「もうテレビ局は地上波放送だけでは立ち行かなくなる」日テレプロデューサーが語る、18年ぶりシナリオコンテスト復活の舞台裏
「もうテレビ局は地上波放送だけでは立ち行かなくなる」日テレプロデューサーが語る、18年ぶりシナリオコンテスト復活の舞台裏

日本テレビが2023年、18年ぶりにシナリオコンテストを復活させた。その第1回「日テレシナリオライターコンテスト」の大賞受賞作が9月30日(火)24時24分~ドラマ化される。

過渡期を迎えているテレビ業界の現在地とこれからを、Hulu取締役の佐藤貴博氏、日本テレビの中村花乃子氏に聞いた。(前後編の前編)                                   

第1回大賞作『217円の絵』がドラマ化

第1回大賞受賞作となった『217円の絵』。

屁理屈ばかり唱えるおじさんと、未来を諦めていた高校生が交流を深めていく中で、他者からの評価に振り回される現代に、自分を信じる“価値”を問うていく物語だ。風間俊介と齋藤潤のW主演で、9月30日24時24分から30分枠で放送される。

企画・プロデュースは、コンテストの発起人であり現在はHulu取締役を務める佐藤貴博氏。『デスノート』『桐島、部活やめるってよ』など、数々のヒット作を手掛けてきた。そして、今回プロデューサーデビューを果たしたのが、コンテストの運営を担ってきた中村花乃子氏。両氏に、復活の舞台裏とドラマ化への思いを伺った。

――『217円の絵』が大賞を受賞された理由を教えてください。

佐藤貴博(以下、佐藤) どこかで見たことあるような作品が多い中で、『217円の絵』は脚本家の個性と独創性が一番強く感じられました。誰のものでもない、作者のお話だと。審査にはドラマ、アニメ、映画など多岐にわたるジャンルのプロデューサーが加わっていましたが、満場一致で大賞決定しました。審査員全員がさらなる可能性を感じていました。

――2023年に18年ぶりにコンテストを復活させたのは、どんな狙いがあったんですか。

佐藤 現在、さまざまな配信プラットフォームが現れ、既にテレビ局も地上波の放送だけでは立ち行かなくなると考えています。放送主体ではなく、コンテンツメーカーとしてグローバル市場に向けて作品をどんどん送り出す“コンテンツ中心主義”を掲げ、それを実践するチームとして2023年6月にスタジオセンターが設立されました。

グローバル市場で勝負するにはやはりドラマ・映画・アニメなどの「物語」コンテンツが要であり、その「物語」に一番重要なのが脚本です。特にオリジナルコンテンツを生み出すためには物語を一から紡いでいく才能が必要なので、新しい才能と出会うためにコンテストを復活させました。

――他局でもコンテストは実施されていますが、日テレならではの特徴はありますか。

佐藤 あらゆる物語の可能性を見たかったので、「ドラマ化前提」を日テレは打ち出さず、映画・アニメ・ドラマなど幅広いジャンルで作品を募りました。そのため、応募枚数の制限も他局に比べて長いです。『217円の絵』も2時間サイズでしたが、第2回大賞受賞作の『モスト・ワースト・ファーストラブ』も長編映画サイズとなっています。

プロデューサーが涙した撮影現場の裏側

――『217円の絵』はもともと2時間サイズの長尺原稿だったとのことですが、今回30分枠のドラマに縮めることで、苦労した点などはありましたか。

中村花乃子(以下、中村) 脚本の良さを生かしたまま、短くするという作業は、とても大変だったと思います。元の脚本はテンポ感も大事にしているし、長編バージョンだと伏線がたくさんはられているので、短尺で伏線をどう詰め込むのか、何度も話し合いました。

今作は受賞者だけでなく、コンテスト全般を担当した中村氏にとってもプロデューサーデビュー作となる。

佐藤 日テレのコンテストに応募してくれた優秀賞の方々を中心に『ライターズベース』というチームを作りました。日テレのプロデューサー陣と新しい才能がぶつかり合って新しい何かを生み出していければと思っていますが、そのチームを率いていたのが中村なんです。

彼女自身、『217円の絵』をドラマ化したいという想いが人一倍強かった。実際に現場で風間俊介さんの芝居を見て泣いている中村を見られてよかったです(笑)。

中村 脚本上では絵の印象とか映像のイメージが湧きづらい箇所もあったので、それが目の前で形になる様子をみて、涙が溢れましたね(笑)。

――コンテストの作品をドラマ化するという手ごたえは、いかがでしょう。

佐藤 才能と才能の出会いの瞬間に立ち会えるのはとても幸せなのですが、素晴らしい作品には必ず縁を感じるんです。今回も素晴らしい脚本に対して、野尻克己監督や主演の風間俊介さん、齋藤潤さんがとてつもない熱量で臨んでいただいた。多忙を極める風間さんは脚本を読んで『スケジュールを調整してでも出たい』とおっしゃっていただいた。才能と想いが縁あって上手く結びついて素晴らしい作品に仕上がったと思います。

日テレの今年10月期日曜ドラマ『ぼくたちん家』の脚本は、日テレシナリオライターコンテストで2023年度審査員特別賞を受賞した期待の新星・松本優紀さんが手掛ける。今後も、コンテスト受賞者の活躍が予定されている。

視聴率低迷のテレビ業界、作品の成功基準は?

コンテスト復活から18年。この間、ネトフリやアマプラなどさまざまな配信プラットフォームが普及し、テレビを取り巻く環境は大きく変わった。

――地上波で視聴率が取りづらくなっているテレビ業界で、作品が「成功した」とされる評価基準は、どんなものがあるのでしょうか。

佐藤 そもそも視聴率は広告のための指標でもあるんです。なので広告ニーズの変化に合わせて世帯から若い個人視聴率が求められるように変わってきています。あとは、地上波放送の見逃しとして配信されるTverやHuluの再生数も指標になります。そしてなにより、Xのトレンド入りやバズりなど、今はそのコンテンツへの話題性や熱量も重視される時代です。

――原作ありきの作品はもともとの話題性が高いですが、オリジナル作品とどうバランスを取っていこうとお考えですか。

佐藤 アニメにおいてはやはりコミック原作のものが強く求められます。ただ、映像だから表現できること、映像ならではのオリジナルを模索していかないとサステナブルにはならないですし、やはりグローバル展開を図るには、自分たちでオリジナルコンテンツを生み出すことにこだわっていきたいと思っています。

取材・文/木下未希

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