杉咲花、令和ロマン・くるまの演技に「すごく刺激的な時間でした」新作映画で伝えたい“生きづらさ”の先にあるもの
杉咲花、令和ロマン・くるまの演技に「すごく刺激的な時間でした」新作映画で伝えたい“生きづらさ”の先にあるもの

NHK連続テレビ小説をはじめとする数多くのドラマや映画で主演を務め、日本アカデミー賞など受賞歴も多数。杉咲花は、日本を代表する俳優の1人だ。

子役として活動をスタートした彼女は、今年10月に28歳の誕生日を迎える。ライフステージが変わるなかで、どのような思いを持って仕事や日々の生活と向き合っているのかを聞いた。(前後編の前編) 

他者との繋がりで広がっていく価値観

杉咲花は2024年に映画2作と連続ドラマに主演、今年も4月公開のトリプル主演作『片思い世界』に続き、主演を務める映画『ミーツ・ザ・ワールド』が10月24日に公開されるなど、精力的な活動を続けている。

映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、第35回柴田錬三郎賞を受賞した、作家・金原ひとみの同名小説が原作。

杉咲が演じるのは、二次元のキャラクターをこよなく愛するも、自分のことは好きになれない27歳の由嘉里。

結婚や出産を経験した同世代のオタク仲間たちが徐々に趣味の世界から離れていくなかで不安や焦りを感じる役柄だが、杉咲は「由嘉里の心境は理解できるところがある」という。

――杉咲さんが演じる由嘉里は、没頭する趣味はあるけれど、周囲の言葉でその価値観が揺らぎます。杉咲さんも、自分の価値観が揺らいでしまうといったことはありますか。

杉咲花(以下、同) ありますね。今年で28歳になりますが、このぐらいの年齢ってそういうことを実感しやすいのかなと、個人的に思っていて。

幸せの価値観は人それぞれだけれど、それを押し付けられてしまうとモヤっとすることがあります。

――昔よりも周りの声や価値観の違いといったものが気になるようになりましたか?

昔から気になるほうではあるのですが、人生のステージが変わっていく人が、自分の周囲にも増えてきたなかで、そういったことを実感する機会も比例しているように感じます。

――本作での由嘉里は、新しい人々に出会うことで世界が広がっていきます。

最近、杉咲さん自身にとって、自分の世界や価値観を広げてくれる出会いはありましたか。

毎日のように出会っています。他者と関わるって、そういうことの連続だと思います。

特にものづくりの現場にいると、その作品をどう捉えているかという考えが多様にあり、正解というものがない中で、ときにぶつかることも出てくるわけで。突破口が見つかるまでは苦しい時間を過ごすこともありますが、客観的に捉えると、なんて健全で豊かな時間なんだろうと思うんです。

作品の話をしているんですけど、作品を通して、その人が世界に何を求めているのかだとか、他者とどう繋がりたいのか、どう見つめているのか…みたいなことがにじみ出てくる瞬間でもあると思っていて。それはとても面白いことですし、何にも変えられない、とても価値のある時間だと思います。

令和ロマン・くるまの演技に感じたこと

――本作では、令和ロマンのくるまさんが、奥山譲役としてご出演されています。くるまさんは映画初出演だそうですが、お笑い芸人の方との共演でなにか感じられたことはありましたか。

職業で考えたことはあまりないのですが、くるまさんとのお芝居はすごく刺激的な時間でした。

意訳ですが、くるまさんは、「お芝居のことがわからないからこそ、付け焼き刃で役作りをするとかではなくて、この役のことを自分なりに想像してやるしかないかなと思ったんです」といったことをおっしゃっていたのが印象的で。

とある特殊なカットを撮影していたときに、脚本に書かれている奥山のセリフ量では尺が足りないため、監督から『余白部分をアドリブで埋めてほしい』という指示があったのですが、セリフとアドリブの境界線がわからなくなるほど、解像度の高い奥山さんが目の前にいて、圧倒されました。

――そして、杉咲さんが演じた由嘉里は、趣味や人と関わることで自分を取り戻していきます。「自分を取り戻す」「自分の価値観を信じる」ためにいま取り組んでいることはありますか。

自分で自分の機嫌を取ること、でしょうか。セルフケアすることにちゃんと時間を割くことを心がけたいなと思っています。

少し前までは、仕事に行く20分くらい前に起きて慌ただしく家を出ていくという日々を送っていたのですが、最近、自分の中でルーティーンができたんです。

ぬか漬けを始めたのですが、1~2時間前に起きてぬか床を混ぜて、ご飯を作って、食事して、洗濯して、家を出る。夜、寝る前も水回りの掃除をして、次の日の新しいタオルをセットして寝る。

当たり前のことかもしれませんが、大事な時間になっていて。自分の暮らしが疎かになりがちな、忙しいときこそ、生活空間を整えて心地のよい場所にすることで、心が休まって、安心できるようになりました。

――「生きづらい」と感じる人も少なくない現代ですが、本作がそういった人の支えになればといった思いはありますか。

もちろんあります。ですが今回は、まず自分自身が救われたかったという気持ちが大きかったかもしれません。



この物語を演じていく中で、社会の規範的な価値観によって抑圧されてきてしまった部分から、由嘉里、ひいては由嘉里を演じる自分自身が少しでも解放されたらいいなという気持ちがありました。

私は、物語を最初に体感する作り手たちがまず救われたら、その熱が余波のように観客へ伝わるのではないかということに、期待をしているんです。それが結果的に、誰かにとっての賛歌になったとしたら、本当に嬉しいことだと思います。

後編では、金原の小説から感じた思いなどを聞く。

「ミーツ・ザ・ワールド」
(C)金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
配給:クロックワークス
10月24日(金)全国公開

取材・文/羽田健治 撮影/入江達也

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