「キキキッ」ドアを開けて部屋に侵入、風呂にも入る“進化系サル”の恐怖の現場に密着〈湯河原・サル被害悪化〉
「キキキッ」ドアを開けて部屋に侵入、風呂にも入る“進化系サル”の恐怖の現場に密着〈湯河原・サル被害悪化〉

関東有数の温泉街、神奈川県・湯河原でニホンザルによる被害が話題となっている。現地を訪れると、街の人々のほとんどが「被害は今に始まったことじゃない。

もう何十年も前からのこと」と言うが、ここ2、3年ほどは人的被害や屋内侵入などが目立ち、その被害にある変化が見られるようだ。現地を取材した。

ニホンザルによる被害は3年間で2万6839件

神奈川県の小田原合同庁舎内の環境部環境調整課の調べによれば、湯河原町を含む県西地域には、天照山(てんしょうざん)の頭文字からとり、湯河原町に居着く「T1群」19頭と、丹沢地域の「丹沢湖群」23頭、合わせて42頭のニホンザルが生息しているといわれている。

なかでも、湯河原町役場の環境課の担当者によれば「ニホンザルによる湯河原町の被害はこの3年間で2万6839件にも及ぶ。特徴的なのが屋内侵入や、屋外の配線を切られたり、威嚇され怪我を負ったりするなどの人的被害が多く見られる」と言う。

「とくに湯河原駅や、そのすぐ裏に位置する『宮下』という急斜面の緑深い民家周辺への被害件数が先ほどの2万6839件中、1万3685件と集中しています。サルが人慣れし、人間を怖がらなくなり、むしろ人間を威嚇するようになっています」

駅裏の急斜面エリアの「シェアハウス湯河原町」の経営者の百武正人さんによれば「私はこの地でシェアハウスを営み10年になりますが、その当時と今の大きな違いはサルが自らドアを開けて侵入するようになったこと」なのだそう。

 「以前は1、2週間に1回の頻度で見かけていたと思いますが、ここ2、3年で見かける頻度は2、3日に1回とかなり多くなりました。

しかもこの10年で網戸の引き戸を開けたり、ドアノブをつかんで開ける動作を人間の姿を見て学習したようで、ドアを閉めていても侵入するようになったんです。

サル1匹がそれを学んだら、その子どもや群れも真似をしますから『T1群』全体がその手口を知っているものと思います」

ドアを開けて侵入し、食べ物を漁ったり部屋中を散らかしたりとやりたい放題だという。

「袋に入ったバナナも開けて食べますし、ポテトチップスとかスナック系が好物のようで、これらは抱えて持っていきますね。盗んだ食べ物は屋根の上で食べます。食パンは嫌いなのか、一口かじって捨てられてました」

また、人間がいても臆せずズカズカと入ってくるようだ。

「私ではなくお客様がリビングにいてテレビを見ていた時に、ドアを開けて入ってきたそうです。お客様には目もくれず食品を物色しようとしていたようで、慌てて追い出したそうです。

また、お客様とそのお客様の飼い犬である秋田犬が部屋にいる際に、犬を見かけたサルがキバをむいて威嚇してきました。犬はもちろん、人間でも女性や子供を威嚇する傾向にありますね」

ある旅館のオーナーによれば「露天風呂に勝手に入ったり、部屋に入られたこともあります。フンをされるのも困る。けっこう臭いがきつくて清掃費用もバカになりません」と、衛生的にも精神的にも大きな負担となっている。

「宮下」に30年以上前から住む90代女性は「ついこの間、たまたま鍵をかけずに外出してしまい、帰ってきたらリビングを荒らされていてビックリ。私は一人暮らしなので怖いです」と怯える。

ニホンザルのオスは群れを離れる習性が… 

この湯河原に居着く「T1群」だが、2016年に30頭近く増えたものの、現在は19頭と減少しているそうだ。それにもかかわらず被害件数が増えているのは、やはりサルが人慣れしたことが大きな原因なのだろう。

また、「T1群」出身の群れを離れたと思われるオスザル2頭が湯河原町から10km以上離れた小田原市に出没し、網戸を開けて民家に侵入したり食べ物を奪ったりする事例が起きている。小田原市環境保護課の担当者は言う。

「実はニホンザルの群れでは、メスは生まれた群れに一生留まるのに対し、オスは繁殖できる年齢に達した4歳から5歳頃に群れを離れる習性があります。

そして去年10月頃から栃木県で発見され、山梨や首都圏などあらゆるエリアで出没する『左手のないオスザル』も話題ですが、あの個体のように200km以上は移動する生物ですから湯河原から小田原に移動することはあり得る話なんです」

しかしなぜ「T1群」出身のオスザルだと見分けられるのか。

「もちろんオスザルにはGPSは付けていませんし『T1群』出身と断定はできません。しかし民家の仏壇のお供物を狙うなどの手慣れた特性と距離の近さで『そうではないか?』と言われているものです」

この2匹のオスの「ハナレザル」は箱根町付近にも出没するようで、箱根町役場の担当者もこう言った。

「『T1群』はちょっと凶暴な性質とも言われておりまして、街の見回りで一緒に動いた湯河原町の猟友会の方とも『こいつはT1群のハナレザルだろうな』と話をしていました。1匹がやや小さめで1匹が大きめなんですね。いつも2匹でつるんでるんです」

小田原市では毎日のようにこのハナレザルの目撃情報を市のHPなどに掲載し警戒している。この2匹のハナレザルがどこかの群れのメスザルと交尾し、生まれた子ザルにドアを開けたり引き戸を開けたりする手口を教えないことを願いたい。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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