
こども家庭庁が今夏に公表したデータによれば、「放課後児童クラブ」(いわゆる学童クラブ)の登録児童数はおよそ156万人にのぼり、過去最多を更新した。背景には、物価高騰などの社会情勢の変化に伴う共働き家庭の増加がある。
学童登録児童数は過去最多に
こども家庭庁が今年7月に公表した「令和7年度 放課後児童クラブの実施状況(速報値)」によれば、登録児童数は156万8588人(前年比4万8636人増)となり、過去最多を記録した。待機児童数については前年比で673人減となったものの、依然として1万7013人にのぼった。
こうした状況を受け、こども家庭庁は文部科学省と連携し「放課後児童対策パッケージ2025」を策定。放課後の子どもの居場所確保を進めていく方針だ。
そんな中、学童クラブの利用料を無償化にした自治体がある。令和6年度から放課後児童クラブの利用料を無料とした北海道・小樽市の担当者に話を聞いた。
「これまでも保護者の方からの要望はありましたし、市長が子育て世代への支援を公約に掲げていました。その一環として放課後児童クラブの無償化(スポーツ安全保険料とおやつ代は保護者負担)を実施し、さらに今年度からは開設時間も拡大しました。
小樽市では人口流出が続いていますし、北海道では札幌を除き多くの自治体が過疎地域に指定されています。その中で『どうすれば市の子育て世帯が増えるか』と考え、このような施策を行なっています」
担当者によれば、すでに効果は見え始めているという。
「学童の登録児童数は増えています。
人件費等もかかりますし、そもそも開設時間を拡大することで現場が対応できるのかどうか、という問題にも直面します。家庭のニーズと現場のバランスをどう取るかが課題です」
「『利用料が無料と聞いてありがたく思っています』との声が寄せられることも」
神奈川県松田町でも、今年の4月より月額6000円の学童保育保護者負担金(延長利用分は除く)を無償化した。役場の担当者は次のように話した。
「松田町では『チルドレンファースト』の理念のもと、町独自の『8つのゼロ』を掲げています。そのうち、町立小・中学校給食費の無償化や第二子保育料の無償化などと並び、学童保育の負担金の無償化もその一つです。
全国的に見て子育て世帯は減少傾向にありますが、松田町でも『子育て世帯に選んでもらえるような町』を目標としています。実際、すでに利用申し込みは増えています。子育て世代の経済的負担を軽減すると共に、子ども達が安全・安心に過ごせるよう、引き続き努めていきたいです」
いっぽう、人口が増加傾向にある東京都中央区でも、長年にわたり学童利用料が無償化されてきた。区の担当者は次のように説明する。
「午後6時までの利用については無料としていますが、午後6時を過ぎての利用となる延長利用は1回あたり400 円(1月あたり5000円を上限)をお支払いいただいています。また、傷害・賠償責任保険の保険料やおやつ代は実費をご負担いただいています。
区では学童クラブ利用料の無償化はこれまでも長い間実施しており、区民の皆さんに一定程度浸透しつつあると考えています。他の自治体から転入された方から、『以前住んでいた自治体では学童クラブの利用料が有料だったので、中央区では利用料が無料と聞いてありがたく思っています』との声が寄せられることはありますね」
児童数の増加を受け、区では小学校を活用した学校内学童クラブの設置や民設民営学童クラブの誘致といった取り組みを進め、学童クラブの定員拡大を図っているところだという。
「児童クラブの法的な位置づけが構造的に貧弱」
いっぽうで、制度的な課題もある。放課後児童クラブ運営支援コンサルティングを行なう、一般社団法人あい和学童クラブ運営法人の萩原和也代表理事は次のように指摘する。
「放課後児童クラブは『放課後児童健全育成事業』を実施する場所のことですが、この事業は児童福祉法による法定事業であっても、市町村の『任意事業』であると位置づけられています。
保育所については、保育を必要とする住民が存在する限りにおいて自治体が保育の場を用意する義務があります。いっぽう、放課後児童クラブは『任意』事業ですから、実施するもしないも、市町村が事情に合わせて判断することができます。つまり『やってもやらなくてもいい』ということです。
このように児童クラブの法的な位置づけが構造的に貧弱であることが、自治体や国も、なかなか思い切った児童クラブの拡充や、まして無償化に動かない要因であると考えます」
無償化によって保護者の負担は減るものの、運営への影響もあるという。
「児童クラブの利用者の経済的負担が軽減されることは歓迎ですが、無償化によって児童クラブで行われる健全育成事業の質が損なわれてはなりません。有能な職員を確保するには、当然ながらその専門的な職務に応じた賃金設定が必要です。
しかし、無償化によって自治体が児童クラブに対して割り当てる予算の総額に影響が出るとしたら、真っ先に影響を受けるのは職員の人件費です。
さらに、今後の学童クラブの安定的な発展のためには構造的な改革も必要だという。
「児童クラブは質と量の双方において、まだまだ貧弱な構造です。児童クラブで配置が求められている『放課後児童支援員』という都道府県資格は取得のハードルが低く、本来の児童クラブにて求められる職務の専門性を裏打ちするような資格とはなっていません。
資格1つとっても位置づけや構造が弱いのです。児童クラブの世界が今後、安定して発展していくためには、現在の法定任意事業から、保育所と同等の児童福祉施設へと位置づけを変えることが最重要です」
子育て世帯の経済的負担を軽くし、人口減少対策の切り札としても注目される学童クラブの無償化だが、現場の負担などの課題もある。今後は「子育て家庭に選ばれる自治体づくり」と「持続可能な学童運営」の両立が問われていくことになりそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班