〈桜塚やっくん・12回目の命日〉「今の自分があるのは…」元バンドメンバーが明かす、事故当日、やっくんにかけられた最後の言葉
〈桜塚やっくん・12回目の命日〉「今の自分があるのは…」元バンドメンバーが明かす、事故当日、やっくんにかけられた最後の言葉

2013年10月5日、山口県内の高速道路で起こった自動車事故により死去した桜塚やっくん(享年37)。やっくんとバンドメンバーだった「美女♂men Z」でベースを務めていたTaiGa(タイガ。

バンド活動時の芸名は伊織殿)は現在、女装研究家として人気配信者となっていた。悲劇に直面しても、芸能活動を辞めなかったのはやっくんのある言葉だった。(前後編の後編)

僕の夢はやっくんと同じ夢

2013年10月5日、山口県内の高速道路で悲劇が起こる直前、バンドメンバーだったTaiGa桜塚やっくんにこんな言葉をかけられたという。

「事故が起きる数十分前、突然『伊織、お前はもっといろんなことをやっていけよ、できるはずだから』って言われたんです。モノマネとか、タレント的な活動もしていけ、って。

やっくん自身が芸人、歌手、声優とオールマイティに活動していたからこそ、僕に可能性を見出して言ってくれたんだと思います。

やっくん自身がメンバーをオーディションで選んだので、僕らを芸能の仕事だけで食わしてやりたいという思いがあったみたいで。あの時の言葉が今もずっと心に残っていますし、それ以外の言葉も、今も残り続けています」

あれから12年。今もお墓参りを続ける理由を聞くと、長い沈黙の後TaiGaはこう答えた。

「これは…何でしょう、もう随分時間が経つし、行かなくてもいいわけじゃないですか。だけど僕が今も活動できているのは、やっくんのおかげなので。だから命日になると自然に“報告しに行こう”って思うんです。今日も“今年はこんなことがあったよ”って伝えに来ました」

しかし、そんな彼でも毎年、やっくんの命日になると心がざわつくこともあるそうだ。

「今もやっくんの死を利用する心無い人がいて…。今もSNSを見ると心が痛いですが、当時も今も命日が近づくと辛いですね。詳しいことは今はまだお話しできないですけど、いつか時が来たら…。あの事故後、何が起こったのか全てをお話ししたいと思っています。」

今も歌手活動を続けるTaiGaだが、一度は芸能界引退を考えたこともあったそうだ。

「武道館ライブという目標のため歌手活動を続けてきたんですが、2019年に甲状腺がんを患い、声が出なくなってしまったんです。その上コロナの影響もあって、ライブをすることができなくなってしまい、年齢的なものもあり、あの時は本気で他の仕事をすることを考えていました。

また、昨年8月には、尿膜管遺残という病気にかかり、薬を処方されてもどんどん症状は悪化して、ヘソから膿が出てくるなど、想像を絶する痛みを味わいました」

現在は女装研究家として人気配信者に

あまりの激痛に何も手につかなくなり、食事すら取れない日が続いたという。しかし、そんな彼を救ったのは、やっくんが教えてくれた女装がきっかけだったそう。

「自分のSNSに、18歳の時にガソリンスタンドでバイトをしていてムキムキだった当時の写真と、今の女装姿のビフォーアフター写真を並べたものを投稿したら、すごい反響があったんです。

ありがたいことに、数々の媒体でネットニュースに取り上げていただいて。一度死んで生まれ変わったの?というコメントあったくらいで、まさかここまで話題になるとは思わなかったですね。やっくんの名前でニュースになることはありましたが、自分のことを話題にしていただけたのはとてもありがたかったですね」

そして心機一転、女装姿でのYouTubeの生配信に力を入れ始めたそうだ。

「今は週3回、17時からYouTubeでライブ配信しています。

基本は女装配信なんですが、一度アカウントが制限をくらってしまい、イライラしていたことがあって。全くしゃべらずにチャットだけで配信をしたら、声を出さなかったからか、本当の女の子と思われてしまって(笑)。

その時は同時接続6000人超え、アーカイブも30万再生を突破しました。ガチ恋のファンも現れて、海外の方から『結婚してください』とプロポーズされたり、『プレゼント送りたいから連絡先教えて』とか言われたり。さらに投げ銭で衣装代を支援してもらったりと、本当にありがたいことです。」

現在は、「女装研究家 TaiGa」として、YouTubeの登録者数は5万人を超える人気配信者となった。

「前はこれでお金を稼げるようにしたい、知名度を上げたいという思いがあったけど、今はもう日常生活の一部になってますね。理由がなくても“メイクしなきゃ!”って自然に思うんです。

女装なんかしたことなかった僕にメイクを教えてくれたのはやっくんでした。当時はファンデーションの塗り方もわからないから真っ白に塗りたくったり、アイシャドウなんて持ってないから代わりに目の周りに口紅を塗ったり……。

本当にめちゃくちゃなやり方だったので、ファンの方に“あの人のメイク、鈴木その子さんみたい”って指摘されたこともありましたね。

オーディションの時も女装していたんですが、不慣れなメイクでつけまつげが取れていた僕に、やっくんがつけまつげをつけてくれたこともありましたね」

TaiGaの今後の目標は…?

歌手として、配信者としても活動を続けているTaiGaに、今後の目標を聞いた。すると墓を掃除する手を止め、彼はこう答えた。

「もっと配信を通じて僕の存在を知ってもらって、全国を旅するYouTubeをやりたいです。女装研究家としては、YouTuberのギュテさんみたいにレベルの高いメイク技術を身につけたいですし、TikTokなど活動の幅を広げたいですね。」

また、やっくんが亡くなった後に人生を変える人物との出会いがあったそうだ。

「都市伝説で有名なYouTuberのコヤッキーさんとライブでご一緒する機会がありまして。“これから売れるにはどうしたらいいか”と相談したら、『君が売れない理由はない』って言ってくれたんです。

そして、『時代にあったことよりも、自分のやりたいことを追求してきたからじゃないか?』と分析してくれたんです。やっくんからも“もっと色んなことに挑戦しろ”って言われていたので、この2人にもらった言葉を信じて、これからも挑戦を続けていきたいと思っています」

ここで、墓前で流し続けていた曲が終わりに近づいた。

「共に歩んでいこう この先どんな壁が来ても 手を取り合い支え合って生きていけば きっと光見える 夢は叶う 明日は晴れる」

まるで、やっくんからTaiGa に送られたエールのように聞こえる。

12年前に突然途絶えた時間は決して終わりではなく、今もTaiGaの中で確かに息づいているようだ。

取材・文/佐藤ちひろ

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