「人が襲われ骨だけ残された例も…」目撃情報は例年の8倍、市職員の装備はヘルメットと盾、スプレーだけ、追いつかない駆除の実状〈秋田“クマ被害”が限界〉
「人が襲われ骨だけ残された例も…」目撃情報は例年の8倍、市職員の装備はヘルメットと盾、スプレーだけ、追いつかない駆除の実状〈秋田“クマ被害”が限界〉

全国各地でクマによる被害が深刻になっているが、なかでも秋田県北部ではクマによる被害が相次いでおり、鹿角市ではいち早く自衛隊が出動するなどの異例事態となっている。隣町の大館市では、クマの目撃情報が例年の8倍だという。

異例事態となっているクマ被害の現場をリポートする。

鶏38羽、りんご約800個が食われる被害も

「今年の被害では、腹を空かしているクマに人が襲われ、骨しか残らなかったケースもあったと聞く。クマが人間の生活圏内に現れるようになり、人への被害はひどく、クマに襲われた遺体を家族になんて見せられない」

秋田市に住む行政関係者の幹部は、過去最多になっているクマによる人的被害について、こんな言葉を選んだ。

これまで警察官がハイジャックや凶悪犯罪の現場で使用していたライフル銃が、今月13日からクマ相手にも発砲できるようになった。背景には、クマによる人的被害が東北を中心に多発しており、今年度の死亡者数は13人(11月10日時点)となり、なかでも秋田県ではそのうち4人が亡くなっている。死傷者数は196人(10月末時点) で、過去最多だった2023年度を上回るペースだ。

秋田県の北部に位置する鹿角市ではすでに自衛隊が派遣されており、クマ被害対策を目的としたケースでは異例とされている。

鹿角市の山間部に近い住宅街に住む70代男性は、今年のクマ事情についてこう語る。

「ほぼ毎日クマを見ると近隣から聞くよ。おれも朝に犬を散歩させていると、いつもと言っていいくらい見る。ラジオ無線の事故放送では、7割がクマに関する目撃情報。犬が吠えて追っ払ってくれるからいいけど、おなかを空かしている場合は犬も食われてしまうケースもあると聞くし、昔はこんなことなかったんだけどね。

2023年には近くの渓流で釣りをしていた高齢男性が食われてしまったらしい。

最近だと、ここら辺近くの鶏小屋で、日本三代地鶏の比内地鶏がクマにいっぱい食われてしまったから、俺もさ、外に出る時間を日中にずらしたりしているわけさ」

報道によると、鹿角市は10月29日午後2時ごろ、70代男性の住居近くでクマのものと見られるフンやツメ痕が見つかり、比内地鶏など計38羽が食べられていた。また、同市内では10月25日から11月4日にかけてリンゴ約800個が食べられる被害も起きている。

鹿角市の農家は「鹿角市の別の地域では4000個のリンゴをやられた農家もいる」と明かす。

「昨日も88歳の男性が昼の1時ごろ散歩していてさ、クマに襲われたんだわ。体長1.2mのクマが突然、やぶから出てきて遭遇したって。顔と右足を引っかかれて命に別状はなかったけど、病院に搬送された。近くには高校があるから、保護者が迎えにきてたりしてた」

鹿角市では今後、自衛隊がリンゴの果樹園近くで箱わなを設置するほか、ドローンなどでクマの探索を急いでいる。

クマ目撃現場に行く市の職員の装備はヘルメット、盾、スプレーのみ

鹿角市の隣に位置する大館市では、いま自衛隊派遣を調整中だ。大館市役所林政課によれば、クマの出没件数は例年の8倍となる1200頭を超えているという。

「1日に10件は必ずクマの目撃情報が届きます。多いときは、30件以上の日もあります。2023年に初めてクマが人の生活圏内に出没するようになりました。

人間は危害を加えない。攻撃もしてこない。そしてエサも食べることができる。そういった成功体験が、今年のクマにあるのではないかと考えられます」(林政課課長)

大館市には現在、105人のハンターが市から委託を受けて活動している。クマを捕獲するために使用する檻は40基あり、2年前より2倍の数を稼働させている。

市内でクマに関する通報が市役所や警察にあった場合、市の職員と警察官が最初にクマの現場へ出向くことになる。そこでハンターに捕獲や駆除を依頼するかを判断する。

「初動時にハンターさんはいないわけですから、車から降りる際はクラクションを何回か鳴らして、周囲の警戒を怠りません。私たち市の職員の装備としては、ヘルメットを被り、盾を持ち、スプレーを準備しているだけです。これまで市の職員が熊によって怪我をした事例は幸いにもありません」(林政課課長)

ところが、例年とはケタ違いの目撃情報が相次ぎ、ハンターによる駆除や捕獲で頭を抱えることも少なくないという。

「ハンターさんは高齢化が進み、またハンターだけで生計を立てている人はほとんどいないため、今後もしクマの出没が相次いだら今の体制で捌けるかは懸念点です。

また、ハンターが銃を打てるのは基本、檻に入った熊を殺すときがほとんどです。

檻に入ってないクマを発砲することは、少ないケースです。 それくらい銃の取り扱いが厳しいんです。そのほか、日没後は絶対に発砲することができないので、スプレーだったり、爆竹など音の刺激でクマを追い払うことしかできないため、必ずしも駆除できるとは限りません」

秋田県では鈴木健太知事がこれまで「極めて深刻な状況」と判断し、「県と市町村のみで対応できる範囲を超え、現場の疲弊も限界を迎えつつある」と訴えている。クマは冬眠する前の11月いっぱいまで、行動予定だという。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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