晴海フラッグ、転売ラッシュで8億円の衝撃! それでも白タク、民泊、道端には犬の糞…海外資本とプロ業者に食い尽くされた「庶民にも手が届く家」の末路
晴海フラッグ、転売ラッシュで8億円の衝撃! それでも白タク、民泊、道端には犬の糞…海外資本とプロ業者に食い尽くされた「庶民にも手が届く家」の末路

「庶民向けの住戸」として提供されたはずの晴海フラッグだが、いまや超高級マンションと化している。とある部屋は先日、8億円という価格で売り出された。

一体なぜこんなことが起きているのか。 

さすがにやりすぎだろう…… 

「まさか8億円とは……転売目的だとしても、さすがにやりすぎだろう」

湾岸エリアで不動産仲介業を営む男性はこう驚く。視線の先にあるのは、晴海フラッグにそびえ立つ2棟タワーマンションだ。この1棟の最上階の部屋が先日、8億円という価格で売りに出されたのだ。

50階に位置し、専有面積117平方メートルの角部屋というスペックは希少だが、分譲時の価格は 2億円台だった部屋だ。それがわずか販売開始から2年半で3倍以上になっているのだから、男性が驚くのも無理はない。

東京五輪の選手村跡地に開発された晴海フラッグは21棟の板状の住宅棟と2棟のタワー、1棟の商業棟で構成され、4145戸の分譲住戸と1487戸の賃貸住戸というスケール感はまさに「街」そのものだ。

現地を訪れてみると、海に近い開放的なロケーションに広々と整備された道路、緑豊かな公園と、都心から自動車で十数分にあるとは思えぬ立地だ。 

 東京都の希望とは真逆の、マネーゲームが起きた 

東京五輪(2021年開催)を成功させるため、東京都は三井不動産レジデンシャルをはじめとした民間不動産デベロッパーに都有地を格安で売却している。

特殊な経緯をもって開発された案件だったこともあり、東京都は「子育てファミリー層向けを中心とした住宅計画や多様な人々が交流し快適に暮らせることなどをまちづくりのコンセプトとして示した」として、安価な住宅の供給を事業者側に求めた。

しかし、実際に起こったことは、東京都の希望とは真逆の、マネーゲームだった。前述した通り、東京都の要請を受けて板状マンションは周辺相場に比べて明らかに割安な価格設定となったため、「転売ヤー」が群がった。

最高倍率は266倍、平均ですら71倍という数字の裏には、親族総出で手当たり次第に申し込みを入れたり、複数の法人を使って抽選に参加したりするプロの業者や外国人の存在があった。

実際、SUUMOなどの不動産ポータルサイトを覗くと、分譲から間もないにもかかわらず、転売目的とみられる部屋がたくさん並んでいる。

25年3月、脱税事件で逮捕、起訴された中国籍の男が保有していた晴海フラッグの6戸が東京国税局に差し押さえられたというニュースも記憶に新しいが、これは氷山の一角だ。

不動産系スタートアップのTRUSTART(東京都港区)が7月に実施した調査によると、晴海フラッグの板状マンション2686戸のうち、調査対象の19.2%を法人が所有しており、最大で29戸も保有している法人が存在していたという。

国境を超えたアングラマネーの一部が晴海フラッグに

 直近では、カンボジアに拠点を置く中国人の特殊詐欺グループが日本在住の高齢者をターゲットとした特殊詐欺で得た収益で東京のマンションを購入するという、マネーロンダリング(資金洗浄)のスキームが既に構築されていたことも明らかになっている。

中国の富裕層の間では東京の新築マンションは「儲かる商材」として人気を博していることは周知の事実。国境を超えたアングラマネーの一部が晴海フラッグに流れ込んでいることは想像に容易い。

冒頭で紹介した、「8億ション」が誕生したタワー棟も勝どきや晴海など周辺のタワマンと比べて割安で販売されたため、人気住戸は倍率数百倍という「宝くじ」となった。

マンションに関する知識がある層からしてみれば、購入できれば数千万円の利益がほぼ確定しているのだ。筆者の知人の不動産投資家は「転売目的で、眺望の良い部屋にだけ集中して札を入れた」と明かした。

不動産デベロッパー側は東京都からの要請を受け、モデルルームでの見学会に参加してアンケートに回答した人のみエントリーが可能になるなど制限を設けたが、これもあまり意味のある対策とはいえなかった。

軽い気持ちで札を入れることは防げるかもしれないが、本気で転売を目指す人は、名義貸しなどありとあらゆる手を使ってこれらの障壁をくぐり抜けるからだ。

プロや中国人相手に素人の日本人が勝つのは困難な勝負

もともと、不動産購入は情報の非対称性が大きい市場となっており、資金力やノウハウでまさるプロや中国人に素人の日本人が勝つのは困難な勝負だ。

ここでも徒手空拳で挑んだ普通のサラリーマンが何度も抽選に落ちる一方で、様々なスキームを駆使した中国人や法人、投資家が抽選に当たったことは言うまでもない。

結局、安価な住宅を手に入れることができたのは運が良かったごく一部の住民に限られ、あとは中国人や法人に莫大な利益が流れたというのが晴海フラッグを巡る大騒動の顛末だ。もちろん、東京都も不動産デベロッパーも、誰も責任を取ることはない。

こうした経緯もあり、一部メディアでは「チャイナタウン」などと呼ばれている晴海フラッグだが、実際のところ、どうなのだろうか。9月の週末に現地を訪れてみた。

白タク? 民泊? 晴海フラッグでは日常的なのか 

現地を訪問して驚いたのが、取材を開始して1時間も経っていないにもかかわらず、民泊の客を送迎しているとみられる白タク風の国産高級ミニバンやスーツケースを転がす中国人観光客、違法駐車された高級外車など、これまで種々のメディアで報じられてきたような光景を目にしたことだ。

言うまでもないが、民泊は管理規約上禁止されており、そもそも白タクは違法だ。もっとコソコソ隠れてやっているのだろうかと想像していたが、あまりにも日常に溶け込んでおり、拍子抜けするほどだった。

もちろん、住民側もこうした違法行為が横行していることを問題視している。しかし、住民の男性によると、「怪しい車を見つけ次第、警官を呼ぶようにしているが、『友人の家に泊まりに来ただけだ』と言われると警察側もそれ以上介入できず、事実上野放しになっている」とのことだった。

道に落ちている犬の糞 

中国には「上に政策あれば下に対策あり」という言葉があるように、ルールは破るものだという意識が強い。新築マンションの抽選でも、違法民泊の締め出しでも、性善説を前提としたルール運用が限界となっていることは明らかだ。

また、無法ぶりを示す現象のひとつが、道に落ちている犬の糞だ。まだ新しく綺麗な街であるにもかかわらず、地面をよく観察すると、放置されて乾いた犬の糞や、地面にこびりついた形跡があった。

小型犬を散歩させていた女性に話を聞くと、「中国の方は片付けない人が多いし、日本語もわかっていないのか、注意しても無駄なので諦めている」と、ため息とともに愚痴をこぼしていた。

マナーや文化の違いといってしまえばそれまでだが、晴海フラッグの現状は、外国人移民が増える今後の日本において起こり得る摩擦のモデルケースのひとつだろう。

なお、確かに中国人の存在感を感じる晴海フラッグではあるが、前述の男性も、犬の散歩をさせていた女性も、住み心地そのものには満足しているようだった。

最寄り駅である勝どき駅までは徒歩15分とやや距離があり陸の孤島感はあるものの、新橋や虎ノ門につながるバス高速輸送システム(BRT)の停留所が近いこともあり、都心への距離感はあまり感じない。

大企業のサラリーマンや会計士など高所得で同質性の高い集団が固まっているためか、小学校も荒れておらず、近隣エリア内で放課後の塾やサッカーやバレエなどの習い事が完結することも、子育て世帯にはちょうど良いのだろう。

小学校には中国人の子弟もいるが、日本人に交じってきちんと授業を受け、放課後は一緒に塾に通っているという。晴海で我々が目にする光景はチャイナタウンというよりは、近未来の日本の光景なのかもしれない。

文/築地コンフィデンシャル

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