〈斎藤知事とPR会社代表不起訴〉「検察は本気じゃなかった」告発人は「納得できない」検察審査会で再審査へ 立花氏だけ逮捕の背景は?
〈斎藤知事とPR会社代表不起訴〉「検察は本気じゃなかった」告発人は「納得できない」検察審査会で再審査へ 立花氏だけ逮捕の背景は?

昨年11月の兵庫県知事選挙で再選した斎藤元彦知事が、選挙運動の対価を同県西宮市のPR会社代表の女性に支払った疑いがあるとして公職選挙法違反(買収)容疑で告発、書類送検されていた問題。神戸地検は11月12日、嫌疑不十分で斎藤知事とPR会社代表を不起訴処分にした。

斎藤知事を“2馬力選挙”で応援したNHK党党首・立花孝志容疑者が元県議・竹内英明さん(享年50)の名誉を棄損したとして逮捕されたばかりで、同じ選挙に出馬し告訴・告発された2人に当局は対照的な結論を出した。

「6月ごろからメディアや県政界関係者は不起訴を予想していました」

告発した元検事の郷原信郎弁護士と政治資金に詳しい上脇博之・神戸学院大教授は不起訴処分に対し「納得できない」として検察審査会に申し立てると表明した。

「この問題は昨年12月に郷原、上脇両氏が告発した後、ことし2月に兵庫県警と神戸地検が合同でPR会社や関係先を家宅捜索しています。現職知事の容疑で大掛かりな捜査をしたため捜査当局は本気で立件を考えているとの見方が優勢でした。

しかし6月に県警が関係書類を地検に送ったころには立件への熱意がないことが感じられるようになり、メディアや県政界関係者は不起訴を予想していました」(在阪記者)

県関係者も「検察が現職知事を起訴するのは難しいでしょう。いったん不起訴となった後、検察審査会が異議を唱えるのか、そうなったら検察はどう判断するのかが肝だと思っています」と話す。

疑惑は異例の形であらわになった。

「PR会社代表が、知事選の3日後に斎藤陣営のSNSアカウントの管理を含む広報全般を仕事として手掛けたと受け取れる長文の文章を自身のnoteで発表しました。SNSの選挙活動を自賛し『そのような仕事を兵庫県にある会社が手掛けた』と書いており仕事としてやった、と書いています。

公職選挙法はネットによる選挙運動に対価を支払うことを買収として禁じていますが、これに抵触するとの声があがりました。候補者本人か陣営幹部の有罪が確定すれば当選取り消しもありえるとされます」(地元記者)

「女性は自分の果たした役割を“盛った”だけで…」

その後、斎藤知事の弁護士が沈静化を図るため会見し、PR会社は「ポスターデザイン制作」などの名目で71万5000円をPR会社に支払ったが代表の女性はSNS広報を“ボランティア”として行なったと主張。女性は自分の果たした役割を「盛った」だけで広報の中心にいたわけでもないとし、違法性はないと主張した。

これに郷原、上脇両氏が、71万5000円はネットを含む選挙運動の対価で、斎藤知事は買収罪に、会社代表は被買収罪にそれぞれ当たるとして告発していた。

不起訴とした神戸地検は12日にその理由を説明したと郷原氏は会見で話した。

「(71万5000円が)選挙運動以外の対価であると主張された時に否定できるのか、というところが最終的に(検察判断の)ネックになったようです。

われわれは選挙運動の対価だと立証できるという考えですが、県トップの政治家の事件で起訴するには100%の確信が必要だということに(検察)組織内でなるはずです。その時に、やはりやめておいた方がいいんではないかという判断になることは今までも地方の検察レベルだと結構多かったので、ある程度想定はできたことなのですが」(郷原氏)

郷原、上脇両氏は9月、仮に71万5000円がポスター制作などの代金であったとしても、斎藤知事はこれをPR会社に支払った利害関係を利⽤して会社代表に選挙運動をさせており、公選法が禁じる「利益誘導」に当たるとする追加の告訴状も出していた。だが、検察はこれも「要件に当たるかどうか疑問が残る」として受け入れなかったという。

「買収か利害誘導か、どちらかが成立しているはずだと考えるので不起訴は本当に納得できません」と話す上脇教授は、「今回の事件が不起訴にされると“あれでも起訴されないんだったら大丈夫だ”という間違ったメッセージになってしまう」と主張した。

兵庫県警は9日に、斎藤知事の公金支出疑惑を追及した竹内元県議に対する名誉棄損罪で立花容疑者を逮捕している。知事選後に竹内さんに関する虚偽内容を流布したとの容疑に問われたが、立花容疑者はその前段となる選挙中「斎藤知事はハメられた。主犯は竹内らだ」との内容の演説を繰り返し、竹内さんを攻撃しながら斎藤知事を応援している。

立花氏が逮捕される一方で、洗練されたSNS戦略で斎藤知事のイメージアップを図った側は処分なしとの結果になったことに県議会関係者は「捜査当局は立花容疑者にだけストップをかけた、と感じます」と話した。

斎藤知事はこれまで「法に違反するような事実はないと認識している」と言うものの、具体的な説明は「代理人に対応をお願いしている」と拒み続けてきた。

12日、不起訴が報じられた後もXのポストでは「昨日、県人会のため上京しました。東京の冷え込みは想像以上で、冬が確実に近づいていることを実感しました」と季節の話題にしか触れなかった。

PR会社社長は「誤解を招いてしまったことを深く反省しております」

いっぽうのPR会社社長は同日、発端となったnoteから約1年ぶりにSNS投稿を再開。 

「不正な対価の授受はもちろんのこと、いかなる不正行為の事実も断じてございませんが、私の発信により誤解を招いてしまったことを深く反省しております」と表明した。

買収容疑の不起訴と同時に地検は、2023年の阪神・オリックス優勝祝賀パレード資金を寄付した信金11行に斎藤知事や片山安孝前副知事が公金の不正支出を約束したのではないかと告発された背任容疑や、知事選で争った有力候補の稲村和美氏に対するデマ投稿や稲村氏陣営のSNSアカウントが不審な形で凍結された問題などほか6件も一括して不起訴にしたと発表した。

17日に斎藤知事が出直し知事選で再選してから1年を迎えるのを前に、知事絡みの案件を「一掃」したと県庁では捉えられている。

だが買収容疑は検察審査会にかかって不起訴が妥当か検証される。疑惑を最初に告発しその後自死した元県幹部のプライバシー情報を、斎藤知事が指示し元総務部⻑が漏えいさせた疑惑も消えていない。兵庫県政の混乱はいつ完全に収束するのか。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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