「日本のテレビはもっと早くダメになると思っていた」早々に海外配信に舵を切った韓国との違い、テレビ業界の内情と未来をテレビ局プロデューサーが語る
「日本のテレビはもっと早くダメになると思っていた」早々に海外配信に舵を切った韓国との違い、テレビ業界の内情と未来をテレビ局プロデューサーが語る

18年ぶりにシナリオコンテスト「日テレシナリオライターコンテスト」を復活させた日本テレビ。その背景には、この18年間で起こったテレビ業界を取り巻くさまざまな変化があった。

配信サービスの台頭、ネット同時配信の解禁、ユーチューブの定着やSNS普及による「ながら視聴」…。過渡期を迎えているテレビ業界の現在地とこれからを、Hulu取締役の佐藤貴博氏、日本テレビの中村花乃子氏が語った。(前後編の後編)

コンテンツ消費者の「損したくない」という思考

――この18年間で配信事情もかなり変わってきたと思いますが、今の視聴者に響きやすいテーマやキャラクターの傾向ってあるんですか。

佐藤貴博(以下、佐藤) 他局含めてテレビ業界全体でドラマのジャンルが偏っている傾向はあります。例えば、刑事もの、医療もの…みたいな感じで。

中村花乃子(以下、中村) ひと昔前は、顔も性格も良くて仕事も完璧にこなす『完璧なヒロイン像』が支持されていましたが、今はどこか身近に感じられるような『共感できるヒロイン像』が求められていると感じます。

例えば、仕事は完璧だけど家では抜けているとか、恋愛も完璧そうに見えるけど実は下手とか、愛されるキャラクター性が重要視される時代ですね。

――最近の視聴者は、どんな基準でコンテンツを消費していると思われますか?

佐藤 時間のことも含めて『損したくない』んだと感じます。『つまらないものに時間をかけたくない』という想いがより一層強くなっている。だから、みんなが面白い、もしくは面白そうと言っているものに消費が寄り過ぎてしまっている。

そのため、すでにヒットしている原作をドラマ化する方が視聴者側も制作者側も安心感があるから、原作付きの作品が多くなっている傾向はあります。やはり原作付きでもオリジナルでも、視聴者の皆さんに『面白そう』と思わせるフックがないと今の時代はダメだと思っています。

ネトフリとアマプラの存在は「正直、羨ましい(笑)」

――日テレの場合、地上波放送とHuluの配信サービスの住み分けをどう考えていますか。

佐藤 Huluの強みは、『日テレの作品は全てHulu独占』と思われているかもしれません。

でも、日テレもグローバル市場に舵を切っているので、Huluに来てからは「日テレ独占」だけではない強みを産み出そうと言っています。

もちろん日テレのものは全て配信しつつ、Huluオリジナルの映画やドラマを自分たちでどんどん作らなきゃいけないと思っています。

――現在、Hulu取締役の佐藤さんですが、ぶっちゃけ、ネトフリやアマプラの存在はどう思っていますか。

佐藤 正直、羨ましいですよ(笑)。あちらはグローバルで資本も桁違いなので…。だからこそ違う戦い方をしなければいけないと思っています。

今、Huluでは綾辻行人さん原作のドラマ『十角館の殺人』を配信しています。映像化不可能と言われた日本語叙述トリック小説の完全ドラマ化を実現しました。グローバルプラットホームがなかなか手を付けない領域でヒットを産み出せたのは大きな鉱脈で第二弾も発表しました。今後も日本のユーザーに刺さるような国内プラットフォームならではのコンテンツを配信していくつもりです。

――今は録画もせず、スキマ時間に配信でドラマを楽しむ人も増えました。そのなかで、あえて“この時間に見たい”と思わせるような地上波ドラマをつくるには、どんな仕掛けが必要だと考えますか。

佐藤 まさに今のテレビ局の課題で…、リアルタイム視聴って今の時代なかなか難しいんです。ただ、まだまだ多くの視聴者が同時視聴したいコンテンツはあります。WBC、オリンピック、MLB開幕戦などの国民的関心事の高いスポーツコンテンツはもちろん、かなり前ですが、ドラマでも日テレでは『家政婦のミタ』が社会現象にもなりました。話題づくりも含め、まだ何かしらの可能性は残っていると思います。

中村 ドラマの会議ではたった数秒でも見てもらう仕掛けを必死に考えています。ディープな話になりますけど、ザッピングというリモコンを適当に動かしている人に目を止めてもらうための工夫もかかせません。

例えばCM明けの数秒間、ずっと右上のサイドテロップに、簡単なドラマのあらすじを出すなど、試行錯誤しながらいろんな実践しています。

韓国と比べ、日本のテレビは「なかなかシブトイ(笑)

――10年後の地上波ドラマはどうなっていると思いますか

佐藤 正直、もっと早く地上波がダメになると思っていました。11年前に日テレがHuluを買収し、Tverが始まり、その時期から地上波のその先を模索していたのに、世界的に見ても異例ですが日本の地上波だけまだ市場を維持しているんです。日テレも地上波広告収入がどんどん減るかと思いきや、むしろ上がっていたりして…「なかなかシブトイな」っていう(笑)。

でもこれ良し悪しあって。お隣の韓国では早々に地上波がダメになったので、ネトフリを通じてグローバル配信に舵を切りましたが、日本はまだまだ国内需要が強く、日本国内で成立してしまったりするのでグローバル化が遅れているとも言えます。

でもそれも日本の個性として、海外とは違う形でテレビが生き残るのかなっていう気もします。

――今後、映画・配信・テレビといったコンテンツの役割分担や位置づけは、どのように変わっていくとお考えですか。

佐藤 ユーザーの動向は、「損したくない」とより効率的になっているので、コンテンツ消費の二極化が進む気がします。映画は能動かつ有料なので「しっかりお金を払ってすごくいいものを見る」という高級な娯楽への変わっていくと思います。だから製作費も値段もあがる。

配信サービスはプラットフォームによって能動か受動か、高級か無料かによって変わってくるでしょうし、Tverやテレビは無料なのでもっと気軽に受動的に観られるもの、自分でコンテンツを探さなくても気軽に観られるものにそれぞれ特化していくと思います。

――そのなかで、日テレとHuluはどう差別化し、共存を図っていきますか。

佐藤 日テレはグローバルに、Huluは国内需要への勝ち筋を探っていきたいですね。

取材・文/木下未希

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