「試合でやれよ!ボケ!」最大級の圧倒的ブーイングを受けながらSareeeが突き進む令和のアントニオ猪木イズム
「試合でやれよ!ボケ!」最大級の圧倒的ブーイングを受けながらSareeeが突き進む令和のアントニオ猪木イズム

今、プロレス界で大きな話題となっているのが、女子プロレスラー・Sareeeだ。世界最大の団体「WWE」のリングも経験したSareeeは2023年4月に帰国すると、自主興行「Sareee-ISM」を継続して開催中。

フリーとしてさまざまな団体で活躍しているが、そのプロレスと言動にファンもアンチも巻き込んで大きな波を生んでいる。 

今、プロレス界で最も熱い女 

今、プロレス界で賛否が真っ二つに分かれる事態が沸騰している。震源地は、女子プロレスラーのSareeeだ。自主興行ではチケットが即日完売する絶大な人気と支持を集めながらも、今春から主戦場となった「スターダム」では、大ブーイングが浴びせられる真逆の反応が発生している。

こうした異常事態に専門週刊誌「週刊プロレス」(ベースボール・マガジン社)が「Sareeeブーイング現象を考える」と表紙に打つなど業界内外で物議をかもす存在となった。男子も含め近年のプロレス界でこれほど、反応が分かれ、ファンはもちろん、マスコミまでもが「語れる」レスラーはいない。

一体、Sareeeの何が真っ向からの賛否を沸騰させるのか。Sareee現象の背景を探ってみたい。

まず、Sareeeが絶大な人気と支持を得ていることを紹介したい。中学を卒業し「ワールド女子プロレスディアナ」に入門。2011年4月の里村明衣子戦でデビューし着実に進化を遂げて来た。デビュー10年を超えた2020年2月にアメリカの「WWE」との契約を発表。

新型コロナウイルスの影響で入団が遅れたが世界最大の団体で活躍し、2023年4月に2年あまりの契約を終え帰国すると、同年5月16日に新宿FACEで自主興行「Sareee-ISM」を開催した。



以降、すべての大会で夢の対決、豪華タッグを実現させチケットは即日完売の沸騰イベントとなり、11月10日の次回大会はカード発表なしでも即完になり絶大な人気を獲得している。昨年は、旗揚げしたばかりの「マリーゴールド」を主戦場にし7月13日の両国国技館でジュリアを破り、初代「ワールド王者」に就いた。

さまざまな団体で活躍し圧倒的な強さを見せつけ、東京スポーツ制定「プロレス大賞」(2024年度)で初の女子プロレス大賞を受賞し名実共にプロレス界のトップに君臨した。

そんな光に満ち溢れたSareeeに大きな変化が現れたのが今年だった。かねてから公言してきた尊敬するアントニオ猪木さんが創設した「IWGP」の女子ベルト獲得を目指すべく主戦場を「スターダム」に定め、4・27横浜アリーナで岩谷麻優を破りIWGP女子王座を奪取した朱里へ挑戦を表明した。

絶大な「支持」と圧倒的な「ブーイング」 

6月21日の代々木第二体育館大会で朱里に挑戦すると壮絶な激闘の末、念願のベルトを奪取した。試合後のマイクで朱里へ「こんなんでくじけんじゃねぇぞ!」と強烈なゲキを飛ばすと「IWGP女子のベルトをもっと刺激的なものにしていきます」と宣言した。

このIWGP女子王座を一発で獲得してから明らかに会場のムードが変わっていく。スターダム参戦へ挑発的で上から目線の言葉をリング上やマスコミを通じて発信していたことも影響したのか、スターダムのファンはSareeeへ明確な拒否反応を発していく。それが会場を包む「ブーイング」だった。

顕著になったのは7月27日に大田区総合体育館で開幕した最強を決めるリーグ戦「5★STAR GP」だ。小波と対戦した開幕戦では、大ブーイングが沸き起こり試合も胴締めスリーパーで捕獲されレフェリーストップで敗れた。

さらに8月11日の神戸芸術センター大会でもHANAKOを破り、試合後に抵抗する相手へ「負けてそんだけかかって来られるなら試合でやれよ!ボケ!」と罵倒するとリーグ戦の優勝を誓い「スターダムのファン、選手、覚悟しておけよ!」と挑発すると会場は大ブーイングで拒絶した。



迎えた8月16日の横浜武道館での渡辺桃との一戦で勝利すると、またもブーイングがSareeeを突き刺し騒然とするなか「絶対に優勝してみせる! みんな覚悟してろよ!」と抵抗した。

リーグ戦は8月20日の後楽園ホールでの準々決勝で桃に敗れ、3日後の23日の大田区大会で小波とIWGP王座の初防衛戦に挑み勝利。ここでもブーイングが吹き荒れ、なおも試合後のマイクで小波へ「一夜限りのヒロインだったな。お前みたいなやつが口だけっていうんだ!」と切り捨てると大ブーイングがSareeeを包んだ。

絶大な支持を受けながら「スターダム」では大ブーイングを浴びる両極端の現象は、Sareeeの絶大な存在感の証明でもあるが、ブーイングの裏側には岩谷麻優の影が影響しているように思える。

スターダムは、この数年間、「アイコン」と自他共に認める岩谷の明るさ、ひたむきなプロレス、そのリングから放つ光で会場を包む圧倒的な多幸感で隆盛を築いてきた。

その「アイコン」は朱里に敗れた横浜アリーナ大会直後に退団し5月に「マリーゴールド」へ移籍した。究極のベビーフェイスでもある岩谷が消えた直後に現れたのがSareeeだった。

「プロレスは闘いである」Sareeeが信奉するアントニオ猪木イズム  

刺激的な言葉で「スターダム」の選手を挑発する上から目線の言動、しかもリングでは、群を抜く強さを見せつけるスタイルに「スターダム」を愛するファンは、岩谷をはじめとする選手が体を張って培ってきた至福のリングを破壊される恐れを抱いている。

その拒否反応が高まり「ブーイング」という実力行使に出たのではないか。しかも「IWGP女子王座」は岩谷が2023年4月から2年間、連続9度の防衛を重ねた至宝。しかもSareeeは、昨年4月27日の横浜BUNTAIで岩谷に挑戦し敗れている。

そんなSareeeが岩谷の退団直後に王座を奪取し上から目線で過激に発していることにファンは我慢の沸点を超えたのだろう。ブーイングにはそんな「IWGP女子王座」への思いも潜んでいると考えらる。

プロレスは、ファンが幻想をふくらませリングを想像する比類なきジャンルである。ゆえに自らが大切に育んだ幻想をぶち壊す存在には明確な拒否反応を示す。

その存在が鮮烈で強大であればあるほど、反応は大きくなる。まさに今のSareeeは、「スターダム」ファンを刺激する巨人なのだ。

思えばプロレス界は、ジャイアント馬場、アントニオ猪木が対立した昭和50年代は、馬場派と猪木派でファンは論争しぶつかり合っていた。その熱が両団体を隆盛に導いた。その中で猪木は、異種格闘技戦を筆頭に独自路線を切り拓いた結果、絶大な支持を自力で獲得し、カリスマになった。

物議を醸し会場を沸騰させているSareeeは、今、昭和時代に荒野を走った猪木と同じ道を歩み始めている。

「プロレスは闘いである」

猪木が掲げた理想を信奉するSareeeに迷いはないし、ここからリングはさらに沸騰するはずだ。そして、Sareeeへのブーイング、賛否が沸騰すればするほど、極悪軍団「H.A.T.E.」を率いるワールド王者・上谷沙弥との初の一騎打ちが巨大化していく。

「Sareee VS 上谷沙弥」。誰もが予期しなかった大ブーイングの向こう側に、近年にない空前のビッグマッチが醸成されていく。

取材・文/中井浩一  

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