「10歳まで生きられないかもしれない」野田聖子議員、50歳で出産した特別支援学級に通う一人息子との日々
「10歳まで生きられないかもしれない」野田聖子議員、50歳で出産した特別支援学級に通う一人息子との日々

代議士生活33年。現在は自民党所属の衆議院議員として政治活動に励んでいる野田さん。

女性議員のパイオニア的存在でもあり、これまで自民党総裁選に何度も名前が上がってきたことでも知られている。 

 

50歳で授かった息子・真輝(まさき)さんは今年14歳になり、特別支援学級の中学3年生として義務教育最後の年を迎えた。母としても子育て真っ盛りの65歳だ。 

 

出生当初、「10歳まで生きられないかもしれない」と言われた真輝さんは、野田さんの政治家としての原動力でもある。そんな野田さんに、真輝さんとの日々と、現在の思いについて聞いた。(前後編の前編) 

代議士であり母、野田聖子が語る1日 

国会議員としての公務と息子・真輝さんの子育ての日々を送る野田聖子さん。夕方以降のスケジュールは会合等で埋まることが多いが、真輝(まさき)さんの“夜中のケア”の時間までには自宅に戻れるよう調整しているという。

「私は今、どちらかというとナイトシフトなんです」と野田さんは微笑む。

「私の1日は、『代議士の野田聖子』と『息子のケア担当の野田聖子』に分かれている感じですね。でも私の場合、仕事がどうしても夜遅くなりがちなので、夜から逆算してスケジュールを入れています。

午前1時に最後の注入(真輝さんの胃ろうケア)があるため、どんなに眠くても起きていなければいけない。それを終えて、大体午前2時には寝るようにしています」(野田さん、以下同)

ケアの前後、入浴しながらNetflixを見たり、ネットで情報収集をしたりするのが、野田さんの息抜きタイムだ。

朝は以前より楽になったという。



「昔は午前5時に起きて朝のケアも二人でやっていたんですが、ありがたいことに、息子がある程度自分で出来ることも増えて。それからは家族3人で決めて、基本的に朝はママは起こさず、ケアはパパがやるという形になりました。

我が家では料理や息子の送り迎えなど、夫が家庭内のことをやってくれているのもありがたいです。少しずつみんなでやりくりができるようになって私の負担が減ったから、勉強や他のことに時間を充てられるようになりました」

野田さんは長年の不妊治療の末、2010年にアメリカで卵子提供を受けて体外受精を実施し妊娠。2011年に真輝さんを出産した。

真輝さんは生まれてすぐに臍帯ヘルニアと食道の手術を受け、生後4か月で極型ファロー四徴症という心臓の手術も経験した。

生後9か月には3分間の心肺停止により脳梗塞を起こし、右手・右足に麻痺が残った。1歳前には気管切開の手術も行った。加えて、知的障害も抱えている。

現在も1日4回の胃ろうによる栄養摂取、痰の吸引、人工鼻へのバルブ装着など、日常的な医療ケアが欠かせない。薬は胃薬や痰を切るものなど、常時複数を服用している。

「薬が多すぎて薬局みたいになっています。

お薬のタイミングを間違えないようにするのも一苦労です。10年以上やってますから、もう慣れましたけどね」

災害時は自宅がICUになる

学校へ行く年齢になったとはいえ、現在でも日常的に医療的ケアが必要な真輝さんとの生活では、災害時の対応も重要な課題だ。

「災害のときは基本的に自宅待機と決めていて、避難所には行かない方針です。自宅はマンションの高層階なので、エレベーターが止まったら降りられませんから。家の中で3日間ICUができるよう、蓄電器、カセットコンロのボンベ、水などを普通の家庭より多めにストックしています」

意外だったのは、歯科医院への定期通院だ。

「栄養を口から取らない、物を食べない子なのに歯医者に行く必要があるのかと最初は思っていました。それは大間違いで、唾液や空気中の感染症対策として、歯のケアは重要なんです。月に1回、歯石を取りに行っています」

真輝さんが口から食事をとれる可能性について、野田さんはこう率直に語る。

「血は繋がっていないけれど、彼は母親である私譲りの怠け者なんですね。真輝にとって口に物を入れるというのは、歯医者さんによると『一般の人にとってみたらコンクリートを口に入れる』ような感覚だそうです。

胃ろうで胃へ直接栄養を摂取する方が息子にとっては楽だと思います。味覚が育っていないし、物を摂取するという本能が育っていないので。

となると、無理をしてまで『食べる』という行為はしたくないでしょう」

とはいえ、学校では友達と一緒にスープを飲むこともあるという。

「仲間外れにされたくない意識があるのか、『今日は3杯おかわりしました』と連絡帳に書かれていて。家では見せない顔があるみたいです(笑)」

また、先日は放課後のデイサービスで、さくらんぼのゼリーを食べたことも。

「担当してくれたのが彼にとって好みの先生だったらしく、それで食べたようです。結構カッコつけるんですよ」と野田さんは苦笑いする。

そんな真輝さんは現在、お笑いに夢中だ。YouTubeでお笑い動画を見ることが大好きで、「推し」はお笑い芸人の中川パラダイスさんだという。

「親の贔屓目かもしれませんが、天性のお笑いセンスがあるんです。叱られても周囲を笑わせるし、これだけは教えて身につけられるものじゃない。これも私に似たのか、出たがりですしね。TikTokの動画アップにも興味を持っています。

障害を持っていると『純粋で天使のよう』というイメージを持たれがちですが、本当に嫌な男ですよ(笑)。

人を騙そうとするし、嘘もつく。人間の邪な部分もしっかり全部持っているんですよ」

そう冗談めいて我が子を語る野田さんは、とても優しい眼差しであった。

PROFILE●野田聖子(のだ・せいこ)●衆議院議員。1960年生まれ、福岡県出身。1987年、史上最年少の26歳で岐阜県議会議員に当選。1993年に衆院議員に初当選し、現在11期目。郵政政務次官、郵政大臣、自民党政務調査会副会長、筆頭副幹事長などを歴任。自民党離党、復党を経て、総務大臣、幹事長代行、内閣府特命担当大臣(地方創生、少子化対策、男女共同参画)を歴任。人口減少問題をはじめ女性活躍や多様性社会の推進などに取り組んでいる。2011年に長男・真輝さんを出産。近著に『女性議員は「変な女」なのか』(辻本清美議員との共著・小学館)などがある。

取材・文/木原みぎわ 撮影/齋藤周造

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