2020年代は、「COVID‐19」(新型コロナウイルス)によるパンデミックと大国の侵略が重なり、世界秩序が急速に揺らいだ時代となった。コロナ禍の陰で陰謀論が拡散し、西側の結束は亀裂を深める一方、ロシアや中国、イランなど権威主義国家は攻勢を強めている。
新刊『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』の第3章より一部抜粋・再構成してお届けする。
2020年代はどんな時代なのか。
まず、世界秩序に凄まじい影響を与えたのは、「COVID‐19」(新型コロナウイルス)のパンデミックだった。米国のトランプ政権は、これを中国が研究所で人工的に作ったウイルスだとして中国の責任を追及しているが、科学界ではウイルスの発生起源はまだ不明で、むしろ自然発生説が優勢だ。
ただ、このコロナ禍については反ワクチン論をはじめ、さまざまな非科学的な陰謀論がネット上で蔓延した。一部の既存メディアすらそうした非科学的言説を拡散している。
そんなコロナ禍がひと段落つきつつある時に発生したのが、ロシアによるウクライナへの全面侵攻だった。これはシンプルに、プーチンがそう決断したから発生した戦いである。
プーチンはもともと2000年に権力を握った時から、愛国心を煽動してロシアの復権を強く掲げてきた。2014年に前述したようにクリミア半島を奪取したが、その後の東ウクライナでの戦いは泥沼化していた。
その間、ロシアでは民主活動家の反プーチン運動などもあったが、秘密警察「FSB」が活動家を弾圧。密かに毒殺を試みたこともあった(後に収監し、衰弱死させた)。プーチンは軍や学校での愛国教育を強化するなど、どんどんと独裁色を強めていった。
そんなプーチンが突如、2021年3月から4月にかけて10万もの大軍をウクライナ国境に展開させる。ロシア軍はいったん引くが、同年7月、唐突に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文を発表し、ウクライナはロシアの縄張りであることを強調。同年10月、再び同程度の大軍を展開させた。
それ以降、プーチンは米国・NATOに向けた強気の声明を連発。翌2022年2月、約15万の大軍でウクライナに全面侵攻したのだった。90年代のポスト冷戦時代には誰も想像していなかった〝大国が一方的に他国を侵略する戦争〟が起きてしまったのだ。世界は平和になるどころか、イデオロギーなき戦争の時代に入っている。
それ以降、世界の将来に平和はもう考えにくい状況に陥ってしまっている。
ロシアはウクライナへの侵略をやめない。
ウクライナ、ガザだけでない世界に散らばる危機
ガザではイスラエル軍が、ハマスが潜む住宅エリアごと徹底攻撃し、一般住民の大量殺戮を続けている。こちらは米国がバイデン政権も第2次トランプ政権も徹底してイスラエル支持であり、国際社会はこの悲惨なジェノサイドを止めることができていない。
それ以外の地域に目を向けると、たとえば2023年から激化しているスーダン内戦では、同国西部で凄まじい住民殺戮が継続しているが、国際社会の関心は低い。
他にも、アフリカのコンゴやマリ、中央アフリカ、中米のハイチ、東南アジアのミャンマーなどでも流血の紛争が長く続いているが、国際社会は解決できない。2025年にはイスラエル軍とイラン軍の交戦、インド軍とパキスタン軍の交戦、あるいはタイ軍とカンボジア軍の交戦など、限定的ではあるが正規軍同士の戦闘も噴出している。
東アジアでは、中国がさかんに台湾近傍で軍事演習を行うなど、習近平が台湾に侵攻するのではないかとの懸念が広がっている。侵攻を決断できるのは習近平ひとりであり、予測は困難だが、2025年現在はまだ実際に侵攻する徴候はない。
北朝鮮は2017年以降、核実験は行っていないが、ミサイルはさまざまな種類を開発し、発射実験を繰り返してきた。対米核抑止の主力となる対米用ICBMだけでなく、日米のイージス艦のミサイル防衛を回避する低高度滑空機動型の中距離弾道ミサイルや、長射程の巡航ミサイル、ドローン、対韓国用の各種ミサイル/ロケット砲、それに偵察衛星も開発している。
ICBMは2024年10月、大型の固体燃料ICBM「火星19」を発射し、北朝鮮はこれで対米核戦力の完成と主張している。もっとも、おそらく北朝鮮は今後、多弾頭化ICBMを開発し、小型起爆装置の核爆弾の実証実験と、逆に大出力の水爆の実験を成功させて完成としたいのではないかと推測される。
北朝鮮の動きとしてもう一つ注目されるのが、ロシアとの関係強化だ。
紛争が解決できない4つの主要因
以上が、冷戦から2025年現在までの国際安全保障の対立状況の大まかな流れである。繰り返すが、1990年代のポスト冷戦時の期待溢れる時代から人類の社会は大幅に劣化し、前述したように戦争の時代に完全に突入している。
今後も流血の紛争が続くことは疑いないが、紛争が解決できない主要因を4つ挙げておきたい。
1つ目は、これまで論じてきたように、非民主主義陣営、あるいは権威主義国や独裁国と言い換えてもいいが、ロシア、中国、イランを中心にそれらの陣営が勢いを増していることだ。彼らは自分たちのサバイバルのために、自由や民主主義を弾圧し続けるしかない。
そんな彼らの勢力圏が拡大するということは、理不尽な暴力がどんどん拡散するということを意味する。そして、本来なら彼らの暴走を止めるべき西側、とくにその盟主だった米国が「世界の警察官」をやめている。米国が介入しないということは、非民主主義陣営を誰も止めないということになる。
2つ目は、その他の各地域の細かな紛争を止めるメカニズムが、もうないということだ。
そうなると西側の主要国が独自に仲介を展開するということしかないが、その主役たる米国がそうした役割を拒否する傾向にあり、結果的に各地域紛争は放置される。逆に力で権力や不当利益を得ようと考える勢力は、国際社会が介入しないことを予期して、武力による傍若無人な行動に出ることも考えられる。
有害なフェイク情報の蔓延を撃破することが重要
3つ目は、国際人道法あるいは人道主義が、軽視ないしは無視されるようになってきたことだ。ポスト冷戦期には国連安保理が重視され、あるいは人間の安全保障のような概念まで議論されたのだが、現在のロシア軍やイスラエル軍の行動をみると、建前でも国際法や人道主義での自己正当化をまったく考慮していないことがわかる。
戦争は殺し合いだが、そんな殺し合いでもたとえば民間人保護のためのルール作りなどの努力が人間社会ではずっと続けられてきた。さまざまな国際人道法、それに国際連盟や国際連合などの創設もそうなのだが、そうした人間の努力がことごとく軽視される状況が生じている。
しかも、現代はその非人道的行動が動画で撮影され、世界中に公表されているにもかかわらず、強制的に彼らの非人道的行動をやめさせる実力組織が存在しないなら、やりたいようにやるという風潮が蔓延している。これは由々しき事態と言える。
そして最後の4番目だが、おそらく現在はこれが最も国際安全保障環境への破壊力が大きく、罪深き事態である。本論でもすでに前述したが、陰謀論の蔓延による西側の安全保障体制の内側からの自壊である。米国のトランプ政権が典型例だが、前述した非民主主義陣営の台頭に対峙するはずの西側の結束が崩れ、分裂し、弱体化している。
しかも、米国だけでなく、欧州でもプーチン支持の極右勢力が急成長している。欧州の国々の政権がいつトランプ政権のような陰謀論政権になってもおかしくない。たとえば2025年現在、トランプ政権はウクライナへの無償の軍事援助を否定しているが、欧州諸国やウクライナが資金を出して米国の防衛企業から購入あるいは共同生産する方式なら、米国ファーストのビジネスとして認める方針だ。
しかし、欧州もウクライナも経済的にそう余裕があるわけではない。しかも、仮に欧州諸国がどんどん親プーチン派の極右政権になったりしたら、世界の平和はもうおしまいである。
こうして振り返ると、世界の将来像としてはもう完全に悲観的な予測しか考えられない。そして、悲観的に考えている間にも、ウクライナやガザ、あるいは他の世界の紛争地では、無実の人々が殺され続ける。
では、私たちにできることはまったくないのか。前述した紛争継続の4つの要素のうち、私たちの努力で可能だとすれば、4番目の「陰謀論の蔓延による西側の安全保障体制の内側からの自壊」をなんとか食い止めることだろう。日本でもぼちぼち陰謀論の蔓延の徴候があるが、それを放置していてはいけない。そうした有害なフェイク情報の蔓延を撃破することがきわめて重要だと強く指摘して、本論の〆にしたいと思う。
文/黒井文太郎
『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』(星海社)
一田和樹、石井大智、石川雄介、岩井博樹、黒井文太郎
加速し、混迷する情報社会を生き抜くための「デジタル黙示録」!
フェイクニュースの蔓延、陰謀論の跋扈、世界情勢の急速な不安定化。
*以下、本書目次より抜粋
はじめに 「デジタル黙示録」
真偽を問う意味もない
コロナ禍を契機にデジタル黙示録の時代が始まった
各章の内容
第1章 情報の半分以上が偽・誤情報になる 一田和樹
第2章 日本の偽情報・誤情報対策の見取り図 石井大智
第3章 暴力と紛争の増加 安全保障上の新論点と新展開 黒井文太郎
第4章 医療を守るサイバー防衛 国家と現場をつなぐ防衛戦略 岩井博樹
第5章 移民兵器:人道と安全保障の狭間で 石川雄介
おわりに

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