〈伊東市議会解散〉紫グッズを持てば「田久保派?」 田久保支持者は「大きなものが動いている」と陰謀論、「再選挙にかかる4500万円は市長が負担すべき」と怒る市民
〈伊東市議会解散〉紫グッズを持てば「田久保派?」 田久保支持者は「大きなものが動いている」と陰謀論、「再選挙にかかる4500万円は市長が負担すべき」と怒る市民

静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)の学歴詐称疑惑に端を発した市政の混乱が拡大している。市議会の不信任議決に対し、田久保市長が議会解散で応じたことで10月19日に出直し市議選が行なわれることになった。

定例議会の開催期間中に失職した前市議らは、再選と再度の市長不信任議決を目指すとみられる。いっぽう、田久保市長の支持者らは市議会に足場を築いて2回目の不信任議決の阻止を図りたい考えだ。 

辞任を求める署名1万158筆を代表者が市長に提示

「解散に大義はないですよ。田久保市長と市議会は政策で対立していたのでもありません。学歴詐称疑惑への対処で田久保さんが一度表明した辞意を撤回したことなどを見て、不信感が高まり、議会が“辞めてほしい”と求めたことに対して解散で応じたんですから」

9月10日午前、田久保市長が市議会の正副議長に議会の解散を通知した直後、市議会のそばで前市議の一人がそう語った。この日、市議会の日程はなかったが、田久保市長が解散を表明するのではと聞いて議会に駆けつけたという。

この前市議は、「市政の正常化と安定化をするために必ず(選挙に勝って議会に)戻ってきたいです」と続けた。

市議会が不信任決議案を全会一致で可決するより前の8月27日、伊東市の市民の代表者が田久保市長の辞任を求める市民の署名1万158筆を市長に提示している。

ただ、地方自治法では地方の首長のリコール(解職請求)は公職者の就任から1年はできない規定になっており、有権者が直接辞任を求めるすべはない。

そこで市の中からは「伊東市長・田久保眞紀氏のリコールを求める会」の名でこの規定が妥当かどうかの議論を呼びかけるオンライン署名運動も起きている。

会の関係者は「1年以内に地方自治法を改正できるとは思っていないが、こうした活動で辞職を促しながら法の欠点の改善につなげたい」と説明。「本来辞職すべき田久保市長が辞めず議会を解散した。意味のない市議選にかかる約4500万円の公費支出は不当で、これを田久保市長個人に負担させるべきだとする監査請求を考えている」と話している。

「市民やマスコミが大騒ぎしていることが楽しいだけなんじゃない?」

この監査請求の方針は当初、市長による議会解散を阻止するための牽制の手段として浮上し、市民の有志が議会解散を避ける申し入れも行なっていた。だが結局市長は解散に打って出た。

この状況について、「彼女の性格から考えても解散は予想通りだったので特に驚きはありませんね」と話すのは前出とは別の前市議だ。市議選の構図をこう解説する。

「選挙で田久保市長は最低7人は自分側の市議を当選させておきたいわけです。定数20人の市議会で次にもう一回不信任案が可決されれば田久保市長は今度こそ失職です。しかし不信任案は定数の3分の2以上の議員の出席で採決が可能になります。ここで3分の1を超える7人の議員が『お腹が痛い』などと言って欠席すれば採決できなくなるわけです。それが狙いなのでしょう。

伊東市民が見ても誰が田久保派の立候補者かは一見ではわからないでしょうが、田久保派のかたは“信者”と言われるほど結束が固いので、田久保派であることを前面に打ち出して市議選に臨むような気がします。田久保市長と支持する人たちは打ち合わせもよくしていると聞きます」(前市議)

「反田久保派」の中には、「市長が戦略的に市政の掌握を目指している」という見方とは違う声もある。反田久保派の別の前市議はこう語る。

「田久保市長のSNSなどを見ていると、もはや自分の発言や行動で伊東市民やマスコミが大騒ぎしていることが楽しいだけなんじゃないかって見えてしまいます。

『ジョーカー』って映画あったでしょ。ジョーカーみたいなノリですよ。世間を騒がすのが楽しいだけなんじゃないか、メリットとかデメリットとかではなく田久保市長は楽しくて楽しくてしょうがないんじゃないかっていう風に見えます。

市長をいまだに応援するという人たちも確かにいますが、全国で起きていることと同じことではないですかね。陰謀論にとらわれてしまっているようなタイプのかたが多いんですよ。だから極論に持っていこうとするわけです」(反田久保派の別の前市議)

表向き、伊東の街では田久保市長に批判的な世論のほうが強そうだ。今も支持を変えないという人も、特に田久保市長が辞意を撤回してからは、人の集まる場所で田久保氏を応援するようなことを言うのは“タブー”になっていると証言する。

伊東市で商売をする、ある住民は「田久保市長は紫色が大好きでイメージカラーと認識されているんですが、最近街ではカバンとか小物とか、なにか紫色のものを持っていると“ひょっとして田久保派?”なんて冗談めかして聞いたりもします」と話す。

田久保派は「何か“大きなもの”が動いて批判一色になっている気がします」

今も田久保市長への支持は変わらないという自営業者は、「彼女は5月に当選して新図書館建設計画を止めましたが、あれはこれまでずっと続いて来たハコモノ行政の象徴なんです。止めようとしたことで、何か“大きなもの”が動いて田久保市長批判一色になっている気がします」と主張。

田久保市長の支持者は、5月の選挙で負けた前市長派の「巻き返し」が今回の騒動につながっていると認識している気配だ。

だが市議会の不信任は田久保市長を選挙で応援した共産党議員も含む全会一致での結論だ。

学歴詐称疑惑の追及を逃れようとした田久保市長の態度が事態をここまで悪化させた。

さらに市政関係者の一人は、民心は“前市長派か田久保派か”という単純なものでもないと指摘する。

「5月の市長選で街の人は田久保氏に市政を託したとは言えない。前市長の執政をだめだと思っていた者は市役所にも市議会にも多く、『前市長では何も変わらない』という思いがあって、田久保氏が勝っただけです。

その田久保派なんてもともとごく少数です。『前の市政に戻るのはいや』『田久保も絶対いや』となって“次”をさがす人も多いのではないでしょうか」

変革への期待を受けた新市長が不祥事に向き合わず、議会から退場を求められた。しかし、市長は議会を解散した。止まった市政の中で市民の失望と疲労感はいかほどか。                                  

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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