
2025年上半期放送の朝ドラ『あんぱん』が9月26日、最終回を迎え、物語は完結した。当初話題になった主題歌、長尺で描かれた戦争シーン―、SNS上で“異例づくし”ともいわれた『あんぱん』の最終回と総評を朝ドラ評論家に聞いた。
『あんぱん』最終回の感想は…
国民的アニメ・絵本『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと、その妻・暢(のぶ)の夫婦をモデルに、戦中戦後と人生の荒波を乗り越える中で、2人が“逆転しない正義”に行き着くまでを描いた朝ドラ『あんぱん』。
最終週「愛と勇気だけが友達さ」では、『アンパンマン』がアニメ化され、ついに日本中の子どもたちのヒーローになったところまでが描かれ、9月26日に130回にわたる物語は完結した。
SNS上では〈半年間楽しかった〉〈終わって寂しい〉などの声が相次いだが、朝ドラ評論家の半澤則吉さんは、この最終回をどうみたのだろうか。
「最終回直前の129回目で、『アンパンマン』がアニメ化し、みんなが認知している“やなせたかしの成功”をようやく見ることができた。正直、あそこが一番のピークでした。物語後半、『いつアンパンマン作るんだよ…』ってやきもきしてたんですが、漫画家として大成しない日々が長かった分、2人の苦労が報われた瞬間は涙が出てきて…ここまで引っ張った甲斐がありましたね」(半澤氏、以下同)
と絶賛。一方で、こんな想いも。
「基本、嵩(たかし)の妻・のぶの物語ではあるのですが、嵩の制作シーンや手塚治虫など昭和の偉人たちのシーンをもっとじっくり見たかった気もします。さらに欲を言えば、『アンパンマン』ヒット後の世界も見てみたかった気もしますが…完成で終わらず成功で着地できたのはホッとしました」
主演を務めた今田美桜と北村匠海、2人の演技を称賛しつつ、「来週放送されるスピンオフで何が描かれるのか」と期待をのぞかせた。
「今田美桜ってこんな可愛かったっけ⁉」
今作は、主題歌や戦争シーンの長尺など、“異例尽くし”とも言われたが、半澤さんいわく、最も“異例”だったのはどの部分なのか。
「一番、“攻めている”と感じたのは、ヒロイン像だったと思います」
戦後80年の節目の年に放送された今作。ヒロイン・のぶは、物語前半、女子師範学校で“愛国の鑑”と呼ばれる軍国少女となり、教師になった後も軍国教育をおこなうというヒロイン像が描かれていた。
「“好かれて当たり前”の朝ドラヒロインが多い中、ここまで嫌われたヒロインは初めてだったのではないでしょうか。軍国少女時代はある種、ヒール役のような立ち位置にもなり、視聴者に寄り添うわけでもなく、嵩に対しても当たりがきつい。
ヒロインを務めた今田美桜も、軍国主義を掲げていた戦争時のシーンについて「撮影の時は、私自身も複雑な思いを抱えながら演じました」と振り返っている。
「だから、放送終了後の『朝イチ』や『世界陸上』で通常時の今田美桜さんを見たとき、『えっ…、今田美桜ってこんな可愛かったっけ⁉』って無駄に驚いたんです。それぐらい僕らは『あんぱん』ののぶを見過ぎてしまっていたし、フィルターをかけるほどの演技をしていたということ。今作の脚本が今田美桜という女優の魅力を十分引き出していたかは疑問ですが、今田さんの女優としての株は間違いなくあがったと思います」
朝ドラ新規流入者が今作で急増か
『あんぱん』放送当初には、RADWIMPSの主題歌の『賜物』が話題となり、最終回の終盤でも挿入歌として流れたが、耳慣れない歌詞にSNS上では〈アレンジ曲?〉〈歌詞にあんぱんの真髄が込められている〉などの声が相次いだ。
「主題歌って難しいんですよ。朝ドラでよくあるのは、物語中に主題歌をオルゴール調やテンポをゆったりにして挿入歌やBGMとして流す役割を担うことは多いんです。特に今回の主題歌『賜物』は2番目以降の歌詞がとてもいいので、物語序盤からバンバン使ってほしかったですね」
と評価した。さらに全130回の物語のハイライトも聞いてみた。
「やはり日中戦争で次女・蘭子の婚約者である豪ちゃんが死んだシーンです。あそこで蘭子に力を入れて描いたことで期待値が一気に高まりましたし、軍国少女のヒロインが戦後どう変わっていくのかも見どころとなりました。
あとは高知新報時代の結ばれるようでなかなか結ばれない2人のもどかしさも、見ていて楽しかったです」
最後に、今作の意義について半澤さんはこう振り返る。
「今回の朝ドラは、国民的に知名度の高いやなせたかしさんがモデルだったこともあり、『初めて朝ドラを見た』という人が非常に多かった印象です。
2人の「逆転しない正義」に行き着くまでの物語はついに完結。次回作『ばけばけ』は、“怪談”でつながる異文化夫婦の物語というが、どんなドラマが半年間で描かれるのか。期待したい。
取材・文/木下未希