クロちゃんと濱田祐太郎がみせた『水ダウ』 “ドッキリ”の最高到達点…笑いながら涙がこぼれる「クロちゃん企画」が突きつけた衝撃
クロちゃんと濱田祐太郎がみせた『水ダウ』 “ドッキリ”の最高到達点…笑いながら涙がこぼれる「クロちゃん企画」が突きつけた衝撃

テレビは、ときに人間の“深いところ”を見せてくれる。「今週のトガりテレビ」では、テレビウォッチャーの戸部田誠(てれびのスキマ)が、11月12日の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で放送された“サイレントクロちゃん”企画を読み解く。

クロちゃんと盲目のピン芸人・濱田祐太郎が生んだ、思わぬ「言葉の誕生」の瞬間とは――。

「水ダウ」クロちゃん企画が“哲学”に?

水曜日のダウンタウン』のスタジオに伊集院光がいるということは、即ち、“きわどい”説を放送するということだ。

この日のパネラーは、その伊集院に加え、千原ジュニアフットボールアワー後藤輝基高橋ひかるという考えうる最高クラスのメンバーが揃っていた。さらにプレゼンターにはFUJIWARA。盤石の構えだ。

企画は「サイレントクロちゃん」。喉のポリープ手術をして声を出せない状態になったクロちゃんの1週間に密着するという企画だ。病気で苦しんでいる人へのドッキリという側面もあるだけに、その裏にある番組側の意図や革新性にちゃんと気づき、的確に言葉にしてくれるスタジオのメンバーをキャスティングしたのだろう。

声を出せない1週間のスケジュールがスカスカになってしまったからなにかできないか、という事務所側の相談から始まったというエクスキューズもしっかり入れていた。そこにすかさず「ええ事務所というか、悪い事務所というか」というジュニアの一言。盤石だ。

番組ではクロちゃんに対して仕掛けを用意しながら隠し撮り。ニセ警官からの職務質問には、露骨に不機嫌になり、仲の良い福留光帆との食事では、コップの水を飲んで、「あーん、これおしっこじゃなくて聖水!」というノートに書いた文字を見せるなど、「サイレントセクハラ」を繰り返す最低っぷりがあらわになる。

酔っ払った女性から電話があれば、下心丸出しでビデオ通話に切り替え、「うちくる?」と口説くも、拒否されれば激怒。チャンスと見て、ウキウキした表情から一変する落差が凄まじい。

一方で、自身がプロデュースするアイドルグループ「豆柴の大群」のメンバー同士がケンカを始めると、必死に仲裁。親身になって、彼女たちに寄り添い、涙ながらに自分の思いを綴って説得する姿は、とても下心丸出しの男と同じとは思えなかった。

白眉だったのは、濱田祐太郎との対面だ。発売した書籍の握手会イベントで濱田祐太郎と相部屋になるという設定。

濱田といえば『R-1ぐらんぷり2018』王者であり、全盲の漫談家。つまり、喋れないクロちゃんと、目が見えない濱田が、どのようにコミュニケーションを成立させるか、というシチュエーション。

「哲学的なところ入ってきたね」と、VTRを見ている伊集院はこの日一番に身を乗り出して見守る。

それまでは、文字やジェスチャーなど視覚的コミュニケーションで乗り切ってきたクロちゃんだが、ここでは通用しない。モールス信号のように机を叩いて伝えようとするも、当然伝わるわけがない。

障がい者をバラエティで起用すること

ところで、濱田祐太郎が『水曜日のダウンタウン』に出演するのは、2018年5月2日に放送された「『箱の中身は何だろな?』得意な芸人No.1濱田祐太郎説」以来。『R-1』優勝後、いち早くバラエティで彼ならではの特性を活かしたのが『水曜日』だった。

そして今度は、ドッキリの仕掛け人として濱田を起用したのだ。それは常々、濱田が言っていたことだ。障がい者はなぜか「イジられる側」「ドッキリをされる側」になるのが前提なことに違和感がある、と自著『迷ったら笑っといてください』で綴っている。

『R-1』優勝後、「濱田祐太郎を落とし穴に落とせるか?」と書かれたことがあるという。これに対し、濱田は言う。

「俺が落とす側に回ってもええんちゃうか?」

『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日系、2024年6月4日)でも、「『逃走中』には出してほしい。僕がハンターとして捕まえる側で。暗闇ステージとか作ってもらえれば無敵かな」と笑わせていた。

濱田は『R-1』のようなネタだけでなく、自身の冠番組『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABC)でも、「2025日本民間放送連盟賞」のテレビバラエティ部門で最優秀賞に輝くなど、バラエティでも実力を示してきた。にもかかわらず、テレビで相応のチャンスを与えられているとは言い難い。

ならば、制作者の工夫次第で、それまで見たことがなかったような笑いを生み出せる可能性が広がっているということだ。今回、まさに濱田を仕掛ける側に回した『水曜日』は、それを証明していた。

クロちゃんと濱田が出会って15分。ついに2人は机の叩き方の違いによって「YES」「NO」を伝えるというコミュニケーションを“発明”する。2人の間に「言葉」が生まれた瞬間だ。「ヤバいな、これ。グッと来るな」と伊集院。

そこから自身のYouTube動画を流し、自分がクロちゃんであることを伝えたり、手のひらに文字を書くことで会話していくというようにコミュニケーションが“進化”していく。実は、濱田は目の前の男がクロちゃんであることは薄々勘づいていたと、自身のYouTubeチャンネルで語っている。

番組側からは、しゃべることができない人物が来ることは伝えられたが、その理由や誰かは明かされなかった。だが、たまたまクロちゃんがポリープ手術をしたというニュースを知り、そうではないかと思っていたのだ。

それが「悪い」ということでは決してなく、むしろ、濱田の仕掛け人としての優秀さを際立たせる結果となった。まったく知らないフリをして、すべての答えを喋れないクロちゃんから引き出しているのだ。

さらには「お互いにがんばろう」と伝えたクロちゃんに対し、「いやいや、いま『お互い』って言いましたけど、俺、一生なんですよ!」と、見事なツッコミ。

「あっちの濱田もツッコミ上手いなあ」とジュニアもダウンタウン浜田を引き合いにして感嘆していた。

クロちゃんが問いかける「人間とは何か?」

なんとか自身のことを伝えようと懸命に考え、試行錯誤しているクロちゃんの姿は感動的だったし、ついにコミュニケーションが成立し、笑い合うシーンは幸福感に包まれていた。それは、伊集院が言うように「ここでしか見れない、すごいもの」だった。

自分の“言葉”が相手に伝わったときの心底嬉しそうなクロちゃんの満面の笑顔を濱田にも見せてあげたかった。だからといって、下品でゲスでクズなクロちゃんがテレビ用に偽ったキャラというわけでもないだろう。

濱田や豆柴の大群に真摯に向き合うのもクロちゃんならば、下心丸出しで女性にセクハラをするのも、悪態や嘘をつきまくるのも、鼻くそを食べたりするのもクロちゃんなのだ。

番組を演出する藤井健太郎は以前、過去にこんなツイートをしていた。

「クロちゃんは人間の業を煮詰めたような存在で、誰もが持ってる『欲』や『みっともなかったりカッコ悪かったりする部分』が過剰に表に出ちゃっている人。だから、その一番の異常性は『他人からどう見られるか』を完全に無視できる所だと思う」(2018年11月14日)

そして、安田大サーカス団長安田もクロちゃんをこう評している。

「クロちゃんが言ってることってね、人間の奥底で、こんなん言ったらアカンっていうような本性なんですよね。みんなが思ってるけど言わへん、こんなことやったらアカンなっていうのを、全部、フィルターゼロ人間みたいな感じなので。それがクズっていえば、クズですけど」(『八方・陣内・方正の黄金列伝』2020年11月29日)

そう、良いことも悪いこともすべて剥き出し。

いわば、“誇張した「人間」”のような存在なのだ。深淵を覗くと、そこにクロちゃんがいる。『水曜日のダウンタウン』でクロちゃんは、「人間とは何か?」と問いかけてくるのだ。

ちなみにこの日、いちばん人間の業を煮詰めたように“悪かった”のは、豆柴の大群の解散の危機を、必死の訴えで回避し本気で涙を流すクロちゃんを見て、「後ろから殴りたいわ」と漏らした浜田雅功に違いない。

文/戸部田誠(てれびのスキマ)

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