「スナックで飲んで扉を開けたらクマ!」秋田の夜の街で客が激減し“クマ大不況”に「コロナの時のように補助金ほしい」と店主の切実な声
「スナックで飲んで扉を開けたらクマ!」秋田の夜の街で客が激減し“クマ大不況”に「コロナの時のように補助金ほしい」と店主の切実な声

深刻化するクマ被害。特に被害が甚大な秋田県では、外出への注意喚起によって客足が遠のいた飲食店が危機に陥っている。

北秋田市のスナック経営者は「売り上げが3分の1になった」と明かす。彼らの苦境を追った。

「警察がパトロールしてくれるのはありがたいんですけど…」

「売り上げは去年の同月と比べて、3分の1です。常連さんがまったく来店しなくなりました。ビジネスマンなど市外からのお客さんは来てくれるのですが、近隣住民は……。狭い町ですから、飲みに歩いてクマにやられたって言いふらされたくないそうです」(スナック経営者)

10月中旬の平日の夜のことだった。午後10時ごろ、体長1メートルのクマが北秋田市の市街地で目撃された。近隣にはスナックなどの繁華街があり、飲み屋が建ち並んでいる。

近隣の飲食店経営者は当時の様子をこう語る。

「スナックから外へ出た酔っ払いの男性がクマと遭遇しました。ぎゃーって、思わず大声を上げたことで被害はなかったですが、それ以降、店を開けない飲食店もチラホラ出てきています」(北秋田市在住・飲食店経営者)

北秋田市でもクマの目撃情報が多発しており、自衛隊の派遣を調整中だ。北秋田市には大館能代空港があり、空の玄関口としての機能がある。しかし、最近では夜になると街は静まり返り、飲食店はシャッターを下ろさざるを得ないという。

秋田県が運用するクマの目撃情報や人身被害情報などをまとめた「クマダス」によると、北秋田市では2025年4月1日から11月11日にかけて、クマの目撃情報は757件にのぼった。

前出のスナック経営者は、「9月から10月にかけて稲刈りが行なわれ、農家さんが家業に集中するので、暇になる閑散期。11月からは繁忙期として期待していたのですが……」と肩を落とす。

「警察がパトロールしてくれるのはありがたいんですけど、『不要不急の外出をお控えください』とガイダンスしながら回るんですよ。コロナ禍と一緒で、誰も外に出歩かなくなっちゃうんですよね。

ただ、あの時と違って、補助金とかがあるわけでもないし。今年のような状況が今後も数年続くようであれば、何か対策がないと困った未来が見えます」

同市内では他の店にも影響が出ているという。地元住人で30年以上タクシー業務をこなすベテラン運転手が証言する。

「この1カ月くらい、夜の食事をするための県外からのお客さんを乗せたり、まったくしていない。地元の人たちと昼間話していると、夜は絶対に飲み歩かないようにしていると聞く。いっぽうで、飲食店の人たちは客足が遠のいていることから、売り上げが去年の同月と比べ半分になったところもあると嘆いていた」

「街に出てくるクマは、爆竹や鈴の音も効果がないと聞く」

クマ対応にあたる後方支援のため、陸上自衛隊が秋田県に最初に入ったのは北秋田市の近隣にある鹿角市だった。「クマダス」によると鹿角市では今年4月1日から11月11日にかけて、クマの目撃情報は834件にのぼる。

鹿角市にある老舗の飲食店の経営者は、客足の減少について不安でいっぱいだという。

「例年は午後7時くらいから賑わうけれども、今年は人が本当に少ない。お客さんが夜に来て食べて飲んで、それから歩いて帰ろうとすると『タクシーで帰りなさいね』とアドバイスをしてしまうくらい、心配な状況が続いています。

幸いにもランチ営業中に常連さんが来たりして売り上げは維持しているけれど、これが毎年続くときつい部分もありますね」

飲食店の苦境は秋田県北部に限ったことではない。秋田県の県庁所在地である秋田市では、市内にクマの出没が相次いでいる。なかでも市内中心部にある城跡地に整備された都市公園では、クマの目撃が続き、立ち入り規制がかけられている。

都市公園から500メートル先にある飲食店経営者の70代女性は、

「ここ数年で自動ドアが手動ドアになりました。自動ドアだと、クマが入ってきてしまうからです。街に出てくるクマは、学習能力が高く、爆竹や鈴の音も効果がないと聞きます。もう慣れているらしいですから。夜はまったく出歩けませんね。

秋田県では、もともと寒くなったら人が(外に)出なくなる傾向にあるのですが、そこにクマの出没が重なり、飲食店としては売り上げに大打撃です。

半分くらいに落ちているのかな。真っ暗になったら、人通りなんてありません」

と苦境を明かす。また、

「もう何十年も秋田市内に住んでいますが、もともとクマは人を見たらびっくりして逃げる習性がありました。でもここ最近のクマはまったく違います。人を見かけたら平気で襲ってくることも少なくありません」

と続けた。

秋田県では県内の市町村の半数程度が陸上自衛隊の支援を要請しているという。

そんななか、12日に行なわれた衆院予算委員会では、高市早苗首相がクマ被害の深刻化に伴い、2025年度補正予算案を活用し、各地の自治体へクマ捕獲などの費用の支援を拡充する考えを示した。

大館市内で飲食店を経営する男性(60代)は「クマ捕獲の対策もありがたいが、財政的な援助はまったくと言っていいほど出ていない。コロナ禍のときみたく補助金の対応もしてほしい」と語っていた。

※「集英社オンライン」では、クマについての情報、ご意見を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。

メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

X(旧Twitter)
@shuon_news

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ