〈東京都が無痛分娩に10万円助成〉「下半身の感覚が徐々になくなっていく感じが…」ゆってぃ妻・石川あんなが語る「無痛分娩」のリアルと欧米から「クレイジー」と言われる業界の現状
〈東京都が無痛分娩に10万円助成〉「下半身の感覚が徐々になくなっていく感じが…」ゆってぃ妻・石川あんなが語る「無痛分娩」のリアルと欧米から「クレイジー」と言われる業界の現状

東京都は今年10月より出産時の「無痛分娩」の費用として最大10万円の助成を始めた。これは2024年の都知事選で小池百合子知事が主要公約のひとつとして打ち出していたもので、一見すると「さっそく決まった」と喜ばしいものの、大きな課題と懸念があることがわかった。

無痛分娩での出産を経験した芸人ゆってぃの妻、石川あんなさんの経験談と共にその問題点について考える。

日本で広がらない無痛分娩に東京都が助成金

1847年にスコットランドの医師が臨床試験を行なったことで世界的に広がった「無痛分娩」。現在、先進国ではこの出産法が主流で、フランスでは8割、アメリカでは7割、イギリスでは6割の妊婦がこの分娩を選択している。ある産婦人科医は言う。

「日本でなかなか『無痛分娩』が浸透しないのは医療体制が整っていないのはもちろんのこと、現時点でまだ保険適用されていないため自然分娩に比べ費用が10~20万円ほど高くなるためです。

去年5月に俳優の生田斗真さんがSNS上のファンとの交流で、出産を控えた妊婦に『旦那様に無痛おねだりするか』と発言したことが炎上したように、日本ではまだ『お産はお腹を痛めて産んでこそ』という価値観があるからですね」

東京都庁の福祉局子供・子育て支援部家庭支援課は2023年にも卵子凍結への支援で最大30万円の補助金を出すなど少子化対策をしている。今回の無痛分娩の費用助成も、無痛分娩を希望する女性が安心して選択できるよう決めたものだろう。

公式発表には「東京都が公表する対象医療機関123院のどこかで『無痛分娩』で出産する女性を対象に最大10万円の助成金を出す」とある。

この東京都の対象医療機関とは、厚労省が定めた「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」に基づく自主点検表の項目を満たした機関であると共に『JALA』という無痛分娩関係学会団体連絡協議会の研修を受けている病院のことなのだという。医師免許を持ち外科や産婦人科としての経験も持つ弁護士法人富永愛法律事務所の富永愛弁護士は言う。

「『無痛分娩』は麻酔をかけて痛みを和らげる分娩法で、欧米諸国では麻酔科医と連携して行なうケースがほとんどですが、日本では産科医が自ら麻酔を行なうクリニックもあります。この『JALA』の研修を受けた医療機関は麻酔医の確保がある程度はされているとはいえ、東京都はおそらく『無痛分娩』を行なうすべてのクリニックや産科医に、ここでの研修を受けるよう促したいのでしょう」

「下半身の感覚が徐々になくなっていく感じが怖かった」

石川さんは「高齢出産と言われる直前の年齢でしたし、自身のパニック発作の経験もあって、痛みに対し恐怖心があった。『無痛分娩』以外考えられなかった」と振り返る。

「日本では麻酔科医が不足していることが調べてわかったので、私は『麻酔科医が24時間体制で常駐している』クリニックを選びました。

そういう情報も全部自分で調べるしかないのが現状なので、そこはちょっと不安でした。

また『無痛分娩』のできるクリニックさんの中には美味しいディナーが食べられるとか分娩中にアロマが焚かれているなどの惹かれる文言で宣伝しているところもあるのですが、やはり大事なのは麻酔科医さんがいてくれるクリニックなのかな、と思いました」

実際に石川さんの出産は東京都が公表する医療機関でJALAの研修も受けた産院で行ったようだが、完全に不安や苦痛がないわけではなかった。

「12月30日に出産予定だったのですけど、生まれる気配がなく年を越してしまったんです。1月6日の朝8時に入院し昼12時に陣痛促進剤という点滴と子宮口を開くバルーンという器具を膣口に挿入されました。これが痛い方もいるようですが、私はそこまで痛くはなかったです。

その日は17時頃に促進剤を終えて、そのまま翌日朝8時に促進剤を打って痛みがきては和らいでを繰り返しました。間もなく会える期待と痛みと不安がありました。そして12時に無痛麻酔を打ったのですが、下半身の感覚が徐々になくなっていく感じが怖かったです」

さらに、いよいよ生まれるという時に「パニック寸前になった」そうだ。

「生まれる直前に会陰が裂けて(赤ちゃんが出てくる際に膣口の皮膚が破ける)、ワカチ子ちゃんが出てくる10秒くらい前に『息を吸わないではいて!』と言われて、酸欠状態で意識が飛びそうになって恐怖でした。『怖い怖い!』と思った瞬間にワカチ子ちゃんが出てきてくれて、うわ~ってもう泣いちゃいました。出産は麻酔を打ってから8時間後の20時でしたから。出産ってやっぱり、無痛分娩だろうがなんだろうが大変なんだなって思った瞬間です」

無痛分娩後に新生児が生後1ヶ月で死亡する事案も

前出の富永弁護士によれば今回の助成金について「公的な補助を出す方針は良いですが『無痛分娩』そのものを安全に行なう機関は都内でも全国的にも少ない。

そこが今後の『無痛分娩』を取り巻く課題です」と言う。

そして「『無痛分娩』に反対なわけでは決してない」としながら、こう述べた。

「まず日本の出産現場は、身を挺して懸命に働く産婦人科医達がいる一方で、後進国かというようなあり得ない事故がまだ起きています。『無痛分娩』によるものも増えています。無痛分娩はここ数年で急激に全国的に広がり、他機関との競争に負けじと『JALA』の研修も受けずに『うちでも無痛分娩できます』と始める医療機関が急増しているのも危険だと思っています。欧米からは、産婦人科一人で出産を受け入れる日本のクリニックの現状は『クレイジーだ』といわれています。そんな状況で、さらに無痛分娩を行ったらどうなるか。実際に私は現在進行形で30~40件ほど出産トラブルのご相談を受けています」

そのトラブルの中には無痛分娩により、子どもが死亡したケースや子どもが脳性麻痺などになり寝たきりとなったケースなどを含め様々なようだ。中には事故後に突然閉院し、カルテを紛失した等といって責任逃れをしようとするクリニックや、事故を繰り返している医師も実際にいるのだという。昨年8月には、国内の某クリニックで、無痛分娩後に新生児が生後1ヶ月後に死亡する事案もあった。

「私はこのご相談を受け、無痛分娩中の管理が不十分だったとしてクリニックと交渉を開始しましたが『過失はない』との回答があり、今は訴訟も検討しています。『無痛分娩』は安心安全な体制で行われ、無事に出産を迎えられれば妊婦さんにとってこれ以上ない選択のひとつです。

東京都が始めた公的助成で多くの医療機関さんにも無痛分娩への研鑽と体制整備を整えてほしいです」

東京都が今年3月下旬に設置した無痛分娩に関する問い合わせ窓口では「どうすれば申請できるのか」「自分は対象か」といった相談が急増し10月1日から27日まで307件の問い合わせがきているという。子育て支援部調整担当課長によれば「東京都として無痛分娩を推奨しているわけではありません。あくまで出産の選択肢を広げる意味での取り組みです」とのことだ。

出産に携わる医師や助産師の無痛分娩の知識や技術を底上げさせる取り組みも急務である。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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