
利便性と効率性を求める現代社会において進化を続ける洗濯機。最新機能を備えたドラム式洗濯乾燥機が主流となるいっぽうで、昭和の時代に普及した、洗濯槽と脱水槽が分かれている「二槽式洗濯機」はいまだに一定の支持を集めている。
「時短」「効率」が主流の現代でも支持され続ける「二槽式洗濯機」
多忙な現代人にとって負担の大きい「家事」。少しでも短時間で効率よく家事が済ませられるように家電製品は進化を続けている。洗濯機においてはドラム式洗濯乾燥機がシェアを広げ、高機能化が進むにつれて価格も上がっている。だが、そんな中でも依然として根強い人気を誇っているのが「二槽式洗濯機」だ。
大手家電量販店のビックカメラによれば、ドラム式や全自動の縦型が主流となるなかでも、二槽式洗濯機は「一定の需要」があるという。担当者は次のように話した。
「近年の売れ行きとしても全体ではおおむね前年並みを維持しております。地域によっては依然として安定したニーズがあり、日常使いとして継続的にお求めいただいている状況です。当社としてもそうしたニーズにお応えする形で、今後も商品展開を続けてまいります」
洗濯槽と脱水槽が分かれている二槽式洗濯機は1960年代に登場。その後、全自動洗濯機、乾燥機付き洗濯機、ドラム式洗濯機と進化を続けてきたが、SNSなどには今でも二槽式洗濯機を“推す”声が頻繁に見られる。
「二槽式の方が全自動洗濯機よりも汚れ落ちが良い」
「実家の二槽式洗濯機、何十年経った今でも現役です」
「二槽式洗濯機、全自動より汚れが落ちてる気がする。
都内に住む70代の主婦も二槽式洗濯機の愛用者だという。
「全自動洗濯機も使ったことはあるけど、今は二槽式洗濯機を愛用しています。ワイシャツを洗うときに最初にソフト洗いができて、他の洗い物と区別できること、ひどい汚れ物と分けられるのが利点かな。
使い方も簡単だし、お風呂の残り湯を使いやすくて、汚れも結構落ちる気がします。それと、洗剤液の色で汚れ具合が分かるし、すすぎの水の感じで洗剤が落ちたか確認できる点も気に入っています。価格も3万円くらいで安価だし、今のものは5~6年は使ってるよ」
いっぽう、こんな短所もあるという。
「奥行きは浅いけど横幅はかなりあるから、マンションとかには置けないかも。それと容量が小さいから、毛布などの大物を洗うのは制限がある。あと、用事があれば洗濯の途中でもちょっと止めたりできるけど、入れたり出したりする手間はかかります。時間のある人向きで、忙しい人には向かないかな。メーカーもあまり改良に力を入れていない気がします」
「地域や生活スタイルに応じた多様なニーズにお応えするために販売を継続」
手間はかかるいっぽう、洗浄力の高さなど他の洗濯機にはない利点からいまだに愛用者の多い二槽式洗濯機。現在も販売を続けるメーカーに話を聞いた。
「2槽式洗濯機『青空』PS-65AS2」などの販売を行なう日立グローバルライフソリューションズ株式会社の担当者は、「物価上昇による節約志向の高まりを背景に、国内の家電市場は依然として厳しい状況が続いており、洗濯機の需要は前年に比べて鈍化している」と現状を説明。そうしたなかでも、同社の二槽式洗濯機は「一定のニーズに支えられ、売上は計画に対して堅調に推移」しているという。
同担当者は、現在も二槽式洗濯機の販売を続ける理由について次のように話した。
「当社では、地域や生活スタイルに応じた多様なニーズにお応えするため、二槽式洗濯機の販売を継続しております。特に水の使用量や洗濯時間を細かく調整したい方、洗濯と脱水を分けて使いたい方など、根強い需要があることから、一定のラインアップを維持しております」
また「明確な調査結果はありませんが」と前置きしつつも、購入者が二槽式洗濯機を選ぶ理由として、「洗濯と脱水を個別に操作できる利便性(洗濯中に次の脱水を並行して行うなど)」「水量や洗濯工程の調整(すすぎ回数や脱水時間の調整など)により、お客様のお好みにあわせたご使用ができる」といった点が考えられると説明した。
実際の利用者からは、販売店やカスタマーサポートを通じて「洗濯槽が分かれていることで衛生的に使える」「水量や洗剤量を自分で調整できるのが良い」「シンプルな操作性が高齢者にも使いやすい」といった意見が届いているという。
現時点では二槽式洗濯機の販売は継続しているが、「今後の市場動向やニーズの変化に応じて、ラインアップの見直しを行う可能性はあります」と担当者は話した。
さらに、「2槽式洗濯機NA-W50B1」などの販売を行なうパナソニック株式会社では、「幅広いお客様の生活スタイルとご要望に沿う」ため、現在も二槽式タイプをラインアップに加えているという。今後の販売について、同社の担当者は「しばらくはお客様の動向を見ながら継続する予定です」と話した。
利便性や効率性を追い求める消費者が大半を占めるいっぽうで、洗浄力や自由度の高い使い方ができる二槽式洗濯機を選ぶ消費者も一定数いる。何が「便利」なのかは、人によって異なるのかもしれない。発売から半世紀以上が経った今もなお支持され続ける二槽式洗濯機は、「多様性社会」を象徴する存在と言えるだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班