〈田久保市長・独白60分〉「隠れ田久保派っているんですか?」「再び不信任されたらどうしますか?」大混乱の市議選の中、市長が感じる“エンタメ化”するオールドメディアへの違和感
〈田久保市長・独白60分〉「隠れ田久保派っているんですか?」「再び不信任されたらどうしますか?」大混乱の市議選の中、市長が感じる“エンタメ化”するオールドメディアへの違和感

10月12日、静岡県伊東市で市議会議員選挙が告示された。学歴詐称疑惑から不信任決議を受けた田久保眞紀市長が市議会を解散したことがきっかけで始まった伊東市議選。

期日前投票は前回の市議選では998票だったが、今回は10月14日時点ですでに1796票を上回っていることからも伊東市民の関心度が高いことがわかる。

立候補者30名に対し、何名の“隠れ田久保派”が潜んでいるのかなど連日話題になっている市議選について、田久保市長が今何を思うのかその胸中を尋ねた。

「私のほうからこうしろああしろというのはないです」

――伊東市議選の争点が田久保派か、反田久保派かという部分になっていますがそれについてどのように思いますか?

田久保眞紀市長(以下、同)
 いたしかたないのかなというのはあります。ですが、本来はそこではなく、やはり議会のあり方だと思います。

今回の9月の議会は人事も補正予算もある重要な議会だったのですが、私の不信任案を出すということで初日で終わってしまった。私も市議会議員だったこともありますからそれには非常にショックを受けました。

自分が辞職すべきか解散すべきか悩んでおりましたが、やはり一日目で大事な議会が放り投げられ、私の不信任案一色になったのを見てこれは解散するしかないと思って始まった選挙です。

田久保派か反田久保派かという取り上げ方がおもしろいのはわかります。ですが市議会議員は市民の一番身近な代表だと思いますから、どういう人がなるべきか、自分たちの生活にどんな関わりがあるのか、真剣に考えるきっかけになってくれたらいいなと思っています。

――田久保市長を支持するとも支持しないとも言わない立候補者はステルス田久保派」「隠れ田久保派」と言われていますがそういった候補者は実際にいるのでしょうか?

隠れとかステルスというより、私も市議会議員だったので慎重に審議するというのはわかりますから、最初からイエスなのかノーなのかを決めてしまうというよりは議論したり、どうするべきなのかを考え、採決の直前まで迷うということはありました。はっきりしないうちからイエス、ノーを言い切るのも難しいことですし、態度を保留する立候補者が批判されるのは違うと思います。

――市議選に出ている候補者の中には田久保市長と以前から親交のある方もいらっしゃいますよね? そういった方が「支持をする」と表立って言えない空気があるのでは

そういったことは聞いていないです。それに私は候補者の考えが大事だと思っているので、私のほうからこうしろああしろというのはないです。

最初から賛成ありき、反対ありきで動かなきゃいけないということでもありませんし、いろんな考え方を議論したり、それ自体を市民のほうが考えていったり、選んでいくというのもひとつの政治のあり方なんじゃないかと思います。

――候補者の片桐基至氏は市長を支持し、不信任も出さないと表明していますが、どう思われましたか?

それもひとつの信念というか、こうあるべきと自分の考えをスパンと表明したのだと思います。正直、びっくりしましたけどね。

――もともと親交のある方ですか?

もちろん面識はありました。ですが、親しかったから立候補したということではないですね。彼は政治家を目指してずっと努力をしてきていますから。自分の信念もあっただろうし、その中でした彼の決断というのは素晴らしいなと思いました。 

たったひとりであっても反対すべきときは反対する、賛成すべきときは賛成する。大多数の意見で判断するのではなくて、そう思ったら1人でも行動できる議員は絶対的に議会に必要だと思っています。

私派だから私のやることに何でも賛成とかそういう形になってしまったら、旧態依然とした元の姿と何も変わらないので、そうではない姿を私は求めています。

――公認してほしいと市長の方に話がきたのですか?

そういうことでは全然ないです。面識があり、お話したこともある方で、ああやってスパンと支持しますと言っていただいたので、そこまで言っていただいたら当然(応援に)行くと、そういう流れです。

自身のメディアでの扱いには「ああ、そうなっちゃうかあ」

――いわゆる「オールドメディア」についてお伺いします。田久保派か反田久保派か、イエスかノーかという報道についてはどのように思われますか?

ずっと見させてきていただいて、私は当事者なんですけど、私の中の一定の結論としては、「エンターテインメント」と「ジャーナリズム」の違いなのかなと割り切った部分はあります。

――つまり市長の報道についてはエンターテインメントに寄っている面があるということでしょうか?

素直におもしろい、数字がとれるという面ではエンターテインメントとしての扱いが大きいかと。

例えば公務の際、渋滞するといけないからいつも役所を早く出るのですが、渋滞していなくて20~30分早く(目的地に)着いたということがありました。その日は静岡県で会議だったのですが、会場に1人で座って待っていたら、『ポツンと1人で孤立』みたいな報道になります。

一番乗りなので、ひとりで座っているのは当たり前ですし、記者さんはそれをちゃんと分かっているはずです。なのに、私が孤立していて他の市長と意思疎通がうまくいってないという切り取られ方をすると、私として「ああ、そうなっちゃうかあ」って思うしかなくなります。

再度不信任が出て失職した場合どうされますか?

――市議選の結果次第ではありますが、再度不信任が出て失職した場合どうされますか?

失職という形になれば市長選になるわけですが、それでも私にまた期待をしていただいているみなさんに推していただけるのであれば、それは全力で挑みたいなとは思います。

――以前は「他に市長を任せられる方がいれば、自分が市長をやる必要はない」とおっしゃっていましたが、いま、他に任せられる方がいないということですか?

それを決めるのも市民のみなさんだと思います。

――田久保市長のお気持ちとしてお聞かせください。今現在、市長を約4か月務められてきて、市長を続けていきたいというのはやりがいがあるということですか?

やりがいはもちろんありますが、それよりも現状に対する重責をすごく感じます。例えば、施設の老朽化であったり、水道管の老朽化であったり、何十年も先送りになっていた課題であっても、自分の任期のときに何かあれば、そのときの首長の責任です。

台風であったり、災害であったり不可抗力であっても大きなトラブルが起きても首長が責任を負わなくてはいけません。

やりがいももちろんありますけど、責任の重い仕事だと思います。

――市議選に出ている立候補者の方の8~9割近くが田久保市長を支持しない、不信任案を再度出すと表明していますが、その点についてはどう思いますか?

それはもうそれぞれの議員さんの結論ですので、そこについて私が何か言うということはありません。ですがやはりいろいろな意見があったり、こういう部分は必要ではないか、これをやらないのはおかしい、などともう少し語られる議会になるといいなと思います。

――市長が卒業証書を出せば全てがはっきりして学歴詐称問題も終わるという意見もありますが、そこについてはどうでしょうか?

ずっと言っているように今捜査中で出せる状況ではありませんので。

――捜査は進んでいるんですか? 市長は警察からの聴取を受けましたか?

進んでいると思います。今のところまだ私の聴取はありません。ちょっと件数は多いですけど刑事告発されましたから、あとは捜査にお任せし、要請があれば協力して粛々と進めます。

――不信任案を再度出され失職した場合、市長以外の選択肢はあるのでしょうか? また市長選に出て落選した場合、他の形で伊東市政に関わることは考えられていますか?

みなさんから「途中で投げ出すな、最後まで責任もってやれよ」というお話であれば、そこは市長選に出て信を問うというのはありますけど、ただ、今のところ他の形でというのは具体的には全然考えられてなくて日々に精一杯です。

もちろん伊東市がよくなっていくということに関してはずっとコミットをしていきたいとは思います。

                  ※

前職18人・新人12人が立候補する伊東市議選は10月19日に投票が行われ、即日開票される。田久保市長が不信任案を回避するには田久保派を7人以上当選させる必要があるが、現実的には厳しい状況だ。

後編では田久保市長が自身を取り巻く環境をどう感じているかを語ってもらった。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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