
テレビはまだまだトガっている。その週に心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。
テレビスタッフの旅行選抜企画がまさかの展開に
「P(プロデューサー)は何をしてるの? 演出だけでええやん」
かまいたち・山内健司の疑問の通り、テレビ番組のスタッフがどんな役割を果たしているのかは、正確にはわかりにくい。
プロデューサーが何人もいるのはなぜ? 局のプロデューサーの他に制作会社のプロデューサーがいるの? 演出とD(ディレクター)ってどう違う? 時折カメラの奥に見える人だかりや、エンドロールで流れる名前の多さに疑問を抱いた人も少なくないだろう。
放送5周年を迎えた『かまいガチ』(テレビ朝日)では、普段番組を支えてくれている常連のゲストやスタッフのために、伊勢旅行が企画された。しかし、全員を連れて行くのは予算的に難しい。そこで、演者・スタッフを含め、旅行へ行くメンバーを決める「伊勢旅行選抜会議」が17日に放送された。
普段、現場にはスタッフだけで33人。今回はそこから18人に絞る必要があった(演者は発案者の山内を含め4人)。内訳は、メイクやマネージャーなど演者周り3人、技術(カメラ・音声)スタッフ4人、そして制作部門から演出1人、プロデューサー2人、ディレクター4人、AD4人が最低限必要だという。
この場面で飛び出したのが山内の「Pいらんやん」という冒頭の発言だ。現場で「何もしていないように見える」プロデューサーを削れば、その分スタッフを増やせるからだ。
これに対して、番組を担当する米山Pは「現場でトラブルが起きたときに対応するのが仕事。2人いるのは、不測の事態対応とロケ進行管理のため」と説明。
過去にも「山内のTシャツにコーヒーをこぼしたのは誰か?」という謎をスタッフ総出で検証する企画を放送してきた『かまいガチ』。
ともすれば“内輪ウケ”となりそうなところだが、どちらの企画も動機づけがしっかりできているから自然と入り込める。だから、視聴者からすると全然知らない人物たちの小競り合いでも、それぞれの役割やキャラクターも垣間見えて無性に面白い。
終盤は、カメアシの“下剋上”から、エア書道パフォーマンス対決に突入するカオスな展開。結局、演者は誰が選ばれたかは明かさず、実際のロケが次回放送されるという引っ張り方も含めて、くだらなくも巧妙な企画だった。
「ぼく、現場でめちゃくちゃ教えます。『めちゃイケ』やってたんで」
ちなみにディレクターの選抜では、旅行企画担当だがキャリアの浅い若手Dか、キャリアのあるDのどちらを入れるかが議論に。
ここで場を掌握したのが、「『めちゃイケ』(『めちゃ2イケてるッ!』)班の生き残り」内山Dだった。
「歴が浅いからやめようではなく、『かまいガチ』の今後のためには育てなきゃいけない」「だけど、教える人が要る。ぼく、現場でめちゃくちゃ教えます。
この一言で大きな笑いを誘い、若手Dの同行が決定した。もちろん内山Dも。
奇しくもその2日前、15日放送の『アイカタ』(NHK)でも、『めちゃイケ』という言葉を聞いた。それもNHKのアナウンサーから。
「私としたら最高の空間ですよ! だって私、『めちゃイケ』世代ですから!」
前の回から、夏休みの川口由梨香アナの代役としてサブMCとして出演していた杉浦友紀アナが、興奮して語ったのだ。もともとは『めちゃイケ』のADになるのを夢見て上京したほどの『めちゃイケ』ファンだという。
加藤浩次がMCの『アイカタ』は、演出の片岡飛鳥(『めちゃイケ』総監督)を筆頭に、主要スタッフのほとんどが、いわゆる『めちゃイケ』班。件の内山Dも参加している。
さらに、最終回である今回は、『めちゃイケ』でもおなじみの加藤の妻・カオリさんが杉浦アナに代わりサブMCを務めるというのだ(クレジット上は「サブMC(ニセモノ)」)。そんな座組の番組に参加し、杉浦アナは「高校時代の私に伝えたい」と感激していたのだ。
『アイカタ』は、自分にとって一番大切な人=アイカタの「イイところ」を、自らがカメラを持って撮影してきてもらうという番組。だから、最終回の今回は、加藤のアイカタであるカオリがサブMCになったのだろう。
「じゃあ、早速VTRにいってよろしいでしょうか?」とカオリが言うと「棒読みじゃねえか!」と加藤が照れくさそうにツッコんだ。
テレビ界にまだ残る「めちゃイケ」のDNA
今回の撮影者はブラックマヨネーズ吉田敬。そのアイカタはもちろんコンビの相方である小杉竜一だ。ちなみにこれまでのアイカタは、コンビの相方に限らず、夫婦、兄弟、親友、仕事仲間など多岐にわたっている。
吉田にとって、小杉は「わかりにくい自分のボケを瞬時にみんなに伝わるようにしてくれる」存在だ。
「他にイイところは?」と訊かれると、しばらく考え「ないなあ…」と笑う。
心配性で繊細な吉田に対し、小杉は「1個目の曲がり角があったら全部曲がっていくタイプ」と型破りな性格。吉田は大阪、小杉は東京と住んでいる場所も違う。同じクラスだったら、まず仲良くなってないという価値観と価値観のぶつかり合いこそがブラックマヨネーズの笑いだ。
本人が撮影しているからこそ、ネタ作りのシーンまで克明に撮影されているのが、あまりにも貴重。それぞれの言葉を待ちながら、掛け合いをしていき、それを書き留めている。各々が別の方向を向いていて目を合わさないまま喋っている、その距離感こそ、ブラマヨだ。
『めちゃイケ』はストイックに笑いを追求していたイメージがあるが、その端々には、あたたかみのような部分も感じた。『アイカタ』にはそうした片岡飛鳥の“人間愛”がにじみ出ている。
番組内での28年ぶりのサシ飲みでは、小杉に感謝を伝える吉田。きっと自らカメラを構え、カメラ越しに見ているからこそ、照れ隠しでき、素直に言えたのだろう。最後に吉田がボケを挟むと小杉が「なんでやねん!」とツッコむ。
「いまの『なんでやねん』、30年前に戻ったような…意気揚々の『なんでやねん』やった」
2人だけの空間で、2人は無防備に笑いあった。「親友」や「相棒」「パートナー」でもなく、「アイカタ」としか言いようがない関係性が映し出されていた。
文/戸部田誠(てれびのスキマ)