〈16年ぶりのオアシス来日〉全米ツアー中に起こったノエル・ギャラガー失踪劇の真相「お前らが持っているものをすべて出せないんだったら、俺はやりたくない」
〈16年ぶりのオアシス来日〉全米ツアー中に起こったノエル・ギャラガー失踪劇の真相「お前らが持っているものをすべて出せないんだったら、俺はやりたくない」

2024年にバンドの再始動を発表したノエルとリアムのギャラガー兄弟を擁するロックバンドのオアシス。2025年10月25、26日には東京ドームで16年ぶりの来日公演が開催される。

今回は過去幾度となく訪れた解散危機の中の、とあるエピソードを紹介する。

「遊び回りたいなら、バンドが終ってからにしろ」

1994年の9月下旬、オアシスは母国イギリスを離れ、初の全米ツアーでアメリカ中を回っていた。

デビュー・アルバム『オアシス(Definitely Maybe))がリリースされたのは、約1か月前の8月末。全英チャートでは初登場1位を獲得して大きな話題となっていたが、バンドはすでに次の目標に向けて動いていた。

オアシスが「世界一のロックバンド」であることを証明するため、アメリカ、ヨーロッパ、日本などを忙しく飛び回っていたのだ。

この時、ノエル・ギャラガーは27歳。ロックの世界においては何人ものミュージシャンが亡くなっていることから、あまり縁起が良いとはいえない年齢だが、ノエルにとっては人生が終わるどころか、まさにこれからというところだった。

事件が起きたのは9月29日。この日は、ロサンゼルスの歴史あるナイトクラブ「ウィスキー・ア・ゴー・ゴー」での公演だった。

イギリスで噂の新人がどんなものなのかひと目見ようと、会場には多くの人たちが足を運んでいた。そのなかには、ノエルが敬愛するビートルズの元メンバー、リンゴ・スターの姿もあったという。

ところが、この日の彼らの演奏はひどい有様だった。その原因の一つは「クリスタル・メス」にあった。

中毒性が特に高いことで知られるこのドラッグをアメリカで入手した、ノエルの弟でヴォーカルのリアムが、事もあろうに使用していたのだ。

最後の曲が終わって楽屋に戻ると、ノエルは怒りを爆発させた。

「お前らが持っているものをすべて出せないんだったら、俺はやりたくない。遊び回りたいなら、バンドが終ってからにしろ」

翌日、メンバーが泊まっていたホテルにノエルの姿はなかった。メンバーもスタッフもすぐにノエルを探したが、どこを探しても見つからなかった。

途方に暮れていると、イギリスにいるはずのスタッフ、ティム・アボットが慌てた様子でやって来た。深夜にノエルから電話があり、謝罪とともにバンド脱退の意思を伝えられたのだという。

「もうやめだ。バンドはお終いさ。嫌なヤツらばっかり揃いも揃ってやがる。俺はこんなバンドはもうごめんだよ」

ノエルの言葉に深刻さを感じたアボットは、急いで飛行機に乗り、アメリカツアー中のオアシスのもとへ飛んで来たのだ。バンドとスタッフは、オアシスが深刻な解散の危機にあることを感じ始めた。

ビートルズを敬愛していたノエルの不思議な出会い

そのころ、ノエルはサンフランシスコにいた。同地で公演した時に知り合った女性の家に居候していたのだ。

バンドを脱退しようとしていることをノエルが伝えると、その女性はノエルを落ち着かせようと、幼いころに遊んでいたという近所の公園に連れて行ってくれた。それから2人はストロベリー・レモネードを片手にショッピングをしたり、家でレコードを聴いたりしながら日々を過ごした。

数日後、ノエルの行方を探していたアボットが、彼女の家に電話をしてきた。ノエルが泊まっていたホテルの部屋の請求書を調べて、その電話番号を見つけたのだ。

ノエルと会って2人で話がしたいとアボットが伝えると、ノエルはそれに了承した。

ノエルとの面会を果たしたアボットは、「ラスベガスに行ってみないか」とノエルに持ち掛けた。そこならノエルも気分転換できるだろうし、誰にも邪魔されずに2人で話ができるだろうと考えたのだ。

カジノで楽しもうという誘いにノエルも乗り気になり、ノエルは女性に別れを告げ、ラスベガスへと向かった。

ラスベガスのカジノで、酒を飲みながらショウが始まるのを待っていると、40代くらいの女性がノエルたちのもとに近づいてきた。

「ちょっと失礼、あなたは本当にジョージ・ハリスンのイメージとダブるわね」

女性は今しがた結婚したばかりだそうで、夫を紹介するとともに、結婚の誓約書も見せてきた。

「でもジョージ・ハリスンとだったら、誓いを破って浮気してもいいわ。それにしても、あなたは本当にジョージに似てるわね」

婦人はビートルズの大ファンで、レコードは欠かさず購入し、コンサートにも何度も足を運んだという。ノエルもビートルズを敬愛していたこともあって、2人の話は弾んだ。

「あなたのお仕事は?」
「偶然だけど、俺もバンドをやっているんだ。だけど、今はやめちゃったようなもんなんだ」

別れ際に連絡先を交換すると、もしフィラデルフィアで演奏することがあれば連絡してほしいと婦人は告げた。その場に居合わせたにアボットによれば、この予期せぬ会話が、ノエルの心境に大きな変化をもたらしたという。

「ビートルズや、ビートルズの音楽を愛する気持ちを、世界中の人々と分かち合うことができる。彼にはそれをするための能力があるってことに気がついたんだ」

アボットがメンバーのいるスタジオのもとに戻ってみないかと提案すると、ノエルは「考えておくよ」と返答した。そして翌日、ノエルとアボットは飛行機でスタジオに向かい、メンバーとの和解を果たした。

ノエルはこのサンフランシスコとラスベガスでの日々の最中に、曲を書いている。それが『トーク・トゥナイト』。ノエルがお気に入りだという曲の一つだ。

歌の中では、サンフランシスコでの日々が描かれており、この歌に出てくる「君」のモデルは、サンフランシスコで日々を過ごした女性といわれている。

また、歌詞全体で見れば、カジノで出会った女性も影響しているという説もある。いずれにせよ、出会ったばかりの人たちとのほんのわずかな時間の中で、ノエルの気持ちが大きく救われたことを、この歌は証明しているのだ。

文/佐藤輝 編集/TAP the POP

参考・引用
『オアシス・ヒストリーブック「テイク・ミィ・ゼア」』ポール・メイサー著/前むつみ訳(音楽専科社)
『オアシス~ゲッティング・ハイ』パオロ・ヒューイット著/岡田まゆみ訳(リットーミュージック)

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