ホリエモンが警告「日本の医療費は5〜10兆円をドブに捨てている」風邪で抗菌薬、無意味な検査…誰も止められない“ムダ医療”の実態
ホリエモンが警告「日本の医療費は5〜10兆円をドブに捨てている」風邪で抗菌薬、無意味な検査…誰も止められない“ムダ医療”の実態

念のために無意味な薬を出す、医者が必要のない検査で稼ぐ……日本では「ムダな医療」によって年間数兆円の医療費がドブに捨てられている。堀江貴文氏は、このままでは保険制度が破綻すると警告する。

彼が提言する、他国では当たり前に行われている「医療改革」の具体案とは。

『日本医療再生計画 国民医療費50兆円時代への提言22』より一部抜粋・再構成してお届けする。

ムダな医療に年間数兆円を垂れ流している現実

知っているだろうか? 日本の医療費は年間50兆円を超えようとしているのだ。しかもその10~20%が「ムダな医療」に使われているのではないかとも言われている。つまり5兆円から10兆円をドブに捨てているようなものなのだ。

これは本当に危機的な状態だと思う。

私が言う「ムダな医療」というのは、科学的根拠がほとんどないか、患者にとって利益があるどころか、むしろ害になる可能性すらある医療のことだ。

例えば、風邪で受診して抗菌薬・抗生物質をもらったことがある人もいるだろう。抗菌薬はウイルスには効かないのでムダだ。しかし、そのような薬の出しかたをする医者はまだ多くいるし、知識もないのに欲しがる患者もいる。これは聞きかじりや思い込みによって信じ込んだ宗教のようなものだ。

「昔からやってるから」は思考停止の極み

「でも、伝統的な医療には価値があるんじゃない?」と言う人もいるだろう。確かに漢方とか鍼灸とか、長年使われてきて最近になってエビデンスを作ろうと努力されはじめたものもある。

でも「昔からやってるから」というだけで無批判に信用してやり続けるのは、完全に思考停止だ。

瀉血(しゃけつ)という治療法を知っているだろうか? 現在でも真性多血症や肺炎など一部の治療に用いられているが、昔は高血圧症や脚気(かっけ)をはじめ万能の治療法として、血を抜いていた。現代の人からしたら全くもってまともな治療法ではないが、近世までは「伝統的で万能の治療法」だった。

重要なのは、本当に効果があるかどうかを科学的に検証し、安全性と効果が証明されたもののみを実施することだ。「伝統医療」からきたものでも、これらが証明されているものは残せばいい。しかし「なんとなく効きそう」というレベルで治療薬や治療法を保険適用していたら、医療費なんていくらあっても足りない。

Choosing Wiselyを知っているか?

アメリカで2012年から始まった「Choosing Wisely」というキャンペーンがある。「賢く選ぼう」という意味だ。医者と患者が「本当に必要な医療か」を話し合おう、というキャンペーンである。80以上の医学会が参加して、700以上の「やらなくていい検査・治療」をリストアップしている。例えば、

軽い頭痛症状でCTやMRIは不要
風邪に抗菌薬・抗生物質は効かない
低リスクの手術前の心電図は不要

こういうことは、日本でもやるべきだろう。しかし実際には、不勉強な医師が多かったり、医師会の抵抗があったり、「患者様は神様」みたいな風潮が残っていたり、根拠のない要求をする患者がいたりでなかなか進まない。

イギリスのNICE(国立医療技術評価機構)は、もっと踏み込んでいる。「do not do(やるな)」リストを作って公開しているのだ。

これは凄く合理的だ。効果がない、費用対効果が低すぎる、害になる可能性の方が高い医療行為を明確にして、「やるな」と言い切ってしまう。

日本だったら「医師の裁量」とか「患者の選択の自由が~」とか言い出す人がいそうだが、税金と保険を使っている以上、ムダなことに金を使うなという強い圧力は絶対必要だ。

ムダな医療を「リスト化」せよ

私の提案はシンプルだ。ムダな医療を皆で確認するために、まずはリストや条件の原則を作ろう。

リストを作った上で議論を進め、やはり効果の乏しい医療行為は、初年度20%減、次年度50%減、3年後には保険適用外、といった形で切っていって、医療費を削減する。これくらいやらないと変わらない。

「でも急に変えたら現場が混乱する」という意見もあるだろう。だから段階的に行うべきなのだ。医者も患者も適応するには時間が必要だ。しかし、ダラダラ先延ばしにするのは問題外だ。

そして削った金をどう使うか。私は「予防医療」に回すべきだと思っている。

ワクチン接種の強化、生活習慣病の早期発見・介入、健康教育の充実。こういうのに投資した方が、長期的には医療費・社会保障費削減になるし、国民も健康になる。

医者も患者も意識改革が必要

結局、一番の問題は医者の意識だ。「とりあえず検査」「念のために薬を出しておく」「患者(顧客)の要求を丸吞みする、満足度を上げる」「検査などで稼ぐ」このような思考を変えさせないといけない。

医学部での医学教育の段階から「資源は有限」「費用対効果を考えろ」と頭に叩き込む必要があると思うが、40歳未満の医師ではその意識改革は結構できていると言われている。それ以上の年齢の医師への生涯教育や指導が、絶対必要だ。

また、出来高払い(やればやるほど儲かる)ではなくて、治療の質と必要性などで評価する仕組みをもっと増やすように変えていくべきだろう。

患者側の意識も変える必要がある。「とりあえず病院へ行っておこう」「病院行ったら何かしてもらわないと」みたいな考えは捨ててほしい。

必要のない検査や薬は、あなたの体にとってマイナスかもしれない。受診して「大丈夫」と言われるだけでも価値があることを認識しないといけない。なんと言っても、費用は結局、保険料や税金として自分たちに跳ね返ってくるのだ。フリーライドしてしまう誘惑に負けてはいけない。

データで見える化しろ

さらに、どの医者・医療機関がどれだけムダな医療をしているか、データで「見える化」していくべきだ。

例えば、風邪患者への抗菌薬・抗生物質処方率が平均より明らかに高いだとか、症状もないのに採血をするだとか、必要以上に訪問診療をするような医者には、診療報酬の減額などのペナルティを科すことを検討しても良いかもしれない。

「医者の裁量権が~」などと言う人がいるけれど、エビデンスに基づかない「裁量」なんて、ただの思い込みだ。データに基づいて議論しよう。

既得権益層との戦いは避けられない

この改革は簡単ではない。医師、医師会、製薬会社、医療機器メーカー、みんなが既得権益を守ろうとするからだ。

しかし、このまま放置したら医療保険制度が破綻するのは時間の問題だ。若い世代が、高齢者に使われるムダな医療費を負担し続ける構造なんて、持続可能なわけがない。

誰かが悪者になってでも、改革を進めないといけない。

私は別に医療関係者に嫌われてもいいから、言うべきことは言いたいと思う。

医療の本質は「患者を健康にすること」だ。ムダな検査や治療は、その目的にそもそも反している。「昔からやってるから」「みんなやってるから」は理由にならない。

ムダをできるだけ削って、本当に必要な医療に資源を集中させる。

これが、持続可能な医療システムを作る唯一の方法だ。

文句があるなら、データを持ってこい、と言いたい。感情論はいらない。合理的に考えて、行動せよ。それが、この国の医療を救う道だ。

文/堀江貴文

『日本医療再生計画 国民医療費50兆円時代への提言22』(幻冬舎新書)

堀江貴文 (著)
ホリエモンが警告「日本の医療費は5〜10兆円をドブに捨てている」風邪で抗菌薬、無意味な検査…誰も止められない“ムダ医療”の実態
『日本医療再生計画 国民医療費50兆円時代への提言22』(幻冬舎新書)
2025/9/251,056円(税込)184ページISBN: 978-4344987838

誰のための医療か、何のための制度か──
構想10年、ホリエモンが旧態依然とした医療制度にメスを入れる!
健康は自分たちの手で守れ。
「予防」を起点にした、合理と科学で組み直す医療の未来

2016年に予防医療普及協会を立ち上げた堀江貴文が、専門家や現場の医師と共に構想した22の改革提言。
健診データの一元化、ワクチン政策の再設計、延命医療や保険制度の見直し、教育現場での予防知識の導入──どれも今すぐ始められる現実的な策ばかりだ。
感情や前例主義ではなく、科学とデータに基づいた合理的な選択が求められている。
本書は、次世代に誇れる医療を築くためのアップデートの設計図である。

編集部おすすめ