〈自民総裁選〉小泉進次郎氏先行「実務経験に乏しい世襲のプリンスで本当にいいのか?」早大招聘研究員が自民議員に呼びかけ
〈自民総裁選〉小泉進次郎氏先行「実務経験に乏しい世襲のプリンスで本当にいいのか?」早大招聘研究員が自民議員に呼びかけ

自民党総裁選はいよいよ今日、開票される。決選投票にもつれ込むのは確実な情勢とみられるが、議員票で優位に立つ小泉進次郎氏が有利との見方が強い。

しかし、国際政治アナリストで早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「民主主義国のリーダーとして相応しいか疑問だ」と指摘する。そして自民党の議員たちに呼びかける。「あなた方の総裁は本当に小泉進次郎氏でいいんですか?」 

自民党所属の国会議員の良心に今一度問いかけたい 

自民党総裁選の結果は間もなく明らかになるが、おそらく次期総理・総裁は小泉進次郎氏でほぼ決まりという見通しだ。第一回投票で決まるか、決選投票で決まるかの違いはあるが、国会議員票は小泉進次郎氏優勢であることから、今から情勢が大きく変わることは想定し難い。 

しかし、そのような状況であるからこそ、本稿では自民党所属の国会議員の良心に今一度問いかけたい。あなた方の総裁は本当に小泉進次郎氏でよいのですか、それが本当に日本のためになるのですか、そして国会議員として初めて議員席に座った時のあなたならその選択をしましたか、と。

永田町で時間を過ごすと政界の論理に染まってしまうものだ。どのような大志を持って国会議員になったとしても、人間関係の貸し借り、ポスト、金、票などのあらゆる要素が初心を忘れさせる。

辛うじて、青臭かった頃の気持ちが残っていたとしても、自分の身のこと、そして選挙区のことを考えれば、本音のままに振る舞うことができないことも分かる。

しかし、この場ではあえて自民党の国会議員の皆様に青二才の問いかけをしたい。あなた方は、そんな一票を投じるために苦労して議席を得たのですかと。

筆者は小泉進次郎氏のパーソナリティを批判しているわけではない。ぱっと見では、好印象な人物であり悪い人だとも思えない。

たとえ少しばかり意味不明な発言をしたとしても、それも愛嬌だ。

 自民党議員は最高司令官の地位に、本気で相応しいと思っているのか 

だが、小泉進次郎氏の人柄と、彼が自民党総裁に相応しいか、ということは別問題だ。そして、野党がバラバラである以上、自民党の総裁はそのまま日本の総理になる。

言うまでもなく、内閣総理大臣は日本政府のトップだ。現在、日本を取り巻く外交安全保障環境は地政学上の危機が高まりつつあるが、小泉進次郎議員には外交安全保障の要職に就いた経験が無い。米国で一時期大学院生として過ごし、米シンクタンクでスタッフ見習いのような仕事をしただけだ。

自民党の国会議員はその人物に、日本の外交安全保障上の重要決断を本気で任せてよいと思っているのだろうか。彼は外交安全保障については大臣はもちろん、外務・防衛副大臣・政務官を務めた他の議員たちよりも知らないだろう。

まして、有事となれば多くの国民の生命・財産が危険にさらされ、自衛隊は命を賭して国民を守ることになる。その最高司令官の地位に、小泉進次郎氏が本気で相応しいと思っているのか。

もちろん民主主義国である以上、自衛官は職務を粛々と果たしてくれるだろう。しかし、彼の姿が国民を奮い立たせるとは到底思えない。

 主要な役職を経験していない世襲のプリンス

ただ世襲のプリンスとして当選回数を重ねた人物よりも、総理総裁として有事の際にその地位に相応しいと思う国会議員は本当にいないのか。

日本経済はデフレから脱却の兆しが見え始めたところだ。

小泉進次郎氏の閣僚経験は環境大臣と農林水産大臣としてのキャリアしかない。彼は日本経済全体を見渡すポジションに就いて実務を担ったことがない。

これまで自民党は財務大臣、経済産業大臣、外務大臣、または官房長官のような主要な役職を経験した人間を総理総裁に選んできたのではないのか。自民党の経済政策の混乱によって30年間のデフレが続いてきたとしても、それでも何の実務経験がないド素人を選ぶという選択は流石にしてこなかったはずだ。

面従腹背の官僚を従えることは非常に難しい。そのような官僚たちを統率するためのキャリアは明らかに不足している。世襲のプリンスを支える存在として各省からお膳立てされた役人たちが彼を取り囲んでいる姿が目に見えるようだ。

自ら選挙の価値を毀損する行為をしてしまった

「2030年度までに名目賃金100万円の上昇」という公約は、現在のインフレ率・名目賃金上昇率を見れば容易に達成できるため「役人に任せて何もしない」と述べているのに等しい。そのような目標を掲げて疑問を抱かない総理とは一体なぜ存在するのか。

自民党の国会議員は国民の生活や日本の将来がかかった経済政策に対する責任感を既に失ってしまったのか。

世界情勢は権威主義国の台頭によって乱れている。権威主義国の指導者はオールドメディアを統制してSNS規制を進めている。政権から見て不都合な国民の言論を制限することに何ら躊躇いはない。

小泉進次郎氏の陣営は、今回の総裁選挙においてステマを行うためのマニュアルを自陣営に配布するなど、自ら選挙の価値を毀損する行為をしてしまった。また、彼の地元である神奈川県連で党員名簿削除に関するミスが生じたことも事実だ。このような状況が起きてしまった以上、権威主義国と対峙する民主主義国のリーダーとして相応しいか疑問だ。

小泉政権に国民の言論に規制を課す資格は既に失われている 

ここで改めて言及するが、自民党総裁選は単純に同党のトップを選ぶというだけの選挙ではない。中国の習近平やロシアのプーチンと対峙するだけの資格がある民主主義国のリーダーを選ぶものだ。

民主主義の観点から傷がついた人間が担うべきではない。まして、昨年の総裁選挙時、小泉氏は北朝鮮の金正恩氏を念頭に「首相になればトップ同士、同世代なわけだから、今までのアプローチにとらわれず、前提条件なく向き合う、新たな機会を模索したい」と述べていたが、小泉氏が行うべきことはそんな友達感覚の話ではないはずだ。

さらに、言論の自由という観点からは、今回の総裁選後、自民党の中にはSNS規制を推進する意向を示している国会議員がいるが、ステマ騒動の小泉政権に国民の言論に規制を課す資格は既に失われている。

最後に、日本は、政界、官界、財界、その他の領域において、戦後80年の間に作られてきた門閥支配が幅を利かせている。

特に実績もない世襲議員が総理総裁に立候補して、まさに権力を手にしようとしてる姿を見れば、国会議員一人が自らの正論を通そうとしても無力感に絶望もするだろう。かつては国民と同じ立場にあった叩き上げの国会議員であれば、エスタブリッシュメントの世界は遠い世界のように感じるかもしれない。

氷河期世代は、怒りを通り越して…

しかし、国民の諦観はそれ以上のものだ。世襲議員が地盤を引き継ぎ、総理が事実上世襲される世の中に何の希望があるのだろうか。

氷河期世代の人々は、怒りを通り越して乾いた笑みを浮かべるのではないか。

それよりも若い人々にとっては、成功するには血筋が全て、という価値観が当たり前になってしまうことすら懸念される。

政治は日本国民のために行うべきものだ。そして、自民党の議員を国会に送り出した票は、名も無き市井の人々の思いを投じたものだ。したがって、自民党国会議員の一票はあなたのためのものではなく、日本国民にとって正しい選択をするためのものだ。そして、あなたが投じた一票は日本の歴史に残ることになる。

自民党議員が今回投じる票は、激動の時代の中で、本当に重要な総裁選挙での一票だ。だからこそ自らの良心に従った投票を行うことをお願いしたい。

文/渡瀬裕哉

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