「年を重ねることがこんなに楽しいとは」──持病も公表した熊切あさ美が明かす、”崖っぷち”の先の人生
「年を重ねることがこんなに楽しいとは」──持病も公表した熊切あさ美が明かす、”崖っぷち”の先の人生

45歳を迎えたタレントの熊切あさ美。強者たちがせめぎ合う芸能界で彼女が見つけた、一番居心地のいい心構えとはいったい何か。

誹謗中傷や持病の告白…等身大の彼女が語る「年齢を重ねる」ということ――。(前後編の後編) 

闘う相手は『世間の常識に流されそうになる自分自身』

「元祖崖っぷちアイドル」

熊切あさ美の代名詞であるこのフレーズは、彼女の芸能界での立ち位置を象徴していた。一時期仕事が激減し、芸能界引退を見据え、アルバイトをしていたこともあるという。

アイドルグループ「チェキッ娘」時代を経て、一人のタレントとして歩み始めたころのバラエティ番組での苦悩を振り返る。

「若いときは、とにかくすごく比べられるんですよ。なんであの子はこれができるのに、君はどうしてできないんだよって、当時のマネージャーさんにしょっちゅう言われていましたね。

だからしばらくは女の子の芸能人の友達が作れなかったんですね。みんながライバルに思えて、仲良くしてはいけないものだと思い込んでいました」

もともと、「なにがなんでも一番でいたい」と考える性質ではなく、芸能界に入ってから「人と比べられる」ということに悩まされたという。

比較され続けたトラウマは、今も彼女の心に影を落とす。

「未だにその当時のトラウマで、ふとしたときに20歳ぐらい下の子にジェラシーを感じたりするときがあって。『ああ、いけないいけない』って(笑)。ある程度年齢を重ねたら、闘う相手は他人ではなくて『世間の常識に流されそうになる自分自身』だって気づくんですけどね」

芸能界と華やかな世界は地続きだ。クラブ、パーティー、さまざまな人との出会い。

しかし熊切は、意識的にそこから距離を置いていた。

「『呼ばれても本当に行かないよね』って言われていました。やはり、周りの子といろいろ比べられたりするので、これ以上傷つきたくなかったんだと思います」

恩人であるカメラマンのひと言もあるという。

「『あさ美ちゃんは、あんまりああいう所へ行かないほうがいいかもね』って言葉がなぜか心の中にあって、本当に響いたんです。メンタルが落ち込んでいるときにそういうところへ行っていたら、現状から逃げたくて余計にハマっていたかもしれない。すごい人と知り合えたりとか、お金持ちとお付き合いもできたかもしれないですね(笑)」

友人がクラブで知り合ったという有名人の名前を聞いて、「行っとけばもうちょっと人生違ったのかな」と思ったこともある。しかし、彼女は続ける。

「でも他の人の力で持ち上げてもらったりした後、実際の自分を見つめ直したときに、寂しくなると思うんですよね。その華やかな世界になんとかして居続けたくて、自分を大きく見せがちになるような気がして。

元々、人に頼るのが苦手なんですよ。マイペースで、自分で考えて行動するほうが好きなんだって気づいてから、かなり楽になりましたね。そのおかげで、仕事に波があっても、なんとか乗り切れたと思います」

ネガティブになった時にする二つのこと

移り変わりが激しく、常に爪痕を残さないといけない芸能界。厳しい世界を生きてきた彼女は「背伸びしない、自分なりの普通の生活が送れている今が本当に幸せ」と微笑む。

それでも鋼のメンタルというわけではない。心ない声に落ち込むこともいまだにあると話す彼女は、ネガティブな気持ちになった時、どう対処しているのか。

「マイナス思考になっちゃったときは、とにかく寝ます。考え続けるよりまず寝る。睡眠をとったら、マイナスが『まあ、いいか』のゼロの位置になって、そこからプラス思考になれるので」

若いころは悩みで眠れなくなり、さらにネガティブになる悪循環に陥っていた。しかし今は違う。「それが一番良くない」と気づいた彼女は、まず身体を休めることを優先する。

「心に余裕がないのは、やっぱり健康じゃないとき。全てが乱れてしまう。心の調子が悪いときって、実は自分の身体の調子が悪いときなんですよね」

そしてもう一つ習慣がある。

「なんだか運が良くないかもって思ったら、必ず床掃除をします。床も綺麗になるし、没頭すると嫌なことも忘れられる。

部屋がキレイになって気分も上がりますし、運気の流れも変わる気がするんですよね。部屋の乱れは心の乱れっていうじゃないですか」

睡眠と掃除。当たり前のようなこの二つが自分を整えていると語る。一日の終わりにまぶたを閉じるとき、彼女はこう思うそうだ。

「なんだかんだあったけど、今日も幸せだったなって思ってから寝るようにしています。そう考えるようになってから、あんまり自分はかわいそうだって思ったことはないかもしれないですね」

「持病を公表をしてすごく良かった」

熊切は20代の終わりに、皮膚や粘膜に急な腫れ・むくみが起こる疾患「クインケ浮腫」を発症した。病気を公表したのは40代に入ってからだが、とはいえ勇気のいる決断だった。

「現状を知ってほしくて、発症した際の写真を公開しました。もしかしたらネガティブなイメージにつながるかもしれないという懸念もあったんですが…。

でも、持病を公表をしてすごく良かったと今は思っています。事務所や私のSNSを介して、同じ病気で悩んでいる人から『私もです。熊切さんの公表に勇気が出ました』という連絡をもらうこともあるんですよ」

同じ病気で苦しむ人たちからの反応が、彼女の決断が正しかったことを証明した。



「あまり知られていない病名ですが、比較的若い女性に多い病気みたいなんですね。私の行動が、他の人たちの勇気につながったことが嬉しかった。誰かのためになれたんだなって」

自分が思っている以上に、同じ悩みを持つ人が多いことに気づいた。今後は悩みを抱える人たちに対し、『有益な情報を発信できる場を作りたい。大丈夫だよ、仲間はいるよと伝えたい』と思っているそうだ。

45歳を迎え、熊切にはまだまだやりたいことがある。

「美容や健康にまつわる仕事を増やしたいですし、中国語を勉強してSNSで発信できるようにもなりたい。いろんな経験をしたけれど、今は毎日、周りに感謝しながら平和に暮らしてる自分がいるということを紹介して、悩んでいる人たちの元気につながると嬉しいですね」

先日、50歳を迎えた友人から、こんなメッセージをもらったという。

「50歳を超えると、この人とはもう付き合いたくないから付き合わない、この人といると楽しいから付き合うっていうのが明確にできるようになってくるから、人間関係の悩みが減るよ、って。それを聞いて、50歳の自分が楽しみになりました」

崖っぷちに立ちながらも、決して落ちることなく前を向き続けてきた熊切あさ美。その姿は、年齢や環境に縛られず、自分らしく生きることの大切さを教えてくれる。

「年を重ねるのことがこんなに楽しいとは思わなかった」そう笑った彼女の顔は間違いなく美しいものだった。

(前編はこちら) 

 取材・文/木原みぎわ 撮影/山田智絵 

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