109歳・ギネスも認めた世界最高齢の現役理容師が明かす“人生の整え方”  長寿の秘訣は「悪意をもたず、素直に生きる」
109歳・ギネスも認めた世界最高齢の現役理容師が明かす“人生の整え方”  長寿の秘訣は「悪意をもたず、素直に生きる」

「世界最高齢の現役理容師」としてギネス世界記録に認定された箱石シツイさんが今年11月10日、109歳の誕生日を迎えた。箱石さんは1916(大正5)年に生まれ、20歳で理容師資格を取得してから戦中戦後を経て約90年間ハサミを握り続けてきた。

そんな箱石さんに、109歳を迎えた今の生活ぶりや仕事への想い、そして長寿の秘訣を聞いた。(前後編の前編)

世界最高齢の現役理容師、109歳の誕生日パーティー開催

「本当に幸せ…。もういつ死んでも不足はありません」

そう感極まりながら喜びの言葉を何度も口にしていたのが、栃木県に住む箱石シツイさん。今年3月、世界最高齢の現役理容師としてギネス世界記録に認定された女性だ。

この日、長女・充子さん宅で親戚や友人ら約15人が集まり、箱石さんの109歳の誕生日パーティーが開催されていた。食卓には赤飯やおでん、お稲荷さんなどが並んだほか、「おたんじょうび おめでとう! 109才 おかあさん」のプレートがのったショートケーキも出された。

お誕生日ソングが歌われた後、109歳とは思えない肺活量で、9本のろうそくを一気に吹き消した箱石さん。長男の英政さん(82)からは「足腰の痛みに効くように」とビタミン剤がプレゼントされた。

109歳の誕生日を迎えた現在の心境を聞いてみると、

「109歳となりましたが、みなさんのおかげで気持ちも穏やかになり、どうにかもうしばらく生き延びられそうです。いろいろな食べ物を綺麗に並べていただき、本当にありがとうございます」(箱石さん、以下同)

とうれしそうに語り、赤飯やお稲荷さんを頬張った。

施設から店まで車で通い、ハサミを握り続ける日々

箱石さんは1916(大正5)年に栃木県で生まれ、14歳で上京後、6年間の見習い期間を経て、20歳のときに理容師資格を取得した。結婚後、夫とともに東京の下落合で理容店を開業したものの、太平洋戦争による空襲で店も焼け、夫も戦死した。

終戦後は2人の子どもを育てながら、1953年に栃木県那珂川町で「理容 ハコイシ」を開業。長きにわたり、幅広い世代の地元住民から愛された。

箱石さんは、約1年前から老人ホームで暮らしているため、予約が入れば長男の英政さんが施設から店まで送迎し、ハサミを握る日々を送った。予約は月4件ほどで、地元住民ほか、箱石さんの噂を聞きつけた他県からのお客さんも来るほどの人気ぶりだった。

今年3月にはギネス世界記録にも認定されたが、髪を切る姿勢を維持し続けることが難しくなり、今春から店をお休みしているという。

しかし、109歳となった現在でも大病を患うことなく、施設では毎朝8時に起床し、朝昼晩と三食しっかり食べて、午後7時には就寝する規則正しい生活を送っている。そんな箱石さんの最近の日課は「毎日会いに来てくれる娘のみっちゃん(充子さん)と一緒にお茶すること」だという。

長生きの秘訣は「悪意をもって解釈せず、素直に人付き合いすること」

「理容 ハコイシ」の再オープンの予定はないのか、聞いてみたところ、

「もう手も震えるし、カミソリでお客さんの頭を切ってしまうかもしれない。だから今はあまりやりたいと思わないね」

と語った。それでもハサミを手渡すと、「リーゼントとか三角カットが得意だったのよ」と得意げにハサミさばきを披露してくれた箱石さん。理容師という仕事を選んでよかった点を聞いてみると、

「父からは『これからの女は手に職をつけたほうがいい。夫に先立たれても食っていけるように』と言われて、上京を決めました。だから自分で開業して、身一つで食べていける理容師の仕事を選んで本当によかった。毎日お金も入りますしね」

と笑顔で語った。

長生きの秘訣を聞いてみると、

「悪意をもって解釈せず、素直に人とお付き合いすることですかね。世渡りは難しいですから。区別せずに人と接することで素直に世渡りできると思いますよ」

今はハサミを休めながらも、その誠実でまっすぐな人柄と優しいまなざしで、変わらず周囲の人々の心を整えているようだ。

#後編へつづく

取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部特集班

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