GAKU-MC「サッカーが嫌いだった僕が、今は恩返ししている」復興ボランティアを通して見つけた「僕らが歌う意味」
GAKU-MC「サッカーが嫌いだった僕が、今は恩返ししている」復興ボランティアを通して見つけた「僕らが歌う意味」

1994年発売の「DA.YO.NE」、続く2ndシングル「MAICCA~まいっか」と日本語ラップ曲として初めて2作連続でミリオンセラーを達成するなど、EAST END×YURIとして爆発的なブームを起こしたラッパーのGAKU-MC。

 

今からちょうど30年前となる1995年にはNHK紅白歌合戦に出場するなど、空前のブームを生んだラッパーの現在の活動とは。

(前後編の後編)

音楽×サッカーとの出会い

Mr.Childrenの桜井和寿と結成した音楽ユニット「ウカスカジー」、そして同じく桜井含めサッカーの仲間たちと設立した音楽とフットボールを融合するプロジェクト「MIFA(Music Interact Football for All)」など、GAKU-MCはサッカーに関するさまざまな取り組みに力をいれている。

今年は、日本のサッカー界をさらに盛り上げるべく、元サッカー日本代表の本田圭佑氏が考案した、4人制サッカー大会「4v4」の応援ソングも手掛け、今では2年連続、Jリーグ月間表彰選考委員会の特任委員にも就任している。

サッカーと縁の深いGAKU-MCだが、EAST ENDとしてデビューした頃は「サッカーが大嫌いだった」と振り返る。

「高校までサッカー部で、サッカー選手になりたかったんです。でもその願いはかなわなかった。部活も辞めて、サッカーは大嫌いになりましたね。とにかく自分に振り向いてくれなかった彼女みたいな感じで(笑)。

サッカー部の友達とうまくコミュニケーションができなくなったときに、ラップにのめりこんでいったんです。サッカーと決別するのにあたって、なにか理由を探してたんでしょうね。『音楽をやるために、サッカーは僕に微笑まなかったんだ』と思えるようになりました」

反動で、一時は「テレビでサッカー関連のニュースが流れるとチャンネルを変えていた」ほどサッカーを遠ざけていたが、再び心を動かされたのは、1996年アトランタオリンピックで日本がブラジルを破った「マイアミの奇跡」だった。

「サッカーの試合は見ないようにしていたのに、なぜかその試合は見ちゃって。最初は『ブラジルに勝てるわけねえじゃん』みたいな感じだったのに、勝ったときには泣いていました。そして、翌週にはサッカーチームを作っていたんです (笑)」

サッカーで整うバランス

再びサッカーを始めたことで、生活に変化が生まれた。ラップの作詞に没頭する日々の中で、サッカーは心と身体をリセットする時間になったという。



「僕ら、ラッパーって言葉のことばかり考えてるじゃないですか。でも、サッカーをやってる時は、作詞のことを忘れられる。そして終わったら、疲れているのですぐ寝れるし、健康にも良い。

音楽家でいられるのは明らかにサッカーのおかげです。健康管理もそうですし、音楽業界に長くいると気を遣われて、なかなか意見も言われなくなるけど、サッカーコートに入ると年下のプレイヤーから『ちゃんとディフェンスに行けよ』などとダメ出しされたりと(笑)、フラットな関係でいられます。

日々暮らせるのはサッカーのおかげだと感じるんです。だから、僕たちはサッカーに感謝しなきゃいけない」

桜井との出会いも、当初は純粋なサッカー仲間だった。

「最初は音楽の話なんてほぼしないで、ただただサッカーをしてました。ある時から音楽の話になって、『俺たち以上にサッカーをしてるミュージシャンはいないよね』『日本代表の応援歌は俺らがやるしかないよね』とグループを組むようになりました。

桜井とはMIFAという団体も作ったんですが、その目的の1つはやはりサッカーへの恩返し。まず、豊洲にフットサル場を作ることから始めました」

GAKU-MCが歌う理由

社会貢献活動も、GAKU-MCにとって大きな軸の1つだ。2011年の東日本大震災後、ボランティア活動に従事し、翌年には復興音楽イベント「アカリトライブ」を立ち上げた。



「震災でライブが全部できなくなってしまったとき、ボランティアで東北に行く機会をもらったんです。テントや道具を持って向かい、ミュージシャン仲間と一緒に泥かきしたり、炊き出ししたり。ただ、最初は『こんな状況でライブなんてやるべきじゃない』と感じました。

でも、何度も通ってるうちに、現地の人たちが少しずつ生活を取り戻し、あるとき『お祭りで歌ってくれませんか?』と声をかけていただいて。そこで初めて『あ、歌ってもいいんだな』って思えたんです。やっぱり適切なタイミングに、適切なことをするべきですよね。必要としてくれる人がいるなら、僕らが行って歌う意味はあるんだと思います。

『キャンドルの灯と音楽で心をつなごう』をテーマに『アカリトライブ』を定期的に行ってるんですけど、これは普段から同じ志を持ったミュージシャンとコミュニケーションを取るためでもあるんです。万が一なにか起こってしまった際に、適切なタイミングが来たら、『みんなで行こうよ』と声をかけられるようにしておきたいので」

今年8月には、様々な競技のトップアスリートがスポーツの力で社会課題に挑むプロジェクト『HEROs』のテーマソング「HEROsのテーマ」をリリースした。このように音楽とスポーツ、社会貢献活動を融合した取り組みはますます広がりを見せている。今、音楽を軸とする活動ができるのは、「DA.YO.NE」のヒットがあったからこそとGAKU-MCは語る。

「『DA.YO.NE』がヒットしたことで、生業として音楽を選べると思えるようになりました。

ヒットによって、発言力も増したと感じます。ヒップホップ初のミリオンセラーに到達したことで、『僕はこういうことやりたい』といった自分の意見を聞いてもらえるようになったというか。

EAST END×YURIの経験があるから今でも音楽を続けられているし、自分の意見を芯を持って伝えられると思います」

GAKU-MCの活動は、スポーツや社会との関わりを通じて広がり続けている。その歩みは、迷いながら進む後輩たちにとってもひとつの道しるべとなるだろう。

取材・文/羽田健治 撮影/廣瀬靖士

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