「田久保市長を支持しますか?」に回答したくない伊東市議選のステルス候補たち「名前も市長への評価もお答えできません」メディアの“田久保派探し踏み絵”に対抗〈伊東市大混乱〉
「田久保市長を支持しますか?」に回答したくない伊東市議選のステルス候補たち「名前も市長への評価もお答えできません」メディアの“田久保派探し踏み絵”に対抗〈伊東市大混乱〉

静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)の学歴詐称疑惑。市長が市議会を解散したため、10月19日の市議選で住民が市政の混乱を審判することになった。

市議選後に市長に対する2回目の不信任議決をして失職に追い込みたい反田久保派に対し、市長支持者は議決阻止を目指し市議会に仲間を送り込みたい意向だ。だが市議選告示を前に、市長派とみられる立候補予定者が市長への評価を口にしなかったり、出馬表明自体も遅らせたりする動きが出ている。何が起きているのか。

立候補の理由「お答えできません」という候補者も

「本選挙はここに至る経過からしますと、市民はもとより全国的にも注目されておりますので適正な管理、進行に向けご協力をお願いします」

9月22日午後、市選管主催の立候補予定者への説明会が伊東市役所で開かれた。会は、異例の経緯で開催が決まった今回の市議選に注がれる目を意識した選管委員長のあいさつで始まった。

定数20の選挙で、説明会には35組の立候補予定者やその代理人が出席した。焦点は議会が解散した時点でゼロだった田久保市長派の市議が何人当選するかだ。

「9月1日に全会一致で不信任決議案が可決されたことで市長は失職か辞職、議会解散を選ぶ必要に迫られ、解散を選びました。この結果10月19日に市議選が行なわれます。

ここでの当選者で構成される次の市議会がもう一度不信任を議決すれば田久保市長は失職しかありません。ただこの議決には三分の一以上の議員の出席で過半数が賛成する必要があります。つまり、7人の議員が採決に参加しなければ阻止できます」(地元記者)

 このため田久保市長の支持者らは、「7人」の市議を当選させるのが当面の目標とみられる。

その選挙の前哨戦も異例の様相を呈している。

説明会では通常、メディアが参加者に氏名や政策、立候補の理由などを取材するが、22日の市役所での説明会では「お答えできません」と答えを拒む参加者が出たのだ。

また市選管関係者は、「35人の立候補予定者かその代理人の方には全員、“きょう説明会に出席したことをメディアに知らせてもいいですか?”とたずねる調査票を配りましたが、5人が“不可”とする返答でした。その方々の氏名は公表できません」と説明する。

この公表不可の5人のうち、少なくとも一人は田久保氏の有力な支援者とみられることが関係者への取材で分かった。

『ジャンヌダルクのためにわれわれが立ち上がるんだ』という空気感 

少しでも名前を売りたいはずの新人の立候補予定者が、なぜ立候補の意思をまだ明かさないのか。議会解散で議席を失った前市議A氏が市の空気を話す。

「新人候補者たちがマスコミの取材を拒否していると聞きました。ほとんどの人が出馬表明をしないし、“ステルス”でやりたいのか知らないけど、おかしな状況ですよ。

地元の新聞の(立候補予定者に事前に記入を求めた)調査票の中に、『次の議会での田久保市長の不信任決議に賛成か否か?』『田久保市長を支持するか否か?』って項目があるから、田久保派の新人は調査票も回答しないんじゃないかな。

前職で再度市長選に臨む人は全員、不信任に賛成と一致していますが、新人は私の知る限り、不信任案にどう対応するかは“保留する”と言っている人が4人います。この人たちはどう考えても田久保派ですね」(前市議A氏)

別の前市議で、反田久保派であることを隠さないB氏も、地元紙の調査票は田久保市長派かどうかを表明させる“踏み絵”だったと指摘しながら、今後の選挙戦をこう展望した。

「田久保市長側と言わる立候補予定の方は辻立ちしたり、リーフレットを作ったりしてる人はおらず、事前の政治活動をやっているとはとても思えません。

みんなネット選挙をやるつもりなんじゃないんですかね。要するにドブ板選挙をやる気は全くないんでしょうね。

それでも数名でも市議に通せば流れが変わる可能性もありますし、選挙はフタを開けるまで何が起こるかわかりません」(B氏)

22日の説明会に名を明かして参加した立候補予定者やその代理人の中には、別の場での取材で田久保市長への二回目の不信任決議案への態度を「保留」と言っている人もいる。

「9月1日の不信任決議案には、当時の市議19人全員が賛成し、市の幹部らも田久保市長の市政運営に次々と異を唱えるなど、外から見れば伊東市は“反田久保一色”で、不信任決議案の再度の可決は必至のようにもみえます。

しかし田久保派が何人立候補するのか、何人当選するのか、そして次の市議会でも田久保市長が不信任されるのかは分かりません。さらに、田久保さんが当選したのはそもそも、前市長の市政に我慢ができなくなった民意の現れです。

前市長もダメ、田久保さんもダメと考え“第三極”の政治を目指すという新人も現れ、情勢は混沌としています」と前市議のCさんは指摘する。

田久保市長が地盤とする市南部の伊豆高原エリアについて、前出の前市議Aさんは「あのエリアだけで市の人口の三分の一はいると思います。あそこは市議選では投票率がかなり低いんですけど、国政選挙では投票率は上がります。

今回のことでどこまで関心をもって投票行動をとるかわからないので潜在票はあるでしょうし未知数な部分はあります」と指摘する。

田久保市長は「東洋大学を卒業した」と言いながら卒業証書と称するものを周囲に見せていたが、実際には大学を除籍されており、東洋大は8月に「除籍者には卒業証書は出さない」と表明している。

だが、これに絡んで支持者の中では「東洋大学が嘘をついている」との主張まで出ているとA前市議は言う。

「どのくらいそういった層がいて票が動くのか。(支持者の間では)『ジャンヌダルクのためにわれわれが立ち上がるんだ』と、そんな空気感があるんですよ」(A前市議)

見えない強固な支持層が実はいて、田久保市長の“与党勢力”が誕生するのか――。秋風が吹き始めた伊豆半島で、伊東市の政局だけは熱気に包まれている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ