少子化が加速する日本では「子持ち」と「子なし」の分断が起きている。そんななか、若い頃は「子どもを作るのはエゴで、ダサい」と思っていたある男性は、父となって人生観が一変したという。
『ぼくたち、親になる』より、一部抜粋、再構成してお届けする。
子供を作らない人は「エラー値」
井戸善行さん(仮名、44歳)は、2度目の結婚でふたりの子を授かった。いずれも体外受精で、一男一女、取材時点で5歳と2歳である。住まいはいわゆる都心5区のタワーマンション。共働きで、子供はふたりとも0歳から保育園に預けている。前妻との間に子供はない。
井戸さんの仕事はビジネス系大手メディアの記者だ。30~50代のビジネスマンでそのメディアを知らぬ者はないだろう。
彼の印象をひと言で言うなら「切れ者」である。少し雑談しただけで、膨大な読書量と情報収集量がうかがい知れる。ビジネスだけでなくカルチャー、人文系の知識や見識も厚い。つまり教養がある。
ただ、やや断定的で淀みなく自信に満ちた口調は、人によっては「圧が強くて苦手」という印象を抱くかもしれない。もし彼がジャーナリストとして独立し、論客にでもなれば、味方と同じくらい敵を作るに違いない。そんな余計なことまで想像してしまった。
井戸さんは開口一番「20代の頃、子供を作るのはダサいと思っていた」と言った。その考えはいつ、どのようにして変わったのか。
子作りとはエゴである
若い頃は「子供を作るのはダサい」と思っていました。エゴだと感じていたからです。
だって、子供の人生に責任なんて取れないでしょ? なのに作るなんて、自分勝手じゃないですか。成長して人殺しになっちゃったら困りますし。そんなことまで背負えない。
人殺しだなんて極端過ぎると思われるかもしれませんが、当時はそこまで考えていました。
自分の子がどう育つかなんてわからないし、制御できない。そもそも親とは別人格の他人なんだから、制御できると思うこと自体、傲慢です。
にもかかわらず、世の中には、自分の子にはこうなってほしい、こういう仕事に就いてほしい、なんなら孫が欲しいなんて言い出す人がいる。そんなの自己愛でしかない。当時はそういう人を「気持ち悪い」とすら思っていました。
要は、皆、流されてるんだとバカにしていたんです。結婚したら子供を作るもの。なんとなくそれがいい。深く考えず、みんながそうしているから、そうしている。
子供を作るなんて何が面白いんだろう、そこまでの価値があるのかなって、当時は純粋に疑問でした。
我が子が人殺しになったとしても「しょうがない」
だけど、1度目の結婚が破綻したあと、子供を作るのは生きていく上で実は重要なんじゃないかと思うようになりました。理由は大きくふたつ。
ひとつは、僕の妹の変化です。妹は昔は、人間的におもしろいとは思えない奴だったんですけど、子育てをするようになったら、人間としての魅力がぐっと増したんです。
もうひとつは、言うのも恥ずかしいですが、今の妻を愛しているから。
前の妻を愛していなかったわけではありません。でも、子供が人殺しになっても「しょうがない」と思える相手ではなかったのは確かです。もし「しょうがない」と思えることが愛だと言うなら、前の妻のことは「愛していなかった」んでしょう。
前の妻と結婚していた20代の頃は、頭を使って考えすぎだったと思います。離婚して30代も半ばを過ぎ、ようやく現実と向き合うようになりました。今では、若いうちから子供を作って育てている人のことを、心からすごいと思います。
喪失感はない
我が家のオペレーションを軽く説明すると、子供ふたりの保育園の送り迎えは妻の担当で、妻がどうしても行けないときは僕。僕も妻もリモートワークOKの会社なので、平日の日中にふたりとも家にいるときは、一緒に外へ昼食を食べに出ます。
夕食作りは妻担当で18時ごろ。子供ふたりに食べさせるのは大変なので、僕は極力、夕食の時間には家にいるようにしています。洗濯は僕が担当で、洗濯機を回して、乾燥機で乾かして、畳むまで。
先日、妻がかなり深夜まで仕事をしていたので「健康上やめたほうがいい」と言ったら、結婚後初めて妻が僕に怒りました。あなたは自由に仕事してるのに、私だけ制限してずるいと。もっともです。反省して、月曜日の夕食作りだけは僕の担当にしました。献立を考えるところからです。
当然ですが、子供が生まれる前に比べて自分に使える時間は激減しました。こんなにも夜に出かけられないんだというのは正直想定外でしたし、好きな映画も全然観られなくなりました。
結婚して子供ができたことでインプット時間が減り、仕事に支障が出る――という人がいるじゃないですか。知り合いの作家さんの中にも、「子供ができてから数年間、本をまったく読めなかった」という方がいます。確かに僕もインプットは減ったと思います。
だけど、喪失感はまったくないんです。
特に4歳くらいまではめちゃくちゃいい時期です。子供が文字どおり日々進化する。できることや語彙が、毎週・毎日のように増えていく。
僕がリモートワークの許される職場で良かったですよ。毎日会社に行っていたら、この面白さが感じられない。あまりにもったいないです。
それに子供と触れ合っていると、自分が育ってきた「舞台裏」を見ている気になるんです。
たとえばクリスマス。子供がサンタ宛てに「プレゼントに何が欲しいか」の手紙を出すんですよ。親が代筆して。で、イブの夜、子供が寝てる部屋にそーっと入ってプレゼントを置いて、そーっと出る。
子供ができてからの生活の変化は避けられないけど、そんなこと以上に、引き換えとして得るもののほうが多かった。喪失感がないというのは、そういう意味です。
そういうのがあっても面白いんじゃないか、程度
ただ、「子供は親とは別人格の他人」という考え方は変わっていません。
親が子供の世界にいられるのは、いいとこ8歳、9歳まで。それ以降は外の友達同士で作る「あっちの世界」の住人になってしまう。
これは、親には止められない。子供はいつか親から離れていくし、目の前からいなくなる。制御はできません。やっぱり別人格の他人なんです。
だから僕は、子供が将来どんな仕事に就こうが一向に構わないし、もし人を殺しちゃったら殺しちゃったで「ごめんなさい」としか思わない。
そういう意味で僕は、子供を愛してはいるけど、過剰な期待はしていません。夫婦が共同生活をしていく中でのスパイスくらいに考えています。「そういうのがあっても面白いんじゃないか」程度。
だから、親に向いていない人というのが明確にいる、と思うようになりました。
たとえば、自己愛で子供を育てている人。あるいは、自分のコンプレックスを子供の人生で解消しようとする人。自分が就けなかった職業に就かせようとしたり、行けなかった学校に行かせようとしたりする人。
子供にたんまり時間やお金をつぎ込んだのだからと、思い通りに育たなくて苛立ったり、いつまでも子離れできない人がいるじゃないですか。彼ら、彼女らは、子供を育てるということについての理解がないまま、子供を作っちゃった。正直、バカなんじゃないかと思います。
いいとこ10年、15年くらい面白いってだけですよ。子育てなんて。
文/稲田豊史 サムネイル/PhotoAC
『ぼくたち、親になる』(太田出版)
稲田豊史
残酷で切実!
超少子化時代に耳を貸すべき
父親たちの不都合な本音。
Web連載時に賛否両論巻き起こした話題沸騰のルポルタージュ、待望の書籍化!
ある男性は「自分の職業にとって、子育てはハンデだ」と言った。
ある男性は「子供が生まれた時点で妻への愛情はゼロになった」と言った。
ある男性は「人間は子供を作って当然。作らない夫婦には問題がある」と言った。
ある男性は「少子化の原因は“女性の幼稚化”だ」と言った。
ある男性は「キャリアの天井が見えたから子供を作った」と言った。
ある男性は「実験のために子供を4人儲けた」と言った。
ある男性は「神様、どうか子供ができませんように」と祈った。
ある男性は「子供がいる人といない人では、根本的に理解し合えないのではないか」と逆質問してきた。
ある男性は「自分の気を狂わせないために、“変化し続ける”対象として子供が必要だった」と語った。
令和の日本で子供を持つ/持たない男たちのビターな現実が今、白日の下に晒される。
それでもあなたは子供を作りますか?

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