられていろいろ言われると、その人のためになってないなら僕のせいだし、それは申し訳ないと思って身を引きます」

ものまね芸人が苦手。それでも、原口には守りたいものまねの居場所がある。

「やっぱり(ものまね)四天王(清水アキラ・ビジーフォー〈グッチ裕三モト冬樹〉・栗田貫一・コロッケ)は、ものまねをお笑い界のひとつのジャンルにしたことがすごい。わずか数年という短い期間でがんばって、芸能界の中にひと枠を作ってくれました。

それを僕らの世代が消すわけにはいかないです。今はコロナ期間の動画配信ブームもあって、顔を隠して気兼ねなくものまねができるようになったので、ものまね人口も増えている気がしますね」

かつて、ものまねは、おもしろ素人がスターになる足掛かりだった。とんねるず竹中直人、のちにものまね四天王となるコロッケや清水アキラを輩出した『お笑いスター誕生!!』だけでなく、素人ものまね番組も数多く存在した。ショート動画の需要が飛躍的に増したSNS時代の到来による、その原点回帰の空気も感じている。

「本当にそう思います。だから、僕らみたいな珍獣は、またやりやすくなっているんですよ(笑)。若い人たちには自分たちの世代のものをどんどんやって引っ張っていってほしいです。ただ、最近のものまね芸人は“ご本人公認”を求めすぎているんじゃないかとも思うんですよ。


みんな『公認いただきました』って喜んでいるけど、僕は『お前、なに俺の真似やってくれてんだよ!』と言ってくれるほうがやりやすい。公認をもらうと守りに入っちゃうし、下手にスベれないですから」

ものまねの本人公認・非公認問題

どれだけ派手に誇張をしていても、「リスペクトしてます」を免罪符にするものまね芸人も少なくない。

「『リスペクトしてます』って言っとけばいい、みたいなのもやめろやって(千原)ジュニアさんにも言われますし(笑)、ケンコバ(ケンドーコバヤシ)さんは頑なに『俺のものまねだけは似てへん』って言い続けてくれます。それを周りが『いや、似てますよ』『似てへん!』ってやりとりを楽しんでくれていて。

だから、もしご本人にお会いしたら土下座してそれっきり。あとは、なるべく会わないようにこそこそ生きていくのが一番なんですよ。ちなみに、今度の30周年ライブでは、公認とは別に、ご本人さんに謝りに行くロケ企画をやろうかなと思っているんです。誰のところに行くかは内緒ですけど、楽しみにしていてください」

現在、原口は芸能生活30周年を記念した、15年ぶりの単独ライブ『我夢謝裸(がむしゃら)』の準備中だ。福岡公演に松村邦洋江頭2:50、大阪公演にロバート秋山と兼光タカシ、そして東京公演には清水ミチコとコージー冨田など、豪華なゲストも予定されている。

「なるべく今まで絡んでない人と一緒にやりたいと思ってお願いをしたんですが、東京公演では久々に“コージー&原口”を見たいかなと思って、コージー冨田さんにお声がけしました。ABEMAのコージーさんのドキュメントを見たんですが、あんなに(糖尿病が)悪くなっているとは思ってなかった。

でもステージで奮闘してる姿を見て、ちょっとでも力になれるならと思ったんです。

ちょうどジョニー志村さんのタモリさんに、さんまさんにもほい(けんた)さんが出てきて、ひと昔前のさんま&タモリ(原口とコージー)が、今のさんま&タモリをどう見ているか話すのも面白いんじゃないかって。僕らならもうネタ合わせなしでできますから」

コージー冨田との本格的な共演は十数年ぶりだという。現在、コージーは糖尿病を患い、6年前からほとんど目も見えない状態というのだが、この2人ならば、決してただのお涙頂戴にはならないだろう。

「ドキュメント番組で見たんですけど、コージーさん用のステージのバミリ(立ち位置となる目印)がめちゃくちゃ大きくて、笑っちゃったんです。これもイジったろうかなって。ご本人も『笑いにしたい』と言っているみたいですし、笑いにできるのは、やっぱりこの絡みだと思うんです。

ただ、僕が“介護”みたいにならないように、コージーさんにもフルでがんばってもらいますから(笑)。もちろんいいことばかりではなかったけど、コージーさんの1000本ノックを受けたから今があると思いますし、こうやってものまねで憑依してしゃべれているのも、あの鍛錬のおかげだと思ってます。だから、そこは本当に恩返しの気持ちですね」

取材・文/森野広明 撮影/石垣星児 

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