K-POPアイドル1強時代の終わり、日本型アイドル再ブームのなぜ? 韓国の報道と日本の流行から見えるもの
K-POPアイドル1強時代の終わり、日本型アイドル再ブームのなぜ? 韓国の報道と日本の流行から見えるもの

「日本アイドルはオワコン、女性アイドルといえば韓国」……SNSでは数年前から、このような意見が増えていた。しかし、現在はまた状況が変わっている。メンバーカラーやフリフリ衣装、カワイイ路線といった、典型的な日本型のアイドルが復権しているのだ。いったいなぜなのか。 

比較される日韓のアイドル

K-POPでは2010年代末から第4世代といわれるさまざまなグループが誕生し、LE SSERAFIM、NewJeans(NJZ)、aespa、IVEなど、日本でも多くのグループが人気を博している。韓国のオーディション番組を輸入したフォーマット、メンバーは日本人だが事務所やプロデューサーが韓国系というパターンも定着した。

日韓合同のプロジェクトから誕生し、韓国のJ.Y.Parkプロデュースで2020年に結成したNiziUはデビュー前から社会現象を巻き起こした。

いっぽうで、2010年から2019年までオリコンシングル年間ランキング1位を獲得し続ける“年代制覇”という前人未到の記録を成し遂げたAKB48や姉妹グループの人気はひと段落を見せていた。

こうした状況の変化や、K-POPアイドルの洗練されたイメージから、ネット上では「アイドルといえばK-POP」「日本のアイドルはオワコン」といった声も散見されるようになった。ただ、K-POPの日本市場は、むしろ落ち込んでいるというデータもある。

韓国関税庁の輸出入貿易統計によると、2024年の日本向けK-POP CD輸出額は、前年比で24.7%も減少。全体の輸出額も、前年比0.55%アップと10年ぶりの横ばいに留まった。

これには、韓国メディアすら以下のように伝えている。本国ではより危機感を持って「成長鈍化」と捉えていることがわかるだろう。

〈輸出不振に歌手・所属事務所紛争…1年でバブルはじけたK-POP〉(中央日報、2024年12月30日配信)

〈K-POP成長に急ブレーキ 昨年アルバム輸出停滞・販売数減少〉(聯合ニュース、1月16日配信)

〈K-POPの成長に陰り 1年で終焉した「CD年間販売」1億枚〉(朝鮮日報、1月29日配信)

〈K-POP危機論…BTS・SEVENTEEN・BLACKPINKの復帰は答か?〉(ハンギョレ新聞、4月22日配信)

また、朝鮮日報の記事では、音楽配信サービス・Spotifyのグローバル累積ストリーミング回数上位2500曲内で、昨年までにランクインしたK-POPはBTSとBLACKPINKのグループ曲・ソロ曲、計25曲のみだと紹介している。

日本アイドルの快進撃

他国でも、「危機」「衰退」という直接的な表現で、K-POPの現状を伝える記事が散見される。曲がり角に来ているのは、日本市場に限らないようだ。

〈K-Pop in crisis? Around 93m albums were sold in South Korea in 2024 – 23m fewer than in 2023(危機的状況にあるK-POP? 2024年の韓国におけるアルバム販売枚数は約9300万枚で、2023年より2300万枚減少)〉(Music Business Worldwide、2月5日配信)

〈‘It’s ended up being nothing to no one’: can K-pop overcome crisis?(「結局、誰にとっても何の意味も持たなくなった」:K-POPは危機に打ち勝つことができるのか?)〉(The Guardian、3月27日配信)

〈K-POPガールズグループの衰退:BlackPinkのような黄金時代は終わったのか?〉(Vietnam.vn – Nền tảng quảng bá Việt Nam 、7月2日配信)

〈K-POPの衰退、多くの小規模グループが解散〉(Vietnam.vn – Nền tảng quảng bá Việt Nam 、8月11日配信)

また、K-POPの歴史を作ったといわれる韓国大手芸能事務所・SM ENTERTAINMENTの日本法人は、8月4日に発表した決算で、2025年12月期第2四半期累計の売上高が前年同期比6.3%減、連結経常利益は同56.7%減。一般的なイメージほど、K-POP業界が絶好調というわけではなさそうだ。

こうしたなか、現在のアイドルシーンで復権してきているのが、メンバーカラーやフリフリ衣装、公式も用いる愛称、ハーフツインやツインテールなどの髪型、大きな髪飾りといった、一般的に“アイドルといえば”でイメージされるような日本型のアイドルだ。

その筆頭といっていいのが、アソビシステムのプロジェクト『KAWAII LAB.』(通称・カワラボ)の各グループだ。なかでも、2022年にプロジェクト第1号として誕生した7人組・FRUITS ZIPPER(通称・ふるっぱー)は、時代を創っているといっていい。

FRUITS ZIPPERは2022年4月に配信したシングル『わたしの一番かわいいところ』がTikTokで大バズリし、総再生回数は今年3月時点で30億回を突破。同世代の若い女性を中心に支持を広げ、ストリーミング総再生回数も累計1.5億回を突破し、2023年の第65回日本レコード大賞で最優秀新人賞を受賞した。

8月3日には、2026年2月にグループ初となる単独での東京ドーム公演を行なうことも発表され、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いといっていい。

カワラボからはその後も、CANDY TUNE、SWEET STEADYなどの新グループが誕生し、次々とブレイク。2024年8月にデビューしたCUTIE STREETは、デビュー曲『かわいいだけじゃだめですか?』がいきなりTikTok総再生回数66億回を突破。

Z世代を対象としたシンクタンク・Z総研の「2025年上半期 Z世代が選ぶトレンドランキング 流行ったアイドル」の調査結果でも、FRUITS ZIPPER、CUTIE STREET、CANDY TUNEが1位~3位を独占している。

ももいろクローバーZの後輩にあたる『超ときめき♡宣伝部』(通称・とき宣)も、現在のアイドルシーンを代表するひと組に数えられる。

「TikTokなどをきっかけに日本のアイドルも」

とき宣は2021年春頃、過去にリリースした『すきっ!』が時を越えてTikTokでバズり、現メンバーでリアレンジした『すきっ!~超ver~』は昨年5月までの総再生回数が30億回を突破。昨年リリースの『最上級にかわいいの!』は同12億回、『超最強』も同20億回と快進撃を続け、大手企業の広告にも多数起用されている。 

上記のグループは「日本のアイドル」でイメージするような特徴を持ち、一般の層が韓国のアイドルグループに抱くであろう印象とは一線を画す。

こうして見ると、日本のアイドルは「オワコン」どころか大流行しているように見えるが、その要因は何なのだろうか。

アイドルを対象とした研究を行なう慶應義塾大学非常勤講師・上岡磨奈氏は、「日本のアイドルはK-POPと対立関係にあるとは考えていません」としながら、日本型アイドルの復権についてはTikTokの影響が強いと語る。

「学生たちにとって『アイドル』といえばK-POPが先に連想されるという実感がありますが、TikTokなどをきっかけに日本のアイドルも印象づけられていると思います。TikTokでアイドルの楽曲が流行れば、アイドルファン以外にも幅広く知られることになりますし、それを見込んだ楽曲作りや振り付けも主流です。『とき宣』や『ふるっぱー』のヒットも、TikTokでの影響が強いでしょう」

今やTikTokはトレンドの発信源と化しており、上岡氏も日常的に学生と接する立場から、若者の流行が多く生まれている印象を持つという。

そのTikTokは特性上、耳に残る楽曲や真似しやすい振り付けが流行しやすい。ブームがここから生まれやすい時勢をふまえれば、TikTokにターゲットを合わせた日本型アイドルの戦略は有効だと言える。

他方で、K-POPアイドルは厳しいダンスレッスンを積む育成システムで知られており、パフォーマンスがハイレベルだとしてファンになる層も多い。ただ、難解な振り付けは未経験者が真似るハードルも高く、動画投稿といった拡散力や“バズ”の形成では不利に働いているのかもしれない。

上岡氏はさらに、「今の学生たちは、『アイドル』や『オタク』といった言葉にかつてのようなネガティブなイメージはほとんどありません」とも指摘する。この点は、特に40代以上と顕著に異なる価値観だそうで、「メンバーカラー文化も、TikTokやInstagramで見る“推し活”の風景に影響を受け、ファンでなくてもやってみたいと思わせる、そんなきっかけが広がっているように感じています」と述べている。

若い世代はアイドル文化に抵抗がなく、積極的に受け入れている。そして日本型アイドルの真似しやすいパフォーマンスがTikTokなどのSNSを通じて広がり、ブームに発展していく。

勢いを取り戻した日本のアイドルグループの魅力に、触れてみてはいかがだろうか。

取材・文/久保慎

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