2025年、世界は再び混迷の只中にある。ロシアの侵攻や中東危機は収束の兆しを見せず、国際社会の抑止力は弱まる一方だ。
新刊『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』の第3章より一部抜粋・再構成してお届けする。
拡大し、増加する非人道的な暴力・紛争
21世紀も四半世紀が過ぎた2025年現在、世界には出口の見えない国際紛争が続いている。
ロシア軍のウクライナ侵攻は、実質的には2014年からウクライナ東部で局地戦として続いていたが、2022年2月、プーチン大統領が全面侵攻を命じたことで本格的な侵略戦争になった。戦力に勝るロシア軍に対し、ウクライナは〝西側〟各国からの支援を得て抗戦し、東部・南部の一部国土を占領されながらも持ちこたえている。
2025年1月に再登板した米国のトランプ大統領が停戦仲介に乗り出すも、話は平行線でまとまらない。かといって、ロシア軍もウクライナ軍も相手を撃破する戦力はなく、ロシア軍が若干優勢の傾向で膠着状態に陥っている。
ウクライナ側は祖国防衛戦なので、現有の戦力で防戦が可能なら、抵抗を止めることはない。むしろプーチンがロシア軍に撤退を命じれば、その瞬間に戦争は終わる。しかし、侵攻初日に彼自身の言葉で大義(あくまでプーチン側の)を宣言してしまった以上、自分のメンツと自己正当化を最優先するプーチンは、自分の思惑がミスだったことを認めることになるため、戦争をやめない。彼は、ロシア国民に「弱気だな」と思われかねないことは絶対に言わない。つまり近い将来、戦争が終結する要素は残念ながら見あたらない。
他方、中東ではパレスチナのガザ地区が、人道危機と呼んでいいレベルの悲惨な状況になっている。もともとガザを支配するパレスチナ組織「ハマス」とイスラエル軍は散発的に交戦してきたが、2023年10月にハマスが壁を破壊してイスラエル側の住民や軍基地を奇襲する大規模なテロを成功させる。
対するイスラエルはハマス殲滅を目標にガザを攻撃。ハマス戦闘員は市内に隠れているため、イスラエル軍はガザ住民を丸ごと殺戮する作戦を強行した。ハマスはテロ攻撃時にイスラエル側から人質を拉致しており、人質解放をめぐって停戦交渉が行われているが、イスラエル側の「ハマス解体の要求」とハマス側の「イスラエル撤退の要求」は天地ほど乖離しており、こちらも解決の要素はまったくない。戦力が圧倒的なイスラエル軍によるほぼ一方的なガザ攻撃は継続され、一般住民の犠牲者が増え続けている。
なお、パレスチナ側を支援してイスラエルを攻撃したレバノンの民兵組織「ヒズボラ」に対してもイスラエルは、拠点の町を大規模空爆で破壊して半ば壊滅させ、さらにハマスやヒズボラの背後にいたイランと2024年4月と10月に直接的な交戦となり、2025年6月にはイラン本国を大規模に空爆した。最終段階では、イランの地下核施設を攻撃するために米軍も空爆に参加した。
1980~1990年代:冷戦からポスト冷戦へ
天敵同士だったイランとイスラエルだが、それまではヒズボラのような代理勢力を使った攻防はあったものの、本国同士が交戦したのは初のことだ。背景にはイランが核開発を加速させていることがあるが、いずれにせよここでも従来は機能していた〝歯止め〟がかからない。
これらの終わりなき流血は、偶然ではない。まず国際安全保障環境で、侵略行為を抑止するメカニズムが機能しなくなっている。国連安保理の拒否権を持つロシアと中国が完全に米英仏と対決姿勢になっており、安保理は機能しない。
しかも、世界ではプーチン政権、習近平政権、イランのハメネイ政権といった非民主主義の権威主義国家の勢力が攻勢に出ており、いわゆる〝西側〟は劣勢にある。つまり世界ではかつてよりもさらに非人道的な暴力や紛争が拡大しているわけだが、なぜ、どのように、世界はそうなってきてしまったのか。そのメカニズム変貌の流れを振り返ってみたい。
まず、第二次世界大戦後に長く続いたのが冷戦だった。米国とソ連をそれぞれ盟主とする西側と東側の対立が長く続いた。核大国の米ソは直接交戦はしなかったが、互いの〝縄張り〟を守るべく、自陣営の国々あるいはゲリラ勢力を支援した。
もっとも、経済的な発展の差もあり、冷戦が進むにつれて世界の主導権争いは西側の圧勝になっていった。1985年にソ連の政権トップの共産党書記長となったゴルバチョフが始めたペレストロイカ(再構築)とグラスノスチ(情報公開)で強権支配が弱まり、東側の統制が緩んだ。
1980年に開設されたCATVの24時間ニュース局「CNN」などの影響で、情報の伝達が進化した影響もあった。情報伝達が多様化・迅速化し、共産圏の情報統制地域でも政府の建前の欺瞞が糊塗できなくなってきたこともあった。
冷戦は1986年10月のレイキャビクでのレーガン=ゴルバチョフ首脳会談で緊張緩和に向かう。1989年5月にハンガリー政府がオーストリアとの国境の鉄条網を撤去し、「鉄のカーテン」が崩れたことを出発点に、東欧からの大量の脱出者が生まれ、同年9月に東ドイツのライプツィヒで大規模な民主化要求デモが行われ、11月にベルリンの壁が崩壊した。
本家のソ連では1991年6月に改革派のエリツィンがロシア大統領選で勝利し、翌7月に就任。同年8月のソ連守旧派のクーデター失敗が決定的転機になった。ソ連共産党が敗北したのである。ソ連の解体は同年末である。
米国と同盟国による対テロ戦争へ
冷戦終結後、旧ユーゴスラビアなどで民族紛争が激化した地域もあったが、いずれ終息した。ソ連が消滅した後、世界は事実上の米国一極になった。厳密に言えば、東アジアでは中国や北朝鮮が一党独裁のまま残り、ロシアも核大国としてNATOと軍事的に対峙したままではあったが、エリツィン政権下の新生ロシアの国力は見る影もなく、米国主導の〝西側〟の優位は圧倒的だった。
こうして1990年代初頭に、戦後長らく世界の最大の対立軸だった「冷戦」が終結した。ポスト冷戦は米国一極で、これで世界は平和になるかと多くの人々が考えた。
そんな1990年代、世界の安全保障環境は大きく変化した。たとえば米国では、〝共産圏〟の脅威が消えた代わりに、麻薬問題が注目された。
チェチェンや旧ユーゴ、アフガニスタンなど各地での地域紛争は続いたが、この時期、大きな戦争はなかった。ただし、水面下で燻っていた問題があった。湾岸戦争時にアラブ世界に米軍が入ったことに反発したイスラム過激派「アルカイダ」の誕生である。アルカイダの主力はアフガニスタン戦争に参戦したイスラム義勇兵たちで、彼らは90年代半ばに再びアフガニスタンに集結し、同地を押さえたイスラム勢力「タリバン」に合流した。
90年代にもうひとつ大きな動きを見せたのが北朝鮮だ。北朝鮮はかねてから隠れて核開発をしていたが、それが露呈し、国際社会との関係が緊張する。とくに1994年には北朝鮮が核不拡散条約(NPT)脱退を前年に通告したことで米国との緊張が高まった「核危機」が発生。クリントン政権が一時は制限的な対北朝鮮の軍事攻撃を検討するも、土壇場で北朝鮮の金日成政権が折れた。ただ、北朝鮮はその後もミサイル発射などを繰り返した。
2000年代も、世界の安全保障の大きな課題は、イスラム・テロと北朝鮮、それに中国の軍拡だった。
中国はすさまじい勢いで軍事力を増強し続け、すっかり軍事大国化した。それに、経済発展を目的にインターネットを国民に奨励すると同時に、ネットを介した自由な言論空間を警戒してネット監視を強化するシステムの構築に尽力。後のサイバー戦力に繋がるIT技術を大幅に向上させた。
こうした2000年代の〝脅威〟の中でも特に大きな動きがあったのが、イスラム・テロだ。2001年に9・11テロが発生。直後の米軍のアフガニスタン攻撃、2003年のイラク戦争をピークに、2000年代の世界の対立構造は、米国と同盟国による対テロ戦争が主軸になっていったのである。
文/黒井文太郎
『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』(星海社)
一田和樹、石井大智、石川雄介、岩井博樹、黒井文太郎
加速し、混迷する情報社会を生き抜くための「デジタル黙示録」!
フェイクニュースの蔓延、陰謀論の跋扈、世界情勢の急速な不安定化。生成AIの進化もあいまって、私たちを取り囲む「不安」は多様化し加速しているかに見える。しかしその不安はどのような意味で危険で、どこまでが対策すべき事象なのか。たとえば偽情報・誤情報を「ファクトチェック」すればするほど、悪意を持った発信者たちの思う壺になるのだとしたら……? 「偽情報・誤情報問題の現状」「日本の偽情報・誤情報対策」「暴力と紛争の増加」「医療とサイバー防衛」「移民兵器」という最新論点を専門家5名が徹底解説する本書は、加速し混迷する社会の実像を明るみにし、生き抜くための来るべき「デジタル黙示録」である!
*以下、本書目次より抜粋
はじめに 「デジタル黙示録」
真偽を問う意味もない
コロナ禍を契機にデジタル黙示録の時代が始まった
各章の内容
第1章 情報の半分以上が偽・誤情報になる 一田和樹
第2章 日本の偽情報・誤情報対策の見取り図 石井大智
第3章 暴力と紛争の増加 安全保障上の新論点と新展開 黒井文太郎
第4章 医療を守るサイバー防衛 国家と現場をつなぐ防衛戦略 岩井博樹
第5章 移民兵器:人道と安全保障の狭間で 石川雄介
おわりに

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