〈教員休職は過去最多〉「よその子を追いかけまわし、学校にも凸」過激化するモンペ、ウソをつく教員…教育現場に弁護士の介入は必要か?大阪では「スクールアトーニー制度を導入」
〈教員休職は過去最多〉「よその子を追いかけまわし、学校にも凸」過激化するモンペ、ウソをつく教員…教育現場に弁護士の介入は必要か?大阪では「スクールアトーニー制度を導入」

文部科学省の調査「教育職員の精神疾患による病気休職者数(令和5年度)」によれば、教育職員の精神疾患による病気休職者数は7119人と過去最多を記録した。背景にはさまざまな要因があるが、保護者等からの過剰な苦情や不当な要求等への対応による負担もその一つだろう。

 

この問題をめぐり、大阪弁護士会が「スクールアトーニー」と呼ばれる新たな制度を立ち上げた。その目的や課題について弁護士に話を聞いた。 

大阪弁護士会が「スクールアトーニー」制度を立ち上げ

学校や教員に対する保護者等からの過剰な要求や不当要求への対応策として、このほど大阪弁護士会が「スクールアトーニー」と呼ばれる新たな制度を立ち上げた。大阪で従来取り組まれていた「スクールロイヤー」とは異なり、弁護士が学校や教員の代理人として保護者に直接対応できるのが特徴だ。

なお、文科省は学校問題全般に関わる弁護士をスクールロイヤーと総称しているが、大阪では助言型の「スクールロイヤー」が先行していたため、混同を避けるために「スクールアトーニー」の名称が使用された。

制度の立ち上げにも携わったアクト大阪法律事務所の中嶋弁護士はこう説明する。

「以前より、学校の教職員が保護者対応にかなり時間を割いており、これによって現場の教職員が疲弊しているということが問題視されており、文科省も弁護士等の専門家が教職員を支援する仕組みの構築を目指していました」

中嶋弁護士によれば、学校や教職員に対する不当要求の実態把握は2010年頃までには行なわれていたが、2024年に日弁連が弁護士による代理対応の必要性を盛り込んだ意見書(「教育行政に係る法務相談体制の普及に向けた意見書」)を出したことで、制度化の動きが進んだという。

「対保護者という観点で考えたときに、弁護士が学校側の代理人となることが子どもの『教育を受ける権利』の侵害につながる懸念があるため、弁護士が学校側で関与する際は『助言』にとどめるべきだ、というのがこれまでの日弁連の意見でした。

とはいえ、助言のみでは不当要求から教員を守ることができない場合もあります。また、弁護士は依頼者の正当な権利を擁護することが職責であり、『子どもの教育を受ける権利』にも配慮して対応することは当然であって、代理対応が否定される理由にはなりません。日弁連の意見書を受けて各弁護士会も制度構築を検討することとなり、大阪弁護士会でも制度の運用に関して大枠を決めました」

学校現場で起きる諸問題について助言を行なう助言型の「スクールロイヤー」とは異なり、スクールアトーニーはより踏み込んだ対応を行なうという。

「助言型のスクールロイヤーは『助言』までが役割ですが、スクールアトーニーは助言だけでなく『代理』対応まで行ないます。『教員がすぐに保護者対応を投げ出してしまうのではないか』という懸念の声がありますが、これは日常の現場教員の活動を把握していない暴論だと思います。

大阪以外でもすでに代理対応している実例もあり、先生方から『最後に助けてくれるところがあるから頑張れる』といった声もあると聞きます」

保護者による不当な要求の典型は長時間に及ぶ架電や面談要求、謝罪の強要や金銭要求などであり、ときには暴力を伴うものもある。

「5月に東京・立川の小学校で児童の保護者の知人による暴行事件がありました。あのような事件は当該児童だけでなく、現場に居合わせた児童も含めた多くの子どもたちの『教育を受ける権利』に影響します。教員が本来的な業務に専念できるような状況を戻すということも、社会正義の実現を使命とする弁護士の重要な役割だと思います」

目的は子どもたちの「教育を受ける権利」を守ること

制度の運用に向けて、大阪弁護士会では研修も行なったという。

「一般企業のカスタマーハラスメントであれば、『出禁』という対応が取れますが、保護者に対してそれはできません。学校と保護者は義務教育課程で長く関係が続きます。制度の概要説明とともに、このような教育現場の特殊性に由来する注意点や把握しておくべき法律問題を踏まえた研修を弁護士を対象に行ないました」

制度の課題と目的について、中嶋弁護士は次のように話した。

「『スクールアトーニー』の利用者である学校や教育委員会に制度を理解していただき、我々としては制度の広報をしていくことが課題です。あとは現場の予算です。行政は予算がつかないと、ニーズはあっても制度を利用できません。

制度の最終的な目的は、子どもたちの教育環境をよくすることだと考えています。先生方のメンタルを守り、負担を軽減することは、子どもたちの『教育を受ける権利』の実現にもつながります」

スクールアトーニー制度をめぐっては、その弊害について懸念する声もある。レイ法律事務所の髙橋弁護士は、「弁護士が前に出ることによって親の暴言に悩まされる教員が減ること」と期待する点を挙げたうえで、次のように懸念を示した。

「弁護士は法律には詳しいですが、人の話を丁寧に聞き、状況を細かく分析して理解する力は人によって差があります。保護者の悩みを教員から弁護士が引き継ぐことによって問題がバランスよく解決できると考えるのは、弁護士の能力に対する『過剰な期待』かもしれません」

さらに、弁護士が代理対応することのリスクについて次のように言及した。

「保護者は、学校の問題をうまく説明できないために感情に頼ってしまい、それがモンスターペアレントにつながっている部分があります。保護者の言うことを丁寧に汲み取れば、それが『適切な批判』である可能性もあるのです。

日頃から教員が心を砕いて聞き出している保護者の本当の悩みを、弁護士の介入で遮ってしまうことになるならば、結果的に学校側が今まで時間をかけて受け取っていた批判を“封殺”してしまう、という状況になりかねません」

「モンスターペアレント扱い」「学校の不手際でモンスターペアレントにされる」事例も… 

そもそも、「モンスターペアレント」とはどのような保護者なのか。髙橋弁護士によれば、「不可能な要求を突きつけたり、自分の思い通りにならないことに対して感情的・暴力的に解消しようとしたりする保護者」がモンスターペアレントと言えるのではないかという。

さらに、悪質なものではこのような事例もあるという。

「『子どもがモンスターペアレントから追いかけ回される』『突然学校に乗り込んできて“この場で謝らせろ”と要求する』といったものから、登下校路で子どもの後をつけていき、自宅を特定したりする保護者もいます。さらには自宅に乗り込んできたり、登下校路で子どもに声をかけたりして、最終的にはやられた側の子どもが不登校になることもあります」

悪質化するモンスターペアレント問題。髙橋弁護士によれば、最近ではより複雑さを増し、保護者が「モンスターペアレント扱い」される事例や、意図せず「モンスターペアレントにされてしまった」といった保護者からの相談もあるという。

「『些細な問い合わせに対して、学校から回答に数週間かかると言われてしまった。以前自分が感情的になってしまったことがあったが、もしかしたら自分はモンスターペアレントとして扱われてしまっているのでは』と相談してこられる保護者がいます。

また、学校側の対応によってモンスターペアレントという扱いにされてしまう事例もあります。いじめ問題が起きたときに、学校の不手際で初期の調査をしないことがあります。事実が確認できていない状態で保護者が『いじめがあったので指導してほしい』と要望すると、学校から『あの保護者は事実もわからないのに指導しろと無理難題を吹っかけてきている』と“モンスターペアレント扱い”されてしまうのです。

しかし、初動の対応は学校側から正しい対応を提案しなければいけないはずです」

ほかにも、教員が嘘をついたり、問題を報告しないまま後任に引き継ぐ事例もあるという。

「保護者からアンケート調査の要望があった場合に、『上級の教員にも確認したんだけどやらないことになった』などと教員が嘘をつく事例があります。後で第三者委員会が調査を行なうと、そういう学校は忙しいことが多いのです。教員が多忙を極めるイベントシーズンなどにアンケート調査の要望が出た場合に、現場の判断で嘘をついてしまうのです。

また、高圧的な態度の教員もいます。保護者は怒って学校と話し合うことになるのですが、この教員が問題を学校に報告しないまま、後任の教員に引き継いだりしてしまうのです。引き継いだ教員からすると、保護者が怒っている理由が分かりません。結果として、その保護者はモンスターペアレントと呼ばれてしまう。このように不幸にしてモンスターペアレント扱いされている保護者もたくさんいます」

髙橋弁護士は、最後に「学校という大きな組織の運営である以上、外部で保護者からの意見を吸い上げるような場所を作ってもいいくらいだと思います。

それを弁護士が請け負うのは、かなりの負荷を弁護士にかけてしまうのではないでしょうか」と懸念を示しつつ、制度を見守っていきたいと話した。

さまざまな問題が山積する教育現場。新たな取り組みが実を結ぶことを願うばかりだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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