「一見、特徴も華もない人事に見えるが、高市総理なりの意図も透けて見えるし、よく練られた人事だ」21日に発足した高市内閣の顔ぶれを見て、自民党のベテランの閣僚経験者は高く評価する。憲政史上初の女性総理となるこの内閣はどこに向かうのか? 組閣の舞台裏をジャーナリストの長島重治氏が取材した。
「財務省恐竜番付」で前頭1
「大臣として戻ってこられて感無量だ。戦々恐々とされているという記事も出ていたが、私も60代半ばになり、『恐竜』になる年ではないので安心してください」
片山さつき財務大臣は22日、「古巣」の財務省に大臣として初登庁すると、100人を超える課長補佐級以上の幹部に向けて訓示をした。
「恐竜」とは財務省内でパワハラ上司を呼ぶときの隠語だ。誰が作成したのか、「財務省恐竜番付」なるものがネット上で広がったこともある。各年次のパワハラ上司が東西にわかれ、「横綱」や「大関」などと記されている。かつては片山氏も「前頭1」として番付入りした「実績」があるらしい。
「私も年を重ねて落ち着いたのでもうパワハラはやらないから安心してね」
訓示を聞いた幹部の一人はそういう宣言をされたように聞こえて足が震えたという。
「ザイム真理教」デモを起こさせない!
女性初の総理の下で、財務大臣も女性初だ。最近は財務省を「悪玉」としてカルト教団に喩え、その解体を訴えるデモも多いことにも触れて「『ザイム真理教』のようなデモが起こるのではなく、未来に夢がつながる予算をつくっていると思ってもらえるようにマインドセットしてほしい」と話したという。
要するに従来は財政規律を重視して財務省が国債発行に慎重であるとして、「成長しない日本を未来に残すことの方が(借金よりも)もっとツケだという考えに立ち、きちっと財政規律を定めた積極財政やっていく」と、高市総理の言葉を踏襲して強調した。
高市総理は21日の組閣で「全世代総力結集」を唱えた。挙党態勢を演出するため、総裁選を戦った林芳正氏を総務大臣にした。林氏が次の総裁選での党員票の上積みを目標に「地方を回れる役職がいい」と訴えていたことに配慮した。
決選投票で高市氏の支持に回った小林鷹之氏はすでに党人事で三役の政務調査会長に抜擢。
「いい人事だろう。石破さんが反面教師だよ」
党人事では麻生氏一人勝ちだったために、高市氏は自らの政権基盤の安定のためにも、ライバルたちをみんな取り込んだともいえる。高市氏の周辺は「いい人事だろう。石破さんが反面教師だよ」とささやく。
石破氏は昨年の総裁選の決選投票で、1回目の投票で1位通過だった高市氏に逆転勝利を収めた。だが、石破氏が高市氏に打診したのは名誉職的色彩の強い、党の総務会長だった。
高市氏からは「幹事長以外は受けない」と拒否され、小林氏も党の広報本部長という「微妙な」ポストを提示されたため、断った。
結局、自らの閣内にライバルを取り込みきれず、石破政権は「石破降ろし」にあって1年で倒れた。高市氏周辺は「おなじ轍を踏まない」とばかりに4人を取り込んだ。さらに石破氏の最側近の赤沢亮正氏を経済再生大臣から「格上」の経済産業大臣に横滑りさせた。
赤沢氏と言えば石破総理の最側近としてトランプ関税交渉を一手に引き受けていた。わずか半年足らずの期間に10回以上も関税交渉で渡米したため、ネット上には「ピストン赤沢」などとタグがついたほどだった。そんな石破氏の側近に継続してトランプ関税の交渉を担ってもらうことにした。
“人質”となった赤沢経産大臣
高市氏の側近はこう語る。
「関税交渉もあるけど、赤沢さんは石破さんたちが反乱軍を決起しないように『人質』でもあるんだ」
もちろん、3度目の総裁選を戦ってわずかな差で勝利を収めたことから、論功人事も忘れていない。
総理官邸で総理を支える大黒柱の官房長官には木原稔氏を選んだ。木原氏は安倍晋三氏が会長を担った右派色の強い議員連盟「創生日本」の事務局長を務めていた。高市氏が山本拓氏と再婚する際に相談するなど、弟分として信頼が厚い。
高市氏にとって松下政経塾の後輩でもある黄川田仁志氏も地方創生担当大臣に起用した。黄川田氏と言えば、先月の高市氏の総裁選の出馬会見で司会を任されて、質疑で挙手した記者を指す際に「そこの顔の濃い人」「隣の白くて濃くない方」などと言って、謝罪に追い込まれた。ただ、ずっと高市氏を応援してきたことが実っての初入閣だ。
挙党、論功、そして女性登用では前述した片山氏に加えて、参院2期目の小野田紀美氏を抜擢した。総裁選で高市選対の「キャプテン」を務めた人物だ。
小野田経済安保相、海外生まれの国務大臣は初めてか
小野田氏は米国・シカゴ生まれの岡山育ち。父はアメリカ人、母は日本人で1歳から岡山県に移り住んだという。戦後の現行制度上、海外生まれの国務大臣は初めてとみられる。
『ドラゴンボール』など大のアニメ好きで知られ、幼少期のヒーローへのあこがれが政治家を目指した原点だという。ゲーム制作会社に勤務後に、TOKYO自民党政経塾に入り、東京都北区の区議を経て国政へ。
保守的な信条を前面に出して2022年の参院選では自民の1人区候補で唯一、公明党の推薦を受けずに戦った。SNSのXフォロワーは80万人以上という。
その小野田氏は高市氏もかつて経験した経済安全保障大臣を拝命した。42歳で、高市内閣の最年少大臣でもある。加えて、「外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣」も兼務する。いわば外国人政策の司令塔役だ。
22日の就任後初めての会見では「ルールを守らない方への厳格な対応や外国人を巡る情勢に十分に対応出来ていない制度の見直しを進める」と語った。
高市氏は総理になる前は「北欧の国に比べても劣らない、女性がたくさんいる内閣や党役員会にしたい」と語っていた。
しかし、実際には自身を含めて女性登用は3人にとどまった。ただ、少数ながら片山氏と小野田氏の存在感は閣内でも異彩を放つ。
高市政策の重要拠点を女性二人に任せる
小野田氏が経済安全保障に加えて、外国人政策という高市カラーの強い政策を任されたように、高市総理は自分と同じ「積極財政派」の片山氏を財務大臣において、さらに「補助金の見直し」という担務をつけた。
高市氏の側近の一人はこう説明する。
「片山氏に補助金の見直しという権限をつけたのは、高市総理が中国製のソーラーパネルが国内市場を席巻していることを問題視しているからだ」
外国人政策と中国製の太陽光パネル抑制という、高市氏の「1丁目1番地」の政策を女性閣僚の二人にそれぞれ振り分けた。人数こそ少ないが、「女性3人が中心で回していく、日本で初めての内閣」になっているということが透けて見えてくる。
閣僚人事が組閣の当日まで漏れなかったのも「高市流」だった。安倍、菅、岸田、石破と直近の歴代政権は前日にはそれぞれ本人に内示をし、明日、都内に待機するように伝えていた。
同時に派閥領袖たちとも人事情報を共有するので組閣当日の朝刊には組閣名簿が顔写真付きで新聞各紙に掲載されてきた。
「明日、あなたは入閣なので準備をしておいてほしい」
ところが、前日までに漏れてきたのは、木原氏の官房長官や茂木氏の外務大臣など一部にとどまった。関係者に取材してみると、高市氏はその木原氏と相談し、総裁選で戦ったライバルたちの人事は早めに固めたが、それ以外はぎりぎりまで調整を続けたという。
ある新閣僚は20日の昼ごろに高市総理から電話がきた。「あす、あなたは入閣なので準備をしておいて欲しい」
入閣となれば、一生に一度の晴れ舞台かもしれない。モーニングなど正装の準備が必要だ。
「高市総理は直前まで調整を続けていた。一人で部屋にこもってやるので情報が漏れようがない」
一人で部屋にこもって組閣構想を練って、情報管理を徹底するのは小泉純一郎氏がまさにそうだった。ふたをあけてみれば、重要なテーマを女性閣僚二人に与え、ライバルをとりこみ、信頼できる側近も登用した。
憲政史上にようやく生まれた初の女性宰相
「一見、特徴も華もない人事に見えるが、彼女なりの意図も透けて見えるし、よく練られた人事だ」
自民ベテランの閣僚経験者も評価する。衆参で少数与党という厳しい船出だ。長年連れ添った公明党が離れて、新たなパートナーに選んだ日本維新の会は閣僚を送り込んでこない閣外協力にとどまった。
高市総理と吉村代表は「閣外でも連立政権だ」と言い張るが、学説的にも内閣をともにしないのだから連立とはいえない、「半身連立政権」だ。維新は自分たちに気にくわないことや自分たちの政策を呑んでもらえなければいつでも離脱するぞ、と脅してくるだろう。
憲政史上にようやく生まれた初の女性宰相。
文/長島重治

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