
デスクでサラダをつつきながら仕事を片付ける……。そんな日本では当たり前になっている「ながら食べ」をしていた著者に、パリの同僚が放ったひと言、「あのね、そうやって食べてると太るわよ」。
パリジェンヌの習慣を解説した『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全4回のうち1回目〉
「あのね、そうやって食べてると太るわよ」
入社当時、私はオープン・スペースの一角にあるデスクで仕事をしていました。そのオープン・スペースには、コーポレートPR、アシスタント、そして研修生が混ざり、ワイワイといつも賑やかな雰囲気でした。
覚えることがあまりにたくさんあって焦っていた私は、よくサンドイッチを買い込み、仕事をしながら手早く昼食をとっていました。時間がもったいなかったのです。
メディアとの会食が次第に増えてくると、今度はランチの予定がない日を利用して「太らないため」にサラダなどをテイクアウトしていました。
不思議だったのは、私のようにオフィスランチをしている同僚が全くいなかったことです。ランチ時のオープン・スペースはいつも閑散としていました。
最初のうち、それは周りのみんなが会食に忙しいからだろうと思っていたのですが、どうやらそうではないようです。ランチの約束がない研修生ですら、毎日、毎日、お昼の時間はオフィスを空けています。
ある日、いつものようにサラダを頬張りながら仕事を片付けようとしていると、オフィスを覗きに来たファッションPRのファニーが言いました。
「あのね、そうやって食べてると太るわよ」
彼女は思ったことをすぐ口にする典型的なパリジェンヌです。
「サラダが?」
と問い返すと、ファニーは呆れたように言いました。
「サラダじゃなくて。そうやって仕事しながら食べると太る、って言ってるのよ」
彼女の口調に思わずカチンと来た私ですが、ファニーは全くお構いなしです。そして「ほら、行くわよ」と無理やり私をオフィスから連れ出しました。PR仲間達も数名、ゾロゾロと集まってきます。
そう、彼女達は会食のない日、連れ立って外食していたのです。本社はもちろん、社員食堂を完備していたのですが、そこは非常に不人気で足を向ける人はあまりいません。みんなが行くのは、本社近くのビストロやカフェのような気軽な場所でした。
パリジェンヌは決して「ながら食べ」をしない
驚いたことに、ランチは1時間半、時には2時間続きます。女子が集まるとおしゃべりが絶えません。耳を傾けていると、愚痴もあれば、うわさ話もあります。家庭内の不和の話もあれば、恋愛話もあります。
どうやら、ランチの時間はパリジェンヌにとって、ストレス解消に欠かすことができない、大切な時間であるようです。
話は面白いのですが、私は最初のうち、かなり手持ち無沙汰でした。ふと、周りを見てみると、運ばれてきたお皿をあっという間に平らげていたのは私だけです。みんなまだ半分も食べていません。
すかさず、「ジュン、食べるの早過ぎ」というツッコミが飛んできます。もちろんファニーです。
私は言い返すこともできませんでした。言われてみれば私はものすごく食べるのが早いのです。デスクトップの画面から目を離さずに昼食を取る時の私は、すごい勢いで食べていました。
会食中はと言いますと、話に集中しているため、何を食べているかあまり意識せず、口にある物をただ飲み込んでいました。いずれの場合も、「あまり食べた気がしない」という感覚が残る食べ方でした。
周りのパリジェンヌを観察していると、ゆっくり噛みながら昼食を楽しんでいます。そして、注文した前菜の出来が良いだの、悪いだの、お肉の焼き加減が最高だの、最悪だの、出てきた料理の評価をしています。
更には、ここはシェフが最近変わって美味しくなっただの、不味くなっただの、レストランの批評も欠かしません。つまり、私から見れば、かなり「意識的に食べている」のです。
忙しくてなかなか時間がとれず、仕事をしながらランチをすませたり、本や新聞、スマホを見ながら食事をしていませんか? その結果、「食べた気がしない」という不思議な感覚に囚われたことはありませんか? 「ながら食べ」をすると、なかなか満腹感を得ることができません。
パリジェンヌは決して「ながら食べ」をしません。食事に時間を取り、そして食べることに専念します。食事中は食べているもの、その食事を作ってくれた人、そしてそこから得られる快楽に意識を集中させているのです。
それはなぜかといえば、単純に食を愉しむためです。食は体のためだけではなく、心の活性剤になることをパリジェンヌはよく心得ているのです。
同僚とランチをするようになってからというもの、私は「ながら食べ」をやめることを心掛けました。早食いがすぐに治ったわけではありません。
けれども、太らないために「何を食べるか」ということに執着していた私が、「どう食べるか」ということに意識をシフトするようになったのです。それはとても大きな収穫でした。
無理やり連れ出してくれたファニーに感謝しなければなりません。
#2に続く
文/藤原淳 写真/Shutterstock
パリジェンヌはダイエットがお嫌い
藤原淳
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