昨今、映画館での迷惑行為やトラブルがSNSを中心に話題になっている。2024年3月、“車椅子インフルエンサー”中嶋涼子さん(39歳)によるXの投稿が炎上したのを覚えている人も多いのではないか。
映画館「イオンシネマ シアタス調布」において、スタッフに介助をしてもらったが、鑑賞後にスタッフに言われた一言がどうしても引っかかった。その腑に落ちない気持ちをXに綴ったところ、「わがまま」「やってもらって当然だと思っている」との批判が。当時の事の顛末とその後について、中嶋さんを直撃した。
過去3度ほど利用したことがあるシアターで起きた
中嶋涼子さんは無類の映画好きだ。ほぼ毎週映画館に出かけるという彼女の前職は、映画の編集。件の映画館「イオンシネマ シアタス調布」に出かけたのも、このときが初めてではない。
上映する映画によってシアターの設備は異なるが、その日、中嶋さんが観たかった『52ヘルツのクジラたち』はリクライニング可能な革張りシートが備えられた「グランシアター」のみで上映していた。過去に3度ほど「グランシアター」を利用したことがあったため、この日もスタッフに介助をお願いした。
「介助を申し出るときはいつも『お手数をかけてしまうな』と思いながら、でも映画を楽しみたいので、スタッフの方にお願いするようにしています。3段くらいの階段があるシアタールームなので、どうしても車椅子では行くことができないんです。
その日も、普段通りに4名のスタッフの方にお手伝いをしていただき、映画鑑賞をすることができました。ところが映画が終わると、スタッフさんたちとともに、服装の異なる社員さんがお見えになりました。おそらく、役職に就かれている方ではないかとお見受けしました」(中嶋さん、以下同)
介助が終わったあと、そのスタッフは中嶋さんに対して「今後はこのスクリーン以外で観てもらえると、お互いにいい気分でいられると思います」という主旨を伝えたという。
「一番よくわからなかったのは、『これまでも介助をしていただいたのですが』と伝えても、『そのような事実はありません』とおっしゃるんです。帰り道、入場拒否をされたのだと感じて、悲しい気持ちになってしまって……。それでXに書き込みをしました」
書き込みは瞬く間に多くの人が目にするところとなり、「イオンシネマ 車椅子」がXのトレンドに登場。
当初は弱者としての中嶋さんに同情的な意見が多く寄せられたが、過去の中嶋さんのYouTubeチャンネル動画などが取り沙汰されるにつれ、誹謗中傷が目立つようになった。動画のなかの中嶋さんは明るく快活で、一般にイメージされる障がい者の枠組みとやや異なったからかもしれない。
「新幹線で移動する際、車椅子が入れる個室を予約するのですが、その個室内で撮影した動画を見つけた人が『トイレのなかで撮影して非常識』みたいな切り抜き方をして拡散されたことがありました。もちろん誤解なのですが、そうした積み重ねによって、徐々に批判コメントが増えてきてしまって……。
『死ね』『殺しに行く』などのメッセージが届くようになりました。警察に被害届を出し、逮捕者が出るに至るまでになりました。
また、インフルエンサーとして活動しているのでファンレターの宛先として公開していた住所には、頼んだ覚えのない出前が届いたりもしました」
「現実の世界は危険な場所じゃなかった」
こうした経緯から、外に出たら誰かが殺しに来るのではないか――これまで天真爛漫に過ごしてきた中嶋さんは、恐怖に怯えるようになった。3日ほど自宅から一切出られずにいた彼女は、それを見かねた友人によって連れ出された。
外出してみれば、これまで通りエレベーターのドアを押さえて待ってくれる人もいた。「SNSだけをみて怯えていたけど、現実の世界は危険な場所じゃなかった」と中嶋さんは当時の安堵を振り返る。
上映後の一件から1週間ほどして、中嶋さんはイオンシネマに連絡を取った。先方もまた、お詫びをするために中嶋さんを探していたという。支配人が数名の社員を引き連れて自宅を訪れた。その際、解けた誤解もあった。
「映画が始まる前の介助において、スタッフさんのおひとりが、車椅子を持つことに危険を感じたようです。それを上司に伝えて、事故の危険の恐れがあることは今後難しいという方向になったらしいのです。
そして『これまで介助した記録がない』という先方の主張については、単純な認識の誤りで、履歴をさかのぼると私が利用したことがわかったとのことでした。
先方からは丁寧に謝罪をしていただきました。また私も、スタッフさんに怖い思いをさせてしまったことを謝罪し、気が付かずにいた点について意見交換ができました。
私は今回の書き込みによって、何より私が大好きな映画を上映している映画館に迷惑がかかっていることも気になっていました。
もうひとつ、中嶋さんが映画館の対応で誠意を感じた部分があるという。
「事件から半年して、同じ映画館の同じシアターに映画を観に行ったときのことです。当時はなかったスロープと車椅子用の席が、入口に設置されていました。映画館の方たちが自宅にいらしたとき、『バリアフリーを充実させていきたい』とおっしゃっていたことが、こんなに早く実現されたことに感動しました」
アメリカの映画館との大きな違い
中嶋さんの人生は映画と並走してきたと言っても過言ではない。
小学3年生のとき、突然、自力で歩くことができなくなった。私立小学校に通い、おてんばだった彼女がなぜ歩けなくなったのか、現代医学でも解明できていないのだという。横断性脊髄炎という病名はついたが、下半身が動かなくなった理由も、治療法もわからない。
さまざまな病院を転々として、1年半を入院に費やした。ふさぎ込んだ彼女を同級生が誘った。「『タイタニック』を観に行こう」。以来、同作の虜になり、これまでに映画館で11回も楽しんだという。
かならず映画に携わる職業に就きたい。そんな想いを胸に、高校卒業後、中嶋さんはアメリカの短大への留学を経て四年制大学で学んだ。帰国後は通訳として働き、その後、映画の編集者に転身。
アメリカで観た映画館の光景をふと思い返すことがある。
「アメリカの映画館は、いろんな場所にスペースがあって、好きなスペースを車椅子ユーザーが選んで観れる選択肢がありました。日本の映画館にも車椅子席はありますが、通常の席から隔離されていたり、1つ2つの席が一番前に設置されていたりして必ずしも観やすい席ではないことが多いと感じます」
今回の出来事について、いま何を思うのか。
「自分が大切に思っている映画のことで、炎上してしまったことはとてもつらく悲しい気持ちになりました。しかし、議論を呼び起こしたことによって、社会をほんの少しでも変えることができたと今は前向きに考えられています」
中嶋さんが社会に提起した、日本の映画館のあり方。それは、障がいを持つ人が不便を強いられない映画鑑賞を実現させることにつながる。
「車椅子の人だけではなく、ベビーカーで来場する人にも対応していたり、耳が聴こえない人のために字幕をつけたり、目の不自由な人用に音声アプリがあったり、呼吸器をつけている人やてんかんがある人には防音仕様のシアターを用意できたり――。
そんな誰もが気を遣わずに映画を楽しめるバリアフリー映画館をいつか作りたいと思っています」
※
失意のなかでも人は希望を語れる。炎上を通して、中嶋さんには、「誰もが映画を楽しめる映画館を作る」という新しい夢ができた。
取材・文/黒島暁生 写真/本人提供

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