明石家さんまが「BSの番組」に出演したカッコよすぎる理由と、語った貴重な“青春時代”――19歳で駆け落ち、憧れは「伝説の芸人」
明石家さんまが「BSの番組」に出演したカッコよすぎる理由と、語った貴重な“青春時代”――19歳で駆け落ち、憧れは「伝説の芸人」

テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。

今回、テレビウォッチャーの戸部田誠は、明石家さんまの“お調子者”ぶりが炸裂した『飯尾和樹のずん喫茶』(BSテレ東)と、渡辺謙がロケで大暴れした『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)をピックアップ。大物たちのフットワークとサービス精神が生んだ“違和感ロケ”の魅力を読み解く。

BS番組に「お笑い怪獣」が降臨

「まさかこんなお調子者だとは!」

爆笑問題太田光は、明石家さんまをそう評して笑った。10月11日放送の『お笑いの日 2025』(TBS系)で、太田が漫才をする相手としてさんまにオファーしたところ、まさかの快諾。夢の漫才が実現したのだ。

そんな「お調子者」さんまは、この翌日に放送された『飯尾和樹のずん喫茶』(BSテレ東)では、下町の喫茶店に現れていた。

ゴールデン2時間スペシャルとはいえ、BS局。普通では考えられないキャスティングだ。しかもロケ。小岩や鶯谷にさんまがいる――その光景だけで強烈な違和感がある。

もちろん、喫茶店の店員もまさかの登場に驚いていた。

「なんか情がある方なのかな?」

店員の“名推理”に、さんまは大きく笑ったあと真面目な顔に戻ってこう答えた。

「逆に言うと、若手たちはいつも俺の番組で頑張ってくれるからね。

俺の番組にだけ呼んで、俺が出ないわけには、ねえ」

『お笑いの日』で太田との漫才を引き受けた理由を問われたときも、「太田やからというだけ」と答えていた。

BSだろうが地方イベントだろうが、仕事の大小や先輩・後輩を問わず、自分に力を尽くしてくれた人の頼みなら、「お調子者」のようにフットワーク軽く駆けつける――それがさんま。長く愛される理由がよくわかる。

『ずん喫茶』は、基本的にBSらしいまったりとした番組。だが、さんまが来ればもちろん空気は変わる。喫茶店の女性店主が独身となれば、出されたカレーを前に「これ、食べたら怖い。もし『うまっ!』ってなったら通ってしまう。通ったら口説いてしまうからね。たぶん貯金通帳見せたら落ちると思う」と笑わせ、いつものように終始にぎやかだった。

けれど少し違った雰囲気を感じさせたのは、最初のロケ地が小岩だったからだろう。

小岩といえば、さんまと縁のある土地。元妻・大竹しのぶが小岩高校に通っていた。

そして、さんま自身も19歳の頃、当時の彼女と“駆け落ち”して小岩に住んでいた。笑福亭松之助のもとで修行中のことだ。

番組中もその頃の話に花を咲かせた。

明石家さんまが憧れた伝説の芸人

「パチプロ」として生活していたさんまは、ある日モーニングを食べていた喫茶店「ホープ」のマスターから“スカウト”されたという。

当時から店の人たちを笑わせていたのだろう。すぐに「ホール主任」を任され、その話芸で店を流行らせたという“伝説”が残っている。その“真相”を番組で明かした。

「流行らしたというか、そこは12時まで営業してて、『蛍の光』が流れて閉店迎えるんやけど、そこでまあ“おもしろコメント”言いながら『今日はこれでおしまいです』って言うたら、それを聞きたいから客は待って12時までいてはって。ほいでお客さん増えたんで、また100円時給上がって」

凄まじい話だ。「名物店員」などというレベルを超えている。ちなみにこのマスターはのちに松戸でレストラン「DIME」を開店。そのこけら落としには、さんまが漫談をしに駆けつけたという。若い頃から、さんまはさんまだったのだ。

番組ではその後も、関根勤小堺一機ら“盟友”との友情エピソード、萩本欽一にあこがれてお笑いの世界に入ったことなど、さんまの半生が語られていく。

「一番の青春時代」としみじみ振り返る姿は、あまりに貴重だった。また、さんまのエピソードを熟知しつつ、硬軟自在に立ち回る飯尾和樹のアシストぶりも光った。

大物のロケといえば、10月17日放送の『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)も同様だ。

俳優の渡辺謙と坂口健太郎が新橋を訪れた。

U字工事、飯尾、秋山竜次、平子祐希、仁支川峰子黒沢かずこ大久保佳代子チャンカワイ……と、「かりそめ天国オールスターズ」と呼ばれる個性派が揃う同番組。その中で渡辺がロケのパートナーに選んだのは大久保佳代子だった。

「一番『かりそめ』の中でアバンギャルドなのが、大久保佳代子か秋山くん」だと。

大久保は「普通の『王様のブランチ』のロケとか、ユルいやつと違うんですよ。おもしろ要素と情報を両方入れ込まなきゃいけない」と2人に注意しつつ、ニュー新橋ビルへと入っていく。

VTRを見る有吉弘行も「大変だぞ、これ」と苦笑い。

渡辺謙を中心に化学反応を起こしたロケ番組

「ベジタリアン」というジュース店では、あえてケールジュースを頼み、「入れたねえ、ケール」とその苦さに顔を歪める渡辺に、「やっぱこの距離で見ると顔圧がスゴい!」とツッコむ大久保。

もともと「お調子者」気質のある渡辺謙は、終始ロケを引っ張ろうと積極的に動く。それを行きすぎないように大久保がさりげなくバランスを取っていく。

その絶妙なやりとりに坂口が「え、初対面ですか?」と驚くほど。大久保は渡辺を「大型犬のごとく懐に飛び込んでくる」と笑って評していた。

下から行く飯尾と、あえて上から行く大久保。対照的ながら、どちらも大物への接し方として見事なバランスだった。

その後も偶然サンコン夫妻に遭遇したり、なぜか全員でニワトリのマネを全力でやる流れになったりと、終始言いようのない“違和感”を漂わせたロケ。そのVTRを見終わったマツコ・デラックスはこう振り返った。

「坂口くんは、最後まで正解を見いだせずに終わってた(笑)」

――そう。こういうとき実は一番大変なのは、大物でも、それを相手にする“役割”を与えられた者でもなく、坂口健太郎のようなポジションなのだ。

文/戸部田誠(てれびのスキマ)

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