
2025年の秋ドラマがいよいよ本格始動。この秋は話題作が多く、各局が力を入れている作品が目立つ。
テレビ東京のドラマが今期の覇権になる可能性
〇テレビ東京系・ドラマプレミア23『シナントロープ』
『セトウツミ』『オッドタクシー』の此元和津也が脚本を手がける青春群像ミステリー。街の小さなバーガーショップ「シナントロープ」で働く8人の若者たち。突然起こった不可解な強盗事件をきっかけに、一見どこにでもある日常が静かに崩れていく。
画面の湿度が高く、照明のトーンも、会話の間も、すべてが慎重に設計されている。何気ない会話が、後に事件や人物の掘り下げにつながっていき、実写版の『オッドタクシー』とも言える巧みな構成が光る。
登場人物の誰もが“何か”を抱えており、その“何か”が形を見せ始める瞬間にゾクッとする。SNSでは「間の取り方が絶妙」「夜の映像が美しい」といった感想が多い。
序盤ではまだ“ミステリー”の輪郭は見えないが、登場人物たちの行動がすでに物語を動かしている。第1話は“導入”というより、“誘い”だ。静かな会話の中に隠された火種が、これからどう燃え広がるのか。ドラマが進むほどに、この第1話を何度も見返すことになる予感がある。1クールでどんな物語が完結するのか——3か月後が非常に楽しみな作品だ。
〇TBS火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
「じゃあ、あんたが作ってみろよ」——。この一言に、どれだけの共感が詰まっているだろうか。
第1話は、長く付き合った恋人同士の別れから始まる。献身の末に自分を見失った鮎美(夏帆)と、完璧な男を自負しながら相手の気持ちに鈍感だった勝男(竹内涼真)。勝男のプロポーズに対する鮎美の返事は「無理」。まさかの幕開けだが、このドラマは失恋をきっかけに“変わっていく男”を描く。
“男らしさと女らしさ”、古い時代を引きずる勝男は、令和では絶滅危惧種のような“老害”キャラ。だが、その自覚のなさがリアルでどこか憎めない。竹内涼真の自然な演技が、この人物を現実に引き寄せている。彼が“筑前煮”を作るために初めてエプロンをつける——ただそれだけの小さな変化に、“時代が変わっていく気配”がある。
軽いテンポとほどよい笑い、そして時代性を映したストーリー。ポップに今の空気を感じられる、まさにTBS火曜ドラマらしい題材だ。
視聴者を置いてけぼりにした三谷幸喜だったが…
〇フジテレビ水曜ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
三谷幸喜が25年ぶりに民放ゴールデン帯へ帰ってきた。1984年の渋谷を舞台に、まだ“何者でもない”若者たちの夢と恋、そして挫折を描く。タイトルからして挑戦的——そこが三谷らしい。
そして、第1話を観た視聴者の多くが戸惑った。菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波——豪華キャストがそれぞれの物語をスタートさせ、“夢を追う若者たちの不器用さ”を映し出す構成なのだが、登場人物が多く、会話は絶えず、どこを中心に見ればいいのか分からない。SNSでも「ごちゃごちゃしすぎ」「情報量が多すぎる」といった声が目立った。
けれど、その“分かりにくさ”こそがこのドラマの狙いなのかもしれない。面白いのは、2話目の放送後からSNSの反応が一変したことだ。「2話を見たら一気にハマった」「最初はうるさいと思ったけど、慣れたら心地いい」「どんどん面白くなってきた」など、一転して好意的な声が多くあがった。
普通なら第1話でしっかり山場を作って、視聴者を掴む必要があるが、このドラマでは “掴みを作らない挑戦”を、確信犯的にやっているように思える。三谷脚本だからこそできる荒業だろう。「ここまでは見てくれるはず…!」と視聴者を信頼しているような、そんな幕開けだった。
〇TBS金曜ドラマ『フェイクマミー』
金曜の夜に、ひと味ちがう“母と娘の物語”が始まった。
第1話から、“多様性の押し付け”を皮肉るようなセリフも飛び出し、今の時代の空気感をしっかり読んでいる。こういう一言があるだけで、ストレスなく見られるドラマなんだと安心する。
脚本はTBSの次世代脚本家育成プロジェクト「NEXT WRITERS CHALLENGE」大賞受賞者・園村三。受賞作をそのまま連ドラ化するという大胆な試みが、今後のドラマ界にどんな影響を与えるのか。その意味でも、注目すべき1本だ。
日本の王子様がゲイを演じる
〇日本テレビ日曜ドラマ『ぼくたちん家』
及川光博と手越祐也という日本を代表する王子様(?)が“ゲイの恋”をまっすぐに演じる、社会の“すみっこ”に生きる人々の愛の物語。
セリフも演出も穏やかで、でも一言ひとことが心に残る。日テレシナリオライターコンテスト審査員特別賞を受賞した松本優紀によるオリジナル脚本で、重いテーマを扱いながらも、どこかユーモラスで希望がある。
SNSでは「癒された」「優しい世界」「ミッチーがぴったり」と温かな声が並ぶ。日曜の夜に心をゆるめてくれる、そんなドラマが生まれた。
そしてまだ、秋ドラマは始まったばかり。
文/ライター神山