日経平均株価が5万円を突破した日本が沸き上がっている。しかし、名物投資家の木戸次郎氏が警鐘を鳴らす。
世界で最も強烈に「買わない」という意思を示すバフェット
東京市場はいま、夢に酔っている。憲政史上初の女性総理大臣が誕生し、外交舞台で鮮烈な笑顔を振りまき、拉致被害者家族にも力強い言葉を投げかけ、国民全体が共鳴し、希望という名の熱に浮かされている。
就任後わずか数週間で日経平均は7,000円超の暴騰、為替は約7円の円安が一気に進み、街の空気はバブル期の再来を思わせるほどだ。
メディアは絶賛に次ぐ絶賛、世論調査は歴史的高水準、批判は封じられ、「日本は変わる」という甘い言葉を国民が許容し、期待という最も残酷な錯覚に身を委ねている。
主要ニュース番組は来日トランプ大統領の来日期間中に「日経平均5万円突破」を大写しにし、政府はそれを外交成果の象徴として見せつけた。だが、そこに映っていたのは繁栄の証ではなく、外資マネーに資産価格の首根っこを握られた国家の姿に他ならない。
しかし、夢に溺れた瞬間こそ、相場は最も危険だ。そんな中、ただ一人、醒めた目をしている男がいる。ウォーレン・バフェットだ。
彼が率いるバークシャー・ハサウェイは12四半期連続で純売却、累計500~600億ドル規模の売り越し。
リスク資産の期待収益をいまは素直に上回ってしまう確実な利回りが手の届くところにある。それが現金と短期国債だ。「割安ではないから買わない」という彼の哲学は単純だが、逆境ほど効く。バフェットは割安を好むのではない、割安以外を拒むのだ。
一方で日本株は割安どころか、期待という麻酔で高値圏に担ぎ上げられてしまっている。防衛費の恒久財源は霞に包まれ、増税か国債か特別会計か、いずれにせよ家計の将来可処分所得を削る方向に収束する。
家計の苦しみの上に成り立つ税収を成功と誤認した日本政府
円安は輸入価格の見えない増税となって庶民の生活を静かに削り取り、実質賃金は統計の言い回しを駆使してもなお力強さに欠ける。
企業物価の上昇は名目賃上げ率を先回りし、価格転嫁の遅れが中小のキャッシュフローを圧迫する。そして消費は弱いのに株だけが元気という歪な光景が拡大するほど、熱狂の根が浅いことを示してしまう。
ここで政府は税収増の幻に酔っている。輸出大企業だけが享受した円安の果実に依存し、当初予算から大幅に補正してなお、それを上回る税収が3年連続で生じてしまった。
家計の苦しみの上に成り立つ税収を成功と誤認し、その甘い汁を吸い続けたいがために、円安容認の誘惑から抜け出せない。結局のところ、それは将来世代からの前借りにすぎない。為替の追い風が止めば、財源は霧散し、裸の脆弱さが露呈する。
金利は、政策の忖度によって「見なかったこと」にされている
株価を政治の成果として誇り、外国マネーを呼び込んだと胸を張るのは自由だが、肝心なのは彼らの時間軸にある。いつ、どの価格で入り、どの価格で抜けるのか。
コーポレートガバナンス改革、PBR1倍割れ是正、資本コストの可視化、政策保有株の解消、自己株買いの常態化──どれも正しい。だが、正しいからこそ、それらはすでに価格に織り込まれてしまった。
改善の方向性が見えた瞬間に最大の超過収益が生まれるのではなく、改善が「割安さ」と同居したときにだけ、投資リターンは跳ねるのである。高いところで善い話を聞いた者が報われる市場など、歴史上存在しない。
しかも肝心の金利は、政策の忖度によって「見なかったこと」にされている。短期・長期ともに世界基準から見てなお低位とはいえ、割引率が上がれば負債評価は下がる。
すなわち利上げは、企業の貸借対照表を健全化する痛みを伴わない改革として機能している。借入金利の上昇という痛みは確かにあるが、賃上げの持続性や価格決定力の回復、投資の選別を促す効果を通じて、企業経営の質をむしろ押し上げる。
利上げは賃上げの足を引っ張るどころか、その余地を生む。つまり金融の正常化とは、名目の繁栄を剥いで実力を映す鏡でしかない。
天井で売りつけ、底で拾う海外マネー
にもかかわらず、政府はその鏡を見るのが怖いのだ。だからこそ、日経平均5万円突破を外交の舞台で演出し、ニュースの見出しを借りて「変化」を前倒しで売っている。
しかし相場は宣言で上がり、現実で試される。貿易収支は資源価格と為替の二重写し、エネルギー自給の脆さは放置、成長戦略はスローガンで止まり、移民・教育・研究開発・防衛・医療介護──いずれも財源論の壁に突き当たる。
見えざる圧力が日銀の判断を鈍らせているという疑念は消えず、円安と株高の不安定なバランスは次のショックに脆い2階建ての足場に見える。
こうした中で、シンガポールや香港のヘッジファンド勢は、バークシャーの沈黙を読み解いている。沈黙とは、最大級の発信だ。彼らは理解している。
価格は期待で走り、リターンは落差で生まれる。ゆえに彼らはいつでも逃げられる態勢を保ちながら、国内勢が国策という名の安心感で買い上がるのを待つ。逃げるときはニュースを待たない。手じまいは静かで、拾いはさらに静かだ。
ベッセント財務長官は日経平均が8,000円台だった頃に日本株を買い込み大儲けした過去を示し、あのときと同じく「逆回転後に買えばいい」という暗黙のメッセージを現実で語っている。天井で売りつけ、底で拾う。海外マネーとはそういうものだ。
いま必要なのは祝祭の延長ではなく、覚悟の家計簿
もちろん、日本株の中身は過去より確実に良い。ガバナンスは前進し、自己株買いは文化になり、ROEは見た目だけでなく構造的に底上げされつつある。
親子上場の解消は資本最適化と少数株主の権利保護を同時に進め、余剰現金の再配分は株主還元と成長投資の両輪を回し始めた。だが、それは高値で買っても安全という意味にはならない。
期待と現実が正しく接続されるのは価格が冷える過程においてであり、寒さが骨身にしみたとき初めて企業の体温の違いが見える。
いま必要なのは祝祭の延長ではなく、覚悟の家計簿である。家計の貯蓄率は薄く、金利正常化の果実を家計に回すには時間がかかる。
金融所得課税の議論は取りやすいところから取る方向に流れやすく、実体経済の価格転嫁が家計に届く前に、社会保険料や税負担の上昇が先に着地する。企業にとっても採算性の低い在庫投資や割に合わない増設は、名目売上の拡張に隠れて判断を誤らせる。
ここでこそ資本コストがもの言う。5%の壁が視界に立つだけで、多くのプロジェクトはやらない勇気を選ぶ。投資とは行う勇気であると同時に、行わない勇気でもある。
本当の地獄と本当の祝祭が交錯する
市場はしばしばショーに弱い。数字は語るが、演出は叫ぶ。演出の声が大きいとき、数字は聞こえにくくなる。だが決算は嘘をつかない。
フリーキャッシュフローが金利の重力に負けるか勝つか。自社株買いの継続性は資金調達環境と一体で、バランスシートの質は買い手の消える瞬間に露呈する。
上場子会社の整理はよいが、親会社の資本政策が長期株主の耐性を試す。インフレに便乗した名目の増収は、割引率の上昇という鏡の前では衣装を脱がされる。
私たちができる最良の戦術はショーを観客席から観ることだ。熱狂の檻から一歩外に出て、現金という最強のオプションを握る。現金は逃げない。機会は逃げるが、機会は必ず戻る。
逆回転の瞬間にだけ開く扉がある。そこに立ち会うには、いまは耐えるしかない。ポジションを小さくし、勝ち筋以外の賭けを減らし、価格が冷え込むのを待つ。恐怖の谷間で、ようやく「安く、良い」が同時に揃う。
バフェットはそれを誰よりも理解しているからこそ、今は沈黙する。買わず、笑わず、ただ次の修羅場を待っている。
期待は必ず終わる。夢はいずれ醒める。市場が酔いから醒めた瞬間こそ、本当の地獄と本当の祝祭が交錯する。その時、評論家は掌を返し、個人投資家は狼狽し、資金の早い海外勢は静かに拾い始める。
冷却が選別を生み、選別が成長を生む。そこで初めて、改革の果実は価格ではなく価値として根づく。投資とは忍耐という名の闘いだ。恐怖に呑まれず、熱狂に踊らず、ただ本質を信じて現金を握りしめ、逆回転の瞬間を待つ者だけが最後に笑う。
バフェットは笑わない。笑うのは、市場が間違いを認め、価格が価値に赦しを乞う、その後なのだ。
文/木戸次郎 写真/Shutterstock

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