今、プロレス界で最もブーイングと称賛を浴びる女子プロレスラーのSareee(サリー)が、9大会目となる主宰大会「Sareee-ISM~Chapter Ⅸ」を11月10日に新宿FACEで開催する。2023年にWWEを退団し帰国。
「怒りのない闘いってつまんなくないですか?」
昨年は東京スポーツ新聞社が制定する「プロレス大賞」で初めて女子プロレス大賞を獲得した。今春からスターダムへ本格参戦し、6月21日には念願のIWGP女子王座を奪取。
ところがスターダムのリーグ戦へ参戦した直後には、観客から大ブーイングが突き刺さり、専門誌でも「Sareeeブーイング現象を考える」と題し、業界内外で波紋を呼んだ。
もはや勝敗を超越した領域でプロレス界の中心に立っているSareeeは、インタビュー中にスターダムのリングでは「私が出ていろんな賛否両論ありましたけど」とつぶやいた。その賛否の「否」とは何かを尋ねると、「ブーイングですかね」という。
最近は収まりつつある会場でのブーイングだが、スターダムファンからの「拒否」反応を、こう打ち明けた。
「正直、試合中は闘いに集中しているのでブーイングはわからないんです。あとから『あぁブーイングされていたな』って気づくんですけど、いろんな意見が私に対してあります。ファンもレスラーもムカつくことがあると思います。だけど、これはプロレスなんです。闘いなんです。
お互いが言い合うのは当たり前だと思うし、それでヒートアップしてリングでぶつかり合うのが当然で、私はその闘いを自然にやっているだけです。ファンも選手も慣れていないんだなって感じます。“当たり前のことをやっている”私はそういう意識です。私は、いつも本気で言っているだけです」
ブーイングが起きることは、それだけSareeeがファンを「本気」にさせたことの証明でもある。今、男女の枠を飛び越えてこれほどファンの感情を揺さぶるレスラーは、Sareeeがナンバーワンだろう。これほどまでにファンの心をわしづかむ理由を自身はどう捉えているのだろうか。
「ブーイングが起きたのは、私がファンを選手をそれだけムカつかせたからだと思います。だけど、“怒り”って闘いの一番の原点だと私は思います。逆に怒りのない闘いってつまんなくないですか? 私はそう思います。私は怒りから燃え上がってくるものが一番だと思っています。
私が信じる闘いをこれからもやっていきますし、私はすべてをリングでさらけだしています。リング上でウソ偽りない闘い、発言…そのすべてを見せていきます。
「私はもっともっと馬鹿になろうと思う」
プロレス界で論争を巻き起こした「ブーイング現象」について、自身の揺るぎないプロレス哲学、魂で応えた。このリアルな感情がSareeeの最大の魅力であり武器なのだ。一方でリング外ではSNSでの誹謗中傷も受けた。
「これは難しいですね。自分は大丈夫なんです。だけど、人間だから誹謗中傷を受けても大丈夫じゃない選手もいます。そういう選手がいることは理解してほしいし、気をつけてほしい。『みんな人間だよ』ってSNSに誹謗中傷を書き込む人には伝えたいですね。
私はプロレスラーとしてリングの上がすべてだと思っています。私への批判があるならその声にリング上の闘いで答えを出したいと思っています。だから、SNSに書き込んでいる人は私の試合を会場で見てから、何かを言ってほしいと思います」
Sareeeが尊敬するアントニオ猪木さんも現役時代、引退後もプロレスは「怒りが重要」と何度も説いてきた。
「女子プロレスをもっと世間に認めさせたい。真剣に闘っている選手たちが今、こんなにたくさんいるんだぞって。それぞれの選手の生き様をみてもらいたい。命かけてやっている選手たちの闘いをみてほしい。女子だからじゃなくて男子と同じ目線で私たちの闘いを見てほしい。だから、私はもっともっと上に行かないといけないんです」
生前、アントニオ猪木さんは「馬鹿になれ!」と後輩のレスラーに説いてきた。その言葉の意味についてSareeeは「最初はわかんなかった」と正直に打ち明ける。
「猪木さんが『馬鹿になれ!』っておっしゃっていた意味が今、私の中でわかり始めています。最初は『どういうこと? 馬鹿になれ!』って…馬鹿になったらダメじゃんと思っていました。
それが最近は、『あ、こういうことか!』とわかりかけてきた気がします。馬鹿にならないとやってられないですし、この世界、馬鹿にならないと無理なんですよ。
現在、フリーとして「スターダム」と「マリーゴールド」のライバル団体を縦横無尽に闘う規格外の存在となった。しかし、10月13日には新日本プロレスの両国国技館大会で、朱里に敗れIWGP女子王座から陥落している。
「新日本プロレスのリングは、言うまでもなくIWGPベルトの原点、しかも尊敬するアントニオ猪木さんが創設し、猪木さんが創始したリングに上れることだけでも光栄なことでした。タイトルマッチは急遽、決まったんですが私の中では、デビューから14年目でやっとここまで辿り着いたか…っていう感覚でした」
「私が女子プロレスのど真ん中にいる自覚は、ぶっちゃけある」
新日本マットでIWGP戦を闘えることはSareeeにとって無上の喜びだった。しかし、試合の結果は残酷だった。
「正直、ここで勝って“強い女子プロレス”を新日本のリングでも証明して見せつけて、みんなを納得させて来年1・4ドームへ王者として行く…と思ったんですけど…ベルトを奪われてしまって…。
ものすごく悔しかったんですが、時間が経って冷静に自分を見つめ直したら、ここが私の弱さだと気づかされました。こういう大事なところで結果を出さないと意味がないんです。それは自分の弱さです。だけど、この負けをただの悔しさに終わらせたくない。だからこそあのベルトは絶対、自分の元に戻すし、今よりももっともっと強くなるって誓いました」
思えば、2023年春にWWEから鳴り物入りで帰国した際も「負け」から始まった。「Sareee-ISM」第1回大会でセンダイガールズ(仙女)の橋本千紘と激闘の末に敗れ、そこから這い上がってきた。
「橋本は『強さを求めるにはSareeeを欠かせない』って言ってくれた。私も橋本千紘はそういう存在。タイミング的にも今だからこそ橋本と向き合いたいって心から思いました」
11月10日の主宰大会では、その橋本と親友でもあるスターダムのなつぽいのタッグと
対戦する。昨年のプロレス大賞受賞から2025年もSareeeは団体の垣根を越えてあらゆるリングの上を駆け抜けてきた。
「私が女子プロレスのど真ん中にいる自覚は、ぶっちゃけあります。これまでの業界じゃありえない唯一無二の存在になっていきたい。私は、誰にも縛られたくない。闘いたい相手と自由に闘いたい」
さらなる高みを目指す太陽神は、来年デビュー15周年を迎える。3月22日に横浜武道館で記念大会を開催する。団体ではなく個人のレスラーがこれほどの会場で自主大会を開催するのは異例だ。レスラーとしてもプロモーターとしても大勝負になる。
「やりたい相手はいます。
フリーのプロレスラーとして一戦一戦、崖っぷちで挑むSareeeのプロレスから目が離せない。
取材・文/中井浩一 撮影/村上庄吾

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