
2リーグ制以降、史上最速でリーグ優勝を果たした阪神タイガース。投打に隙のない戦いぶりでセ・5球団を圧倒したが、2年ぶりの「日本一」をつかみ取るためには、クライマックスシリーズと日本シリーズという2つの短期決戦を勝ち抜く必要がある。
史上最速Vが逆に仇となる可能性も…
9月7日、優勝マジックを1とした阪神は本拠地甲子園に広島を迎え、2‐0で勝利。2年ぶり7度目のリーグ優勝を決めた。9月7日での優勝決定は1990年の巨人の記録を抜き、2リーグ制になってから史上最速。優勝決定時点で2位の巨人に17ゲーム差をつける、歴史的な独走Vだった。
一方、阪神優勝決定前後には、今年もまたこんな議論が沸き上がっている。それが「クライマックスシリーズ(CS)問題」だ。2007年に両リーグで導入(パ・リーグは2004年からプレーオフを先んじて導入)されて以降、19年目を迎えるが、今季の阪神のように特定の球団が独走で優勝を決めるたびに、その在り方が議論されてきた。
特に今季のセ・リーグは優勝決定時点で阪神以外の5球団が勝率5割を切る異常事態。このままレギュラーシーズンが終われば、結果次第では「借金を作ったチームが日本シリーズに進出」という可能性もありえる。
リーグ優勝チームには本拠地開催と1勝のアドバンテージが与えられるが、たとえば昨季はシーズン3位のDeNAがCSを突破し、日本シリーズに進出、日本一となった。この時も「CS問題」は大きな話題となった。
もちろん、CSはNPBが定めたルールであり、阪神が2年ぶりの日本一を目指すためには当然乗り越えなければいけないハードルだ。
まず気になるのが、「実戦感」だ。今季のCSファイナルは10月15日から甲子園で開催されるが、「優勝決定」から計算すると1カ月以上も間隔が空くことになる。レギュラーシーズンはまだ続くが、阪神にとっての残りゲームはすでに順位が確定した後の「消化試合」という側面もある。
一方、CS進出を目指す他球団は、現時点で進出確定球団が出ていない混戦状態。シーズン終盤まで「負けられない」ヒリヒリした実戦を戦い、さらに10月11日からのCSファーストステージを経てファイナルに乗り込んでくる。
これまでも優勝チームが「待ちの状態」になる日程上の問題はたびたび指摘されてきたが、「史上最速」で優勝を決めた今季の阪神は例年以上にその影響をもろに受けることになる。
意外な難敵!? CS進出してほしくないあの球団
ただ、阪神は2023年にも9月18日にリーグ優勝を決め、CSファイナルでも広島を相手に3連勝。危なげなく日本シリーズ進出を決めて球団史上2度目の日本一へと繋げてみせた。今季の主力はそのほとんどが2年前の日本一を経験しているメンバーだけに、過去の経験を活かしてCSまでに万全のコンディションを整える準備もできている。
そのうえで、CSファイナルに上がってきた場合に「怖い」球団といえば、やはり中日になるだろうか。今季の阪神はセ・リーグ各球団に対して圧倒的な強さを見せたが、優勝決定時点で唯一、中日戦だけは10勝10敗の五分。先発投手で言うと柳裕也が2先発で防御率1.50、涌井秀章が3先発で同2.00、松葉貴大が3先発で同1.42と苦手としている。
ただ、阪神は優勝決定時点で中日との対戦を5試合残しており、なおかつそのすべてが甲子園での開催。CSを見据えるのであれば、この5試合で最低でも勝ち越し、できれば圧倒的な強さを見せつけておきたい。シーズン終盤にしっかりと勝っておけば中日に「やはり甲子園では阪神に勝てない」というイメージを植え付けることができるからだ。
さらに気をつけたいのが、選手のコンディショニングだ。今季の阪神は目立った故障者もなく、シーズン通してほぼ固定メンバーで戦うことができた。特に打線は1~5番をしっかりと固め、「得点パターン」を確立。
ただ、裏を返せばCSまでの1カ月強でレギュラーメンバーに「アクシデント」が起きると、盤石の得点パターンに歪みが生じる恐れがある。前述した「実戦感」はキープしつつも、決して無理をし過ぎず、シーズン終盤~CS開催までの期間で適度に休養を取ることも必要かもしれない。
これに関しては選手本人だけでなく、藤川球児監督のマネジメントも重要になってくるだろう。ただ、藤川監督は今季、主力メンバーは固定しつつも一軍で55人を起用(9月7日時点)するなど、有事への備えもしっかりと整えてきた。もちろん、離脱者が出ないことが理想だが、「何かがあった」場合こそ、藤川監督の腕の見せ所と言えるかもしれない。
「短期決戦の鬼」が語るCSのポイント
143試合を戦うレギュラーシーズンと違い、CS、日本シリーズは短期決戦。
では、その「流れ」を逃がさないために必要なことは何か――。かつてソフトバンクでCS、日本シリーズで無類の強さを誇り、「短期決戦の鬼」と称された内川聖一氏はポストシーズンのポイントについて昨年のCS前にこう話していた。
「短期決戦は切り替えが大事と言いますけど、勝っても負けても終わりなのでむしろ『切り替えやすい』と割り切ることも大切です。開き直りとは少し違う感覚で、たとえば1つ2つ負けても焦らない。
打者目線で言うと、1戦目でひとりの先発投手に完璧に抑え込まれたとします。でも、その投手はおそらくCS期間中はもう投げてこない。打てなかったことを気にするのではなく、次の試合でどう打つかを考える。そうすれば、結果はついてきやすいと思います」
藤川監督は優勝インタビューで「我々がリーグチャンピオンです。クライマックスシリーズというのは別のステージになります。
地力が、セ・リーグで頭ひとつ、ふたつ抜けていることはすでに実証済み。リスクも、懸念点もあるCSではあるが、阪神がここからの1カ月強、どんな戦いを見せるのか――。すでに独走で優勝を決めている「2025年の阪神タイガース」から、まだまだ目が離せない。
取材・文/花田雪