
学歴詐称疑惑が拡大し、市議会から全会一致の不信任を議決された静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)が9月10日、かねて支持者に宣言していた通り市議会を解散した。田久保市長は、準備した人事案などが市議会の“早すぎる不信任”で審議されなかったため、議会のあり方について信を問うと主張している。
しかし最近は昼すぎに帰宅するなど公務をほとんどこなさず、固まった人事案など存在しないのではと記者に会見で突っ込まれると、猛反論した。
「怒りしかない」「市民ファーストよりも自分ファースト」
この日午前10時に市議会の中島弘道議長と青木敬博副議長との面会のアポを取った田久保市長は、定刻より2分早く正副議長の部屋に入り、書面を読み上げた。
「令和7年9月1日、貴職から、令和7年伊東市議会9月定例会において私に対する不信任案の決議をした旨の通知がありましたので、地方自治法第178条第1項の規定に基づき、令和7年9月10日、議会を解散するため通知をいたします」
読み上げを終えた書面が中島氏に手渡された9時59分、市議会は解散され、中島氏は「前議長」となった。
市長が部屋を出た後、中島氏は「この大義なき解散に怒りしかありません」と話した。
前副議長となった青木氏も、来年度の予算編成に影響が避けられなくなったことを挙げ、「6万4000人の市民生活よりも、また、皆さんが汗水垂らして働いて稼いだ4500万円というお金を使って選挙を行なうっていうことで、市民ファーストよりも自分ファーストなんだなっていう印象です」と怒りを隠さなかった。
このやりとりの直後に市長室に戻った田久保市長は、解散通知を議長にしたと自身のXにポスト。
〈伊東市政の改革と刷新の為、そして地域を守る為に引き続き全力で尽くして参ります〉
と書いて自撮り写真もアップした。
その後の記者会見では通知書に書かれていない「解散の理由」が焦点になった。
今回の混乱は、東洋大学を卒業したとの学歴を詐称した疑惑が発端だ。市長は偽の卒業証書を使い、学歴を偽ったと市議会調査特別委員会(百条委)は断定。百条委の調査も妨害したとして市議会は田久保市長を地方自治法違反容疑で刑事告発し、市政混乱の責任を問い不信任を議決した。
その議会を解散する大義があるのか。田久保市長は会見の冒頭、9月議会では決算や補正予算を準備し、空席の教育長を含めた人事案の承認を最終日に予定していたが、議会初日に不信任が議決され審議ができなくなったために解散を決めた、と解散理由について話している。
「市民生活において大変重要な議会審議や採決が議会初日をもって放棄されてしまったという事実は事実として冷静に受け止め、判断し、これは改めて広く市民の皆様に信を問うべきであると考えました」
不信任の議決が最終日に行なわれていたなら辞職も考えたとして市議会による不信任の“時期”が問題だったと強調し、「信を問いたい一番」は市議会だと会見の最後に発言。市議会が今のままでいいのか、有権者の審判をもう一度仰いでこい、との主張だ。
「非常に私としては遺憾でございます」
だがこの言い分はおかしいとの指摘が伊東市政を日常的に取材している地元記者から上がった。
「教育長の人事案が決まっている状況にはまったくないと、市の幹部は言っている」
「市長は昨日は昼の2時すぎにはもう帰った。庁舎にあまりいないというケースが多い。予算(案の提出)が滞っている理由は市長がきちっと公務をしていないからだという見方もある」
人事案や予算案というものはそもそも存在せず、市長はまともに公務をしていないのではないかと記者は問いたかったのだろう。市職員からの取材成果として、能力や意欲、存在理由にまで疑問を投げかけるような質問がされると、田久保市長は表情を目まぐるしく変えながら、猛反論を開始。
「私のせいで何か非常に滞って予算が進んでいないということはないと考えています」
「そのような言われをすることには非常に私としては遺憾でございます」
「私としては事実とは異なることだと思っておりますので、そのような報道については差し控えをしていただきたい」
たびたび「訂正をさせてもらいたい」と前置きをしながら「人事案は決定ではなくて調整を進めているということです」などと述べた。
この“訂正”という言葉だが、田久保市長は自分の言葉についてではなく、“言ってもいないことをメディアが曲解している”との認識のもとに、記者の発言を正すという意味で使っている。
しかし、田久保市長は冒頭で「非常に大切な人事案が(議会の)最終日に予定をされておりました」と明言し、決定した人事案が存在するかのように説明している。事実と違うことを述べ、違うと指摘を受けると、記者の受け取めに問題があると言い返す形だ。
「支持者を少しでも多く市議選に擁立しようと時間を稼いだのでは?」
そもそも田久保市長は議会開会前の8月には支持者に「9月10日に市議会を解散し、10月19日に出直し市議選を行なう」と“スケジュール”を伝えている。
予定通りの9月10日の解散は、不信任議決から9日後だ。
9日間をどう考えるのか聞かれた田久保市長は、「そこを非常に言うとあれなんですが」としどろもどろになり、「投票所の関係とかスケジュールの関係もございます。私としてはある程度の意向は固めた上で、行政とも相談をしてまいりましたが、その中で1番最適な日付を選んだ」と答えた。
商工関係者は解散を遅らせた狙いを「市議会で味方を増やすため、支持者を少しでも多く市議選に擁立しようと時間を稼いだのだと思います」と推測する。
「市議選には田久保さんの支持者であることを隠して立候補する“ステルス田久保派”も出てくる可能性があります」(同関係者)
田久保市長は会見冒頭で「改革の火は決して消してはならない」とぶち上げながら、「新しい人材が議会の場で議論をし、この街の長きにわたる積年の大きな問題に果敢に挑んでいくことに期待を寄せている」と発言。
開始から40分ほど経過したところで「(解散が)1つの伊東の大きな改革につながることを信じて皆さんに信を問いたい」と言うと、一方的に会見を打ち切った。
田久保市長の思惑通りの日程で動き始めた秋の政局の結末はいかに――。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班