どんな会社にも会議はあるが、会議の開催自体が目的化しているという相談をよく受けるという心理学者の舟木彩乃氏。“ミーティング依存症”の上司が招集する会議では、「上司の考えをひたすら聞く」「すでに決まっている内容を再確認しているだけ」ということもよくあるという。
心理学者の舟木彩乃著『あなたの職場を憂鬱にする人たち』より一部抜粋・再構成してお届けする。
ミーティング依存症の上司
久本さん(仮名、男性30代)は、営業一課の課長に異動してきて3か月になりますが、上司にあたるF部長(男性50代)があまりに頻繁に開くミーティング(会議)に疲れはじめています。
営業部門は、営業一課から四課まであり、それぞれの課の課長の下に3~4名のメンバーがいます。課長とはいえ部長に従うだけの名ばかり管理職でしたが、週4日も開かれる会議もまた、課長たちは無駄と思いながらも従うしかないことのひとつでした。
この会議は1回につき60分のはずでしたが、実際には90分以上かかり、オンラインでの出席は認められませんでした。議題は、週の最初と最後の会議は、その週の目標や振り返りなどと“なんとなく”決められていました。
しかし、各課の課長から5分程度の簡単な報告を受けたあとは、部長の独壇場と化し延々と話が続きます。各課が週単位・月単位の売上げ目標を達成できていない場合、部長の熱い営業哲学の話も始まります。
学生時代、ずっと体育会に所属していたF部長は、社会人になってからも体育会気質が抜けず、上下関係を重んじ、“気合い”という類いの言葉をよく持ち出します。飲み会や会議、商談はリアルで開催しないと意味がないと信じており、昭和世代の体育会活動をそのまま職場に持ち込んでいます。
会議では、部長からみんなに「なにか意見がある人は?」という問いかけはあるものの、そこで部長の方針や考えと異なる発言をすると大変です。自分に従わない発言者を徹底的に問いつめはじめて、60分の会議が3時間にまで及び、それでも終わらず次の会議に持ち越しになることもあり、もはや誰も意見を言わない会議になっているそうです。
しかし、意見が出ない会議も部長にとっては不服なようで、「どうして誰も自分の意見を言わないんだ」とキレ出すことさえあります。ただ、これは自由に意見を言ってほしいというよりは、部長の考えに賛同し賞賛してほしいという意味のようです。
背景には“賞賛されたい”という承認欲求がありますが、同時に、なにかあったときの保険として「全員で話し合って決めた」という形式にこだわっているようでした。
会議の回数を減らそうと意見をした前任者の課長の末路
営業部門に異動してきて日が浅かった頃、久本さんは部長の言葉を額面通りに受け取り、会議で自分の意見を言っていました。
すると決まって部長が、「久本君は、営業に来たばかりでわからないだろうが、それではうまくいかない」と言って、30分以上も指導が入ったそうです。さらには、他の参加者に「久本君の意見をどう思う?」などと一人ひとりに聞き、部長の意見に無理やり“賛同させられる”ような雰囲気でした。
久本さんは異動後しばらくして、他の課長と会議の件について話しましたが、全員が会議を非効率であると感じていました。また、会議で部長が他の人の意見を素直に聞いているように見えるときでも、実際には自分の考えに刃向かっていると捉え、後で反撃する場合があることもわかりました。
賛同以外の意思表示をすると、気が済むまで話が続くので、なるべく会議を長引かせずに済むよう、みんなで気をつけていたということです。
久本さんの前任者の課長は、会議の回数を減らし、オンライン参加も認めるべきだという意見を部長にしたところ、嫌われてしまい仕事がやりにくくなったということです。稟議書が部長のところで止まり、予算は営業一課だけが難くせをつけられ、人事評価も下げられ結果的に転職してしまったそうです。課長が部長の方針に反対すると、結果的に課のメンバー全員の成果にも影響する構図になっていました。
社内でF部長の専横が許されていたのには理由がありました。
何をしても部長が異動になることはないので、以前からいる他の課長や部下は、久本さんには会議で部長に余計なことは言わず、無駄に会議を長引かせないでほしいと願っていたようです。
久本さんは、部長率いる営業部門の特性はよくわかったものの、これからも毎日のように部長独壇場の会議が続くと思うと、転職した前任者の気持ちがよくわかったそうです。そしてなにより、このような状態では、業績が伸びていく未来が描けませんでした。
久本さんは筆者のところへ相談にきましたが、そのときにはすでに転職も決意している様子でした。社内の異動があったばかりなので、この環境から逃れるのは転職以外にないと思ったそうです。
ミーティング依存症の上司の心理的背景
F部長のようなミーティング依存症の上司には、どのような心理的背景があるのでしょうか。
体育会系のノリをそのまま職場に持ち込んでいるのは、「年功序列」「リーダーの意見は絶対」「会議をすること(自体)が大事」「コミュニケーションは必ずリアル」など、これまでの成功体験や習慣への執着がありそうです。
このような執着は、コントロール欲求(常に自分が全員を把握し、中心人物でいたい)や承認欲求(自分が重要な存在であることを知らしめたい)の表れだといえます。部長にとってこれらの欲求が満たされ、体感できる場が会議なのでしょう。
当然、会議は会議でも、自由なディスカッションなどは彼のなかでは会議にカテゴライズされません。また、会議を繰り返したり、全員に反対意見についてどう思うかを聞いたりすることで、責任を分散させているところもあります。なにか問題が生じたときに、自分だけで決めたのではなく、みんなで決めたという形を取るのは、意識的であれ無意識であれ、根底に不安があるからです。
このような人は、常に「自分が不要な存在になったらどうしよう」という恐怖心を持っている場合も多いです。
このような状況に対処するには、部長を立てながら、会議の目的や所要時間をきちんと決めていく必要がありそうです。その際には、たとえば「週30パーセントが会議の時間になっている」などという客観的データを交えて話し合ったり、先に部長の上司にあたる責任者に根回ししたりすることも必要になるでしょう。
久本さんは、このようなデータを集めたうえで、部長の上司にも相談し、それでも解決しないようであれば転職を考えていくことにしたそうです。
集団の意思決定が誤った判断になってしまう現象も
ところで、リーダーに逆らえないような組織ではなく、本当に凝集性が高く閉鎖的な集団の場合には、危機的状況に直面したときに的確な決定をするのが難しくなることがあります。物事を決定するとき、一人よりも集団で協議したほうが優れた結果が得られると考えがちですが、集団で決めることにより、かえって誤った方向にいってしまうことがあるのです。
このように、集団の意思決定が一人で考えた判断よりも劣った、誤った判断になってしまう現象を、「集団的浅慮」といいます。
集団的浅慮を引き起こしやすい集団では、異論を唱えることへの心理的圧力があって反対意見が出にくいうえ、外部からの意見を軽視してしまうという傾向があります。
つまり心理的安全性が低い職場です。
世間的には「間違った決定などしそうにない」と信用性の高い大企業でも、こうした集団的浅慮は発生します。閉鎖的な組織の場合は、誤りを指摘されても認めたくないという心理が働くからです。
たとえば、顧客情報のセキュリティについて脆弱性が指摘されていたのに、対処せずシステムを稼働させていた結果、膨大な顧客情報の流出につながった金融機関や流通企業のケースなどがこれにあたります。
対処しないという決定事項が間違っていたと判明した場合、すぐに決定を撤回すれば傷口を広げずに済むはずです。
「集団的浅慮」を提唱したアメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスは、他の選択肢を十分に検討しない、都合の良い情報ばかり重視して分析する、想定外の非常事態やその対策についての考慮が乏しいといった傾向を改善しない場合に、集団的浅慮に陥りやすいと指摘しています。
これを避けるには、わざと反対意見を述べる「悪魔の擁護者」をメンバーの中に作っておく方法が有効だといわれています。これにより、他のメンバーが遠慮することなく自由に意見を言えるようになり、集団の意見を再検討する機会が生まれるからです。
チームビルディングや会議を有益にするための方法の一つとして、「蒸し返し厳禁ルール」というものもあります。会議中、話が脱線している、あるいは議論の蒸し返しだと感じたら、誰でも発動できる「蒸し返し厳禁」を意味する警告カードやびっくりチキン(音が鳴る鳥の人形など)を、手に持って掲げるなどです。
この合図が、本題に戻ろう、話を蒸し返すのをやめようという意思表示になります。さまざまな工夫で、集団的浅慮に陥ることを避けることが、場合によっては必要です。
文/舟木彩乃
『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(インターナショナル新書)
舟木彩乃(著)
職場の働きやすさは、人間関係が9割。
1万人以上のカウンセリングをしてきた心理学者が
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あなたの職場には「この人さえいなければ、もっとストレスなく働けるのに」という人はいませんか。
問題があるのは、上司、部下、それとも同僚? ひょっとしたら自分自身なのかも?
官公庁や総合商社、中小零細企業、研究所、小売業まで、さまざまな職場で1万人以上のカウンセリングをしてきた心理学者が、豊富な実例を挙げ、問題の根本を探り、具体的な解決策を提案していきます。

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