厚労省の調査によれば、日本人の99%は亡くなった際に火葬を選択する。そんななか、東京23区では火葬料金が9万円となる火葬場もあり、日本で一番高いとされている。
東京都の火葬料金はなぜ高い?
東京23区内に住む40代の女性は、今年1月に87歳の父を亡くした。自宅の階段から落ちて打ち所が悪かったという。親族や父の友人などに訃報を伝え、葬儀会社との打ち合わせも行なった。ところが、火葬料金について、9万円はかかると言われ、あぜんとした。
「私の地元の愛知県では、火葬にはお金がかからないんです。これまでの経験で、かかっても1~2万円程度だと思ってましたから。それがこの額を提案されて、思わずぼったくられているのではと勘繰りました」
火葬場は公共性が高いため、国の方針で戦後から自治体が運営すると定められている。40代の女性が話すように、ほとんどの自治体は火葬料金が無料だったり、費用がかかったとしても低価格だったりする。例えば、公営の火葬場であれば札幌市や静岡県浜松市は無料、大都市の大阪市では1万円、仙台市では9000円にとどまっている。
いっぽうで、東京都の23区で火葬をするには、8万円以上かかることがほとんどだ。
なぜここまでの価格差があるのか。
23区には現在、9カ所の火葬場がある。うち、民間の火葬場は7カ所。東京博善(東京都港区)がうち6カ所(荒川区町屋、葛飾区四ツ木、品川区桐ヶ谷、渋谷区代々幡、杉並区堀ノ内、新宿区落合)を運営している。残りの1カ所は、板橋区に本社がある戸田葬祭場が運営。いずれも民間が取り扱っている火葬料金は8万円を超える。
23区内にわずか2カ所しかない公営の火葬料金は、4~6万円程度だという。
ある葬祭業の関係者は、「23区内で亡くなった人の7割が東京博善の火葬場を利用している」と明かす。全国的には市区町村などによる運営が主流のところ、民間の東京博善がなぜここまで事業拡大できているのか。別の葬祭業の関係者がこう解説する。
「23区に民間が運営する火葬場が多いのは、明治期にコレラが流行し、遺体の火葬処理に近隣住民からの理解を得られなかったからです。そこで台頭したのが東京博善の前身の会社でした。
「いくつもの対策案を行政は早急に行なうべき」
東京博善は1921年に設立された。国が火葬場の経営主体を自治体と定める前に実績があったことから制限を受けなかったという。
東京博善をめぐっては、「一方的な値上げを行ってきた」と指摘する業界関係者もいる。同社は2021年1月に1万6千円の値上げを行なった。当時、もっとも利用されているプランの金額は7万5千円にのぼった。
前出の関係者は、「新型コロナ禍での値上げで、経済的に苦しい人も多いなか、この値上げはおかしい」と主張する。そのうえで、「公共事業を任せられるとは到底言えない。もともと2011年までは5万円前後で東京博善も料金を設定していたところ、2021年から6万円、2021年に7万円超えと、どんどん値上げをしているのです」と続けた。
さらに同社は火葬料のほかに、22年から燃料費特別付加火葬料(サーチャージ)を採り入れた。料金は変動価格になり、8万円台に上った。現在は、9万円と固定価格になっている。
さらに東京博善は、骨つぼの持ち込みを断り、用意した骨つぼを購入させていたことから、全東京葬祭業協同組合連合会は2020年、公正取引委員会に調査の申し入れをしている。また、連合会として、東京博善の料金値上げなどについての陳述書を区に提出しているものの、大きな動きはない。
「料金を下げるため、行政は公営の火葬場を作ることや東京博善の株式を取得するなど、いくつもの対策案を早急に行うべきです。高齢化社会の中で、これからますます火葬場の需要が高まっていくなか、このまま値上げをさせてはいけません」(同前)
東京博善は2020年、印刷業の広済堂の完全子会社となった。また、免税店を運営するラオックスホールディングスの羅怡文会長が22年、広済堂HDの会長に就任した。インターネット上では、「中国資本が広済堂HDに入っているから火葬料が高くなる」などと批判的な意見も飛び交っている。
親会社の広済堂HDの担当者は「9万円の料金は事業継続のため適正」
東京博善の親会社で広済堂HDの担当者に尋ねてみると、「相次ぐ値上げで、もうけ主義の経営にシフトしたわけではない」と言い切った。
担当者は、値上げの理由について「燃料費の高騰、施設メンテナンス、人件費の上昇などがあげられる」とし、「税金による補助がないので、9万円の料金は事業継続のため適正と言える」と説明した。
さらに「2023年3月期は赤字。2025年3月期は火葬取扱件数の増加に伴い、1億1700万の事業収益を出し、葬祭公益事業損失準備積立金に同額を計上しています」と続けた。
サーチャージ代を採り入れた理由はこう説明する。
「ロシアとウクライナの問題によって価格が高騰し、不安定な状況で、価格の見通しがつかなかったからです。ただ、葬儀社からの価格が定まらないのが困るといった意見を頂戴したことから、サーチャージ代を廃止しました。火葬事業の収益は親会社への配当には使われておらず、中国資本に流れているわけではありません」(同社担当者)
税金による補助をめぐっては、「区民葬儀制度」が23区で定められており、区民が制度を利用した場合、東京博善は約3万円を自社負担とし、利用者には5万9600円から案内していた。
区民から高まる不満の声を受け、東京都議会も議論を始めた。
立憲民主党などの会派は今年8月、「火葬料金引き下げプロジェクトチーム(PT)」を発足させた。9月に初会合を行い、東京都葬祭業協同組合の鳥居充理事長をヒアリングした。
鳥居氏は「民間の火葬場に頼らざるを得ない状況から火葬料金が高額になるため、公営火葬場を増設する必要がある」と訴えた。
とはいえ、火葬場の増設をめぐっては、住民の合意形成の難しさや、土地がないなどの状況から、「難易度は高めではないか」と業界関係者から声が漏れる。
火葬場への指導監督は、墓地埋葬法(墓埋法)などで各自治体が取り扱うと定められているものの、民間の火葬場の料金について言及されている条文はない。
小池百合子知事は、9月24日から10月9日に開かれた都議会第3回定例会の所信表明で、「東京全体で安定的な火葬体制を確保することは重要だ」と述べた。そして、国に指導が適切に行えるよう現行法の見直しを求めると言及した。
前出のプロジェクトリーダーの関口健太郎都議は、
「国としては、火葬料金の指導等は、現行法の運用で可能と考えているというのが現状です。都は、火葬場を指導監督する区市町村と連携し、料金を含む火葬場の経営管理に対する指導が適切に行えるよう、法の見直しを国に求めることが急がれます。
とコメントした。
前出の東京博善の親会社で広済堂HDの担当者は「弊社でも都に全面協力をしていきます」と述べる。
都民が安心して火葬場を選択できる時代が来るのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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