
群馬県内には、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム(特養)、養護老人ホーム、軽費老人ホームが、あわせて300施設近くある。その中には地元の有力政治家が理事長や副理事長などの肩書をもち、法人運営に深く関与している施設も少なくないのだが、そうした施設に補助金の“偏った分配”を指摘する声があがっている。
群馬の政界にまつわる「きな臭い話」
7月20日に投開票が行なわれた参院選。群馬選挙区(改選数1)では、自民党の現職候補がなんとか議席を死守した。だが、次点の参政党の新人候補に惜敗率90%まで迫られるという薄氷の勝利だった。
福田赴夫、福田康夫、中曽根康弘、小渕恵三と、歴代首相を4人も輩出してきた群馬県は、言わずと知れた自民党の牙城。過去の選挙では、投票締切り直後に「当確」が出るのが常だったが、今回は前例のない苦戦を強いられる格好となった。
“保守王国・群馬”が、大きく揺れている。これまで2回にわたって報じてきた安中総合射撃場の整備問題も、その象徴といえるだろう。
県が管理するこの射撃場は、もともとクレー射撃専用だった。2012年、そこにライフル射撃場を併設する計画が浮上し、建設が進められた。
だが、19年に施設が完成した段階で、群馬県警が「危険あり」と待ったをかける。結果、ライフル射撃場のオープンは延期され、クレー射撃場は使用停止に追い込まれた。
理由は極めて単純だ。クレー射撃の弾が、新設されたライフル射撃場の建屋に届く恐れがある――銃刀法上、根本的な欠陥を抱えていたのだ。
最初から無理筋だった計画が強行された背景には、地元猟友会と、自民党県議らによる「猟政議員連盟」の存在がある。
08年、安中総合射撃場の運営が、猟友会から民間事業者へと移管された。しかもその移管先は、近隣でライフル射撃場を運営する会社。これに反発した猟友会が猟政議連に泣きつき、県にライフル射撃場の併設を働きかけた。
「競合する民間事業者の経営を圧迫するのが狙い。要は腹いせだった」と関係者は明かす。
県は当初、整備計画に待ったをかけたものの、猟政議連からの圧力に屈し、最終的には計画を推進した。
そして昨年、ようやくライフル射撃場だけが供用開始となったが、クレー射撃場はいまだ使用停止のまま。整備に投じられた総事業費は約17億円。半分しか使えない射撃場に、多額の血税が消えたことになる。
「こんな古びた政治は、変えなきゃいけない」
参院選前、そんな叫びにも似た声とともに、群馬県議会関係者や県庁内部から、次々ときな臭い話が編集部に寄せられていた。
たとえば、元知事の愛人問題。
そうした数々の疑惑が飛びかうなか、いまも“現在進行形”で動いているのが、高齢者福祉施設を巡る問題だ。
「群馬モデル」と“偏った分配”を指摘する声
群馬県内には、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム(特養)、養護老人ホーム、軽費老人ホームが、あわせて300施設近くある。施設が老朽化すれば、設備の更新や修繕が必要になる。そうした費用を支援するのが、県が実施する「大規模修繕事業」だ。
対象は、屋上の防水、外壁の改修、エアコンの更新の3項目。1施設あたり工事費の半額、上限4000万円までを補助するという手厚い制度だ。補助の対象となるのは、中核市(前橋市、高崎市)を除くエリアにある上記3種の高齢者福祉施設、およそ200施設にのぼる。
この大規模修繕事業は、もともとは国(厚労省)の制度として全国的に実施されていた。ところが05年、財務省の予算縮減を受けて制度は廃止。
以降、約20年にわたり維持されてきたこの制度は、いまや「群馬モデル」として全国から注目される存在になっている。
特養は、介護保険制度が始まった2000年前後に建設された施設が多く、建物の老朽化は全国的な課題。そんななか群馬県の先進的な取り組みに学ぼうと、「他県からの問い合わせや視察依頼が相次いでいる」(群馬県・介護高齢課)のだ。
だが、この制度の裏側では、補助金の“偏った分配”を指摘する声がある。「なぜ、あの施設ばかりが……?」––––そんな不信感が、福祉関係者のあいだに広がっている。
ここでいう「あの施設」とは、元知事、現職県議、元県議、さらには群馬選出の国会議員ら、地元の有力政治家が理事長や副理事長などの肩書をもち、法人運営に深く関与している主に特養を指す。
今回、集英社オンラインは、県の内部資料『老人福祉施設整備費(大規模補助事業)要望一覧』を独自に入手。この資料には、19~24年度にかけて同事業に申請を行なった56施設と、そのうち実際に採択され補助金を受けた45施設の法人名、施設名、所在地などが詳細に記されていた。
なかでも目を引くのが、政治家が関与する施設の“採択率”である。21年度以降に補助を受けた28施設のうち、地元の有力政治家が運営に関わる施設は7つ。全体の4分の1に達していた。
さらに、複数回申請を行ないながら一度も採択されなかった施設がある一方、わずか4年の間に2度の採択を受けた“政治家の施設”は3施設に上る。
補助金の分配に、公平性は保たれていたのか。そこに、政治的な恣意はなかったか。#5で、関係書類と証言をもとに、その内情を徹底検証する。
文/集英社オンライン編集部