
「昨日の敵は今日の友」。まさに電光石火で自民党と日本維新の会が連立協議入りした。
虎キチ早苗に最高のプレゼント
「阪神タイガースの優勝パレードにご招待します」
15日午後6時。国会内で始まった自民と維新の党首会談。自民の高市総裁に対し、藤田文武共同代表の隣には大阪から急きょ駆けつけた維新の吉村洋文代表の姿があった。
高市氏が熱狂的な阪神タイガースファン、いわゆる「虎キチ」であることを踏まえたお土産は地元・大阪での優勝パレードへの招待だった。
満面の笑みで返す高市氏。吉村氏がこれだけは絶対に譲れないという副首都推進法案について「来年の通常国会で提出を目指したい」と早くも確約してみせた。
衆院の過半数は233(定数465)に対し、自民(196)+維新(35)は231となり、あと4議席で過半数だ。参院も過半数125(定数248)に対し、自民系(101)+維新(19)は120となり、あと5議席だ。
衆参ともに過半数は達成しないが、総理大臣指名選挙は過半数にどの候補も届かなかった場合は決選投票で一番票が多かった候補が総理大臣に指名される仕組みだ。
つまり、維新との連立協議がまとまり、総理大臣指名選挙で維新議員が「高市」と書くならば、過半数には届かないが、衆院231と圧倒的だ。
問題はその交渉の行方だが、その前に急転直下の自民・維新連立協議入りについて検証したい。
始まりは、今月10日に勃発した公明党の連立離脱だ。自公連立は強固な選挙協力を土台に26年間も続いた。その26年間がわずか1週間でゼロに。
公明・創価学会に太いパイプを持っていたことで知られる菅義偉元首相が「なんでこんなことになったんだ」と嘆くほどの急展開だった。
ただ、そこから動いたのは維新と高市氏だった。維新は元々、自民党の総裁選では小泉進次郎氏が勝つとみていた。
小泉総理総裁を念頭に、小泉氏が大阪万博の視察に訪れた際は、府知事の吉村氏が自ら3時間も接待し、すぐに法案審議に入れるように副首都推進の法案まで準備していた。
維新幹部「こんな絶好のチャンスはない」
そんな小泉氏がまさかの敗退で、新総裁は高市氏に。維新は当初、「うちは小泉さん一本足打法できてしまった。高市氏とのパイプがほとんどない」と嘆いた。
維新は自民では菅氏に近く、高市氏の後見役の麻生氏とは接点がない。
4日に総裁選を制し、翌5日には玉木氏と極秘会談。麻生副総裁も国民民主の榛葉幹事長と会談するなど、明らかに維新より国民民主を連立パートナーに定めていた。
ところが、公明の突然の連立離脱で事態は急転した。国民民主・玉木氏が「公明が抜けて私たちだけで自民と連立しても衆参で過半数に届かない。前提が変わってしまった」と連立協議をいったん白紙に戻すような発言を続けた。
維新幹部からすれば「こんな絶好のチャンスはない」だ。
「組んでくれるなら、副首都法案なんて丸のみでいい」
高市氏周辺は「維新がうちと組んでくれるなら、副首都法案なんて丸のみでいい」
ここで動いたパイプは維新の遠藤敬国会対策委員長だった。国政政党の代表だが大阪府知事で都内にはいない吉村氏から他党との折衝では全権委任を受けていた。
実は高市氏は総裁選立候補前の夏ごろに遠藤氏と大阪でひそかに食事をしている。高市氏自身がこの日を見据えて維新ともパイプを築いていた。
公明、国民民主に見放され絶体絶命の高市氏は「何が何でも総理になってやる」という執念で維新との連立協議をひそかに党執行部に指示した。
14日には梶山国対委員長が遠藤氏と都内某所でひそかに会談。15日午前にも会談し、急きょ高市氏と維新との党首会談が決まった。国会での党首会談は共同代表の藤田氏の仕事だったが、吉村氏は大阪から駆けつけた。
高市氏との会談を終えた吉村氏は大阪に戻ってテレビ出演し、高市氏の印象をこう語った。
「昨日お会いして高市新総裁が、この国を動かしていきたい、自分らしい目指す国家像を実現していきたいという熱量がすごく強いなと思って、共感した。政治って結局、最後は熱量なので」と絶賛してみせた。
この「政治は熱量」というのは維新の創業者橋下徹氏が現役時代によく使っていた言葉だ。
だが、ハードルは決して低くない。
16日から始まった両党の連立に向けて政策協議は早速暗雲も漂う。
藤田氏は自らのエックス(旧ツイッター)に自民に突きつけた12の政策要求項目を貼り付けた。ここでは相当に多岐にわたる項目を並べた。維新幹部は「いまなら俺たちを高く売れる。
「吉村さんが前のめり過ぎて戸惑うよ」(維新中堅)
実際には、副首都と社会保険料の改革が絶対条件で、他の部分は交渉の余地があるという。ただ、企業団体献金について維新は「廃止」としていて、これは連立を離脱した公明の規制強化よりも厳しい。果たして折り合えるのか。
身を切る改革を党是とする維新もそうやすやすと妥協できないため、連立合意でもめるとしたこの企業団体献金の書きぶりになるだろう。
ただ、「とにかく吉村さんが前のめり過ぎて戸惑うよ」(維新中堅)とトップが高市自民との連立に一直線なので、同じ維新の他の議員たちからしらけた声も漏れてくる。
それでも吉村氏は「副首都推進法案の足がかりに都構想に挑戦できればいい」と意に介さない。都構想は大阪市を解体して、23区制の東京のように特別区を設置して、府と市に分かれている権限を一元化し、二重行政を解消しようという維新の1丁目1番地だ。
大阪組と非大阪組で分裂しかねない維新
都構想はこれまで、過去2回も住民投票で否決されているが、吉村氏は「絶対に大阪の発展に必要な改革だ」と3回目の挑戦に靜かに闘志を燃やしてきた。
したがって、副首都推進がかなうなら、他の協議については多少目をつぶる可能性がある。逆に大阪以外の議員には関係ない政策テーマのため、「このまま拙速に連立すれば、維新はまたしても大阪組と非大阪組で分裂しかねない」(維新中堅)と嘆く。
分裂すれば、せっかくの数あわせも台無しになってしまうため、今後は維新内の政局にも注目だ。
さらに、大臣ポストも注目だ。高市氏は2閣僚ポストを維新枠に考えている。
藤田共同代表が総務大臣になって副首都など地方自治行政の改革を進めるというプランもあるが、すでに総務大臣は自民の林芳正氏が内々定しているので調整が必要だ。
最も欲しいのは国交省ポスト
ある維新関係者はもっとも欲しいのは国土交通大臣だと断定する。
大阪万博が終わり、跡地利用やその北側の敷地で建設中のカジノを含む統合リゾート(IR)工事など、これからの大阪行政では、膨大な量の建設許可など国交省がらみの許認可があって、「のどから手が出るほど欲しいのは国交大臣ポスト。次が経産省だ」と維新関係者は強調する。
国交大臣ポストは2012年の第二次安倍政権が誕生した際に、公明に譲ったポストだ。公共事業の認可や道路河川などの工事、航空行政など膨大な利権官庁だ。公明の連立離脱によって13年ぶりに自民に戻ってきた。すでに自民では国交大臣経験者が一人もいない。
「一度渡したら二度と戻ってこないポストだ。二度と離さないだろう」(自民ベテラン)
維新は改革を掲げつつ、地元大阪では与党として長年君臨してきた。大臣ポストの奪い合いなどが表面化したら一気に支持率を下げるだろう。
これまで自民党と連立を組んだ政党は創価学会という強固な宗教団体に支えられた公明党以外はすべて滅びた。はたして維新はどちらの道をたどるのか。吉村氏の府知事任期は2年、高市氏の総裁任期も2年だ。その結果は21日以降、そう遠くないうちに分かるかもしれない。
文/長島重治