
政局の不透明感が株式市場を揺さぶっている。公明党が連立離脱を通告した、10月11日の大阪取引所の日経225先物は前日比2420円安の4万5200円で夜間取引を終えた。
今後は「高市首相」か、野党連合による非自民の候補者か、が焦点となりそうだが、まさかの自民党総裁選やり直しという議論も出てきた。仮に「小泉進次郎総裁」が誕生することになれば、相場が大荒れとなるのは間違いない。
国民民主党が「玉木首相」に慎重なのはなぜか?
「高市トレード」は高市総裁の積極財政への期待感を背景にしたものだ。円安が進行して株高を誘引し、債券安が起こるという3点セットが特徴だ。高市氏は必要であれば赤字国債もためらわない姿勢を打ち出しており、ここが一番のポイントだった。
10月12日に高市総裁は自身のXに税制調査会長人事に関する投稿を行なっている。その中で、「財務省出身の税の専門家だけで税制調査会の役員を固めるのではなく、憲法上「全国民の代表者」として国会に送って頂いた国会議員達が必要だと考える」とのコメントを残した。税制において財務省よりも国民に目を向けたのだ。
高市総裁は税制調査会長の人事で、減税派との対立を深めた宮澤洋一氏を退任させ、小野寺五典前政調会長の起用を固めた。宮澤氏はガソリン暫定税率廃止後の代替財源の提案を野党側に求め、「年収の壁」を巡っては103万円の壁を守る「ラスボス」と呼ばれた。
その宮澤氏の退任によって、代替財源を伴わないガソリン暫定税率廃止や、年収の壁の引き上げが視野に入ってきたわけだ。それに伴って赤字国債を増発することになれば、債券価格が下落して円安が進行、株高が進むことになる。
日経平均が史上初の4万8000円に押し上げられたのは、高市総裁が首相に選出されてこの「サナエノミクス」が動き出すことへの期待感が大きかった。しかし、公明党の離脱で首相就任に暗雲が立ち込めたわけだ。
ただし、足元の状況を見ると高市氏が首相に選出される可能性は依然として高そうだ。なにしろ、野党の足並みがそろっていない。
野党第一党の立憲民主党は野党候補の一本化を図り、政権交代を虎視眈々と狙っている。立憲民主党の安住淳幹事長は、国民民主党に対して「玉木首相」も辞さない考えを示した。しかし、玉木代表は基本政策の違いを理由に共闘体制を牽制している。
国民民主党最大の支持基盤である、連合の芳野友子会長も源流が同じ立憲民主と国民民主の連携を歓迎していた。
しかし、議席数がまったく違う両党が組んで玉木代表が首相になれば、そのかじ取りの難易度の高さは想像に難くない。仮に短期間で政権運営に失敗することになれば、玉木氏に責任だけを負わされ、党の勢いをいっきに失う結果になりかねない。
また、国民民主はSNSを使った無党派層の取り込みに力を入れている。今はむしろ連合からは一定の距離を取りたいはずだ。
そして、今の自民党と連携しても過半数が取れないために与党入りも意味がない。
国民民主党にとっては自民党とも立憲民主党とも組まず、距離をとりながら政策実現を訴えて国民の支持を集め、解散総選挙に備えて党勢を拡大することが最善手なのだ。
自民党党内から総裁選やり直しという意見が…
万が一「玉木首相」が誕生したとしても、積極財政路線は変わらない。消費税5%引き下げの財源について「躊躇なく赤字国債を発行すればいい」と主張していたのだ。そのため、野党連合による大どんでん返しがきたとしても、相場の底が抜けるとは考えづらい。
しかし、自民党内から出てきたまさかのシナリオで、常識が通用しない凄まじい衝撃をもたらすブラック・スワンが視野に入った。「小泉進次郎総裁」の誕生だ。
自民党の船田元元経済企画庁長官は、10月12日に自身のFacebookで高市総裁が辞任し、総裁選をやり直すという案を主張したのだ。
この投稿に対しては賛否両論が入り乱れているが、船田氏の主張は首肯できる点も多い。そもそも、自民党と公明党の連立は両党にとってメリットが大きかった。政策においては自民党が税制改革、安全保障、防衛などに力点を置くのに対し、公明党は社会福祉や教育を重視していた。財政や外交、安全保障と生活者の視点で棲み分けができ、バランスのいい関係を築いてきたのだ。
そして公明党の集票システムは強大で、自公の選挙協力なくして自民党の勢いを維持することは難しかった。
仮に自民党が国民民主との連立を実現しても、盤石な組織票は期待できない。国民民主の支持基盤である連合は、自民党との連携に否定的だからだ。これは経団連など経営層と結びつきの強い自民党に、労働組合の連合が安易に迎合できないためである。日本維新の会も大阪には強みを持つものの、全国レベルで勝算が見込める相手でもない。
船田氏は衆院選で公明が立候補した選挙区に自民候補をぶつけるという主張を、正気の沙汰ではないと一蹴。自公の地方組織の間では今なお協力関係を大切にしているところも多く、これが壊れれば多くの自民党議員は困難に直面すると警告している。公明党との連携を欠いた自民の行く末を案じているのだ。
公明党の斉藤鉄夫代表は、10月11日のYouTube番組「ReHacQ(リハック)」において、次々回の首相指名選挙においては連立協議があり得ると発言している。別の総裁であれば、再び連立する可能性があることを匂わせたのだ。
石破政権との距離が近い小泉進次郎氏
仮に船田氏が提案する通り、総裁選をやり直したとすれば、有力候補は小泉進次郎氏になるはずだ。そして「小泉新総裁」の誕生は正にブラック・スワンである。
先の総裁選では、加藤勝信財務相が小泉氏の選挙対策本部を務めていた。
小泉氏は財政健全派で、石破政権との距離が近い。将来の世代にツケを回さないスタンスが強く、株安を誘引すると見られていた。
現在の株式相場には、超小数与党でも自民党の高市総裁が首相に選出されることを期待する、「高市トレード」の片鱗が残っているのは間違いない。それすら覆されることになると、相場の底が抜けて大暴落を引き起こす可能性があるのだ。
取材・文/不破聡