
1952年10月22日生まれのタケカワユキヒデは、ゴダイゴのボーカルを務めるいっぽう、『ガンダーラ』や『モンキー・マジック』など数々のヒット曲の作曲者でもある。そんな彼が仕上げた名曲の中から、今回は『銀河鉄道999』にまつわる逸話を紹介する。
当初のラストシーンは、鉄郎がただ悲しみに暮れるという展開だった
“ある世代”にとっては、たまらなくノスタルジックな気持ちにさせられる名曲がある。『銀河鉄道999(The Galaxy Express 999)』は、間違いなくそんな歌の一つかもしれない。
TVドラマ「西遊記」で流れる『ガンダーラ』『モンキー・マジック』などの大ヒットで、当時人気絶頂にいたバンド「ゴダイゴ」が、1979年7月1日にリリースしたシングルである。松本零士のSF漫画『銀河鉄道999』を原作とした、劇場版アニメ作品の主題歌として起用された。
クレジットは、作詞は奈良橋陽子(英語詞)・山川啓介(日本語詞)、作曲はタケカワユキヒデ、編曲はミッキー吉野と記されている。チャート最高順位は2位、1979年度年間14位。当時の売り上げで60万枚を超えるヒットソングとなった。
この歌は「アニメ史に残る名曲」として、多くの人に愛されてきた。いったい何がそんなにまで琴線に触れたのか?
それは、この映画を観たほとんどの人が、主題歌が流れるラストシーンの印象を強く覚えているからだと言われている。少年が大人へと成長する過程を描いた物語であり、たくさんの子どもたちが観たアニメでもあった。
実は当初のラストシーンは、メーテルが去った後、鉄郎がただ悲しみに暮れるという展開だったという。ゴダイゴの事務所の役員だった加藤悠は、当時のことを振り返っている。
「子供たちが見るので、別れは確かに悲しいことではあるけれども、同時にそこには“希望”もあるんだと……。
そうしないと絶望のまま終わってしまう。それで過去を振り捨てて明日に向かう、という設定にしたんです」
こうして映画のラストシーンは、この主題歌に合わせて変更されたのだ。
端的にラストシーンを表現した秀逸な歌詞
少年から大人の男になること。これを、「別れも愛のひとつ」という言葉で端的に表現した
最後に描かれる鉄郎とメーテルの別れ。メーテルが999に乗って旅立っていく。鉄郎は「メーテル!」と叫んで涙を流す。999が空の彼方に消えた瞬間、この曲のイントロが流れ出す。
メーテルは999に乗る直前、鉄郎に別れのキスをする。鉄郎にとっては、メーテルとの別れであるのと同時に、少年期との別れでもあることを、このラストシーンは物語っているのだ。
少年から大人の男になること。これを、「別れも愛のひとつ」という言葉で端的に表現した。メーテルは999に乗って彼方に消え、そして鉄郎も地平線に向かって歩き出す。
この歌に登場する「君」とは、鉄郎のことであるのと同時に、当時この作品を観ていた少年少女たちのことでもあったのだ。
深い感動と共に多くの共感を得た、“人生の旅立ち”を見事に描いたクライマックス。心のスクリーンに、今も眩しく焼きついている。
文/佐々木モトアキ 編集/TAP the POP
参考・引用文献
『フォーク名曲事典300曲』(富澤一誠/ヤマハミュージックメディア)